気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

映画『KING OF PRISM by PrettyRhythm』応援上映におけるヤジ問題について(直球)

2016年4月12日(火)のフジテレビ「めざましテレビ」にて、『KING OF PRISM by PrettyRhythm』の応援上映が紹介された。この番組が放送される前から、この応援上映における他人を不快にさせるような心ないヤジが問題になっていた。

KING OF PRISM by PrettyRhythm 愛をいっぱい届けよう!プリズムスタ応援上映とは

プリティーリズムとは

フィギュアスケートに似た架空のエンターテインメントスポーツ・プリズムショーに打ち込む少女達と彼女達を取り巻く人々の心の交流を描いた作品。基本的に生来的に悪である存在がなく、でも、誰しも心のどこかに闇を抱えているというような世界観の作品。失敗や悪いことをしても、「プリズムの煌めき」が人の心を救ってくれる。

KING OF PRISM by PrettyRhythm(以下、キンプリ)とは

第3期プリティーリズム・レインボーライブのスピンオフ作品。レインボーライブの男子キャラクターのその後を描く。プリズムショーを全く知らない主人公が登場し、先輩キャラクターが主人公を「プリズムの煌めき」へと導く。


「愛をいっぱい届けよう!プリズムスタ応援上映」とは

ファンが、通常の劇場マナーを超えて、登場人物を応援することができる上映会のことである。公式ウェブサイトには、コスプレやペンライト・サイリウム灯の使用が可能であると記載されていて、本編中に観客が字幕を見て声を当てる部分もあり、そこの部分だけ声を当てることが可能であると書かれている。ただし、実際には歌舞伎役者という設定の太刀花ユキノジョウが登場した時に「よっ!国立屋!」と屋号を叫んだり、ライバル校であるシュワルツローズ*1の集会のシーンで、シュワルツローズの人物たちが叫ぶ「グロリアス・シュワルツ!」という掛け声を演者の声に被せて叫んだりしている*2。こうした気の利いたヤジは、公式によって容認されている。特に、グロリアス・シュワルツの掛け合いは菱田(正和)監督も気に入っているようで、各所で使っている*3。だが、上映会タイトルにある通り、この上映会は愛を届けるものであり、ヘイトや自分が言いたいだけのセリフはそもそも趣旨に反する。

 

応援上映の説明はこちら

 

NEWS | 「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」公式サイト

 


キンプリ応援上映CM・30秒/MC:アレクサンダー(cv武内駿輔さん)

 


声援OK!コスプレOK!アフレコOK!劇場版「KING OF PRISM」プリズムスタァ応援上映PV


古参ファンと新参ファン

キンプリのファンは大きく分けて、次の4種類(細かく分ければ12種類)に分かれると考えられる。厳密に言えば、筐体ゲームをやっているか、ニンテンドー3DSのゲームをやっているかも考慮する必要があるが、今回は単純にテレビシリーズの放送時期で分類する。第0期はテレビシリーズ放映前のプリティーリズム・ミニスカートの筐体が展開されていた時代、第1期はプリティーリズム・オーロラドリーム、第2期は同じくディアマイフューチャー、第3期はレインボーライブ、第4期はオールスターセレクションである。その他、劇場版『プリパラ』もあるが、本編が終了していることに代わりはないため、新参ファンに分類する。第2期に関しては、特別に未視聴者の枠を設けた。

第0期〜第4期古参ファン
第0期〜第4期脱落者
第2期未視聴者

新参ファン

 

古参ファンと新参ファンの作品への解釈・感想(として筆者が想定しているもの)は以下の通りである。

古参ファン

私の愛したプリティーリズムに再び出会えるので嬉しい。多くのシーンは旧作を意識したものであり、長年追ってきたファンとして嬉しい。応援上映プリティーリズムやプリズムショーへの愛を届けるものである。

新参ファン(新規ファン)

奇抜な映画で奇抜なキャラが奇怪な行動をしているのでおかしい。ツッコミどころが満載だ。応援上映は面白いヤジが聞けて楽しいし、ストレス発散になってとてもよい。

 

このように、古参ファンと新参ファンではまさに生きている世界が異なる。もちろん、古参ファンがすべてこう、新参ファンがすべてそうと言っているわけではない。古参ファンの中にも狂気に溢れたおかしな作品だと思っている人はいるだろう。あるいは、少女のキャラクターが好きだったので、少年しか出てこない今作が気に入らないという古参ファンもいる。新参ファンの中にも、感動したという人はもちろんいる。こうした解釈の違いを生むのは、個人が観た作品と参照したメディアである。


解釈の違いによるエラー

観た作品によって解釈が変わる

キンプリは旧作のオマージュを取り込みつつも新しいこともした、古参ファンと新参ファンの両方が楽しめる作品である。そもそもプリティーリズムシリーズは4つのテレビシリーズからできている。どこから入ったか、あるいは、どこで抜けたかによって視聴者の知識にばらつきが出る。第2期に関しては、韓国が大きくテーマに関わる作品*4であり、当時(2012年)は韓国へのヘイトの最盛期であったため、第2期だけ観ていないという人も多く存在する*5。こうした視聴作品の違いは、キンプリの解釈においても大きな違いを生み出す。例えば、劇中で神浜コウジが跳ぶ「はちみつキッス」というプリズムジャンプは、プリティーリズム・オーロラドリームにて、変わるまいと堅い意志を貫いてきた秋葉原のカレー屋の店主の心を変えさせたジャンプである。キンプリの文脈においては、青臭い一条シン(別に頑固ではないが)の心から臭みを取る狙いがあったという解釈が可能だ。しかし、第2期以降の古参ファンはその由来を知らず、第3期以降の古参ファンに至っては、はちみつキッスというジャンプすら見たことがない。そうなれば、「コウジの尻からはちみつが出てきた。おかしい。なんだこれは?」という感想が出ることにも頷ける。本題に戻ろう。応援上映という文脈においては、新参ファンを中心に、心ない野次が飛ぶこともある。今回広く問題になっているのが、プリズムショーを振興しようと奔走している氷室聖*6に対する心無い野次だ。聖は法月仁のせいで窮地に陥ったエーデルローズの赤字*7を埋めるため、日々努力している。にもかかわらず、赤字の決算書が出ているシーンで「真面目に働け!」などと叫ぶ人がいる*8。もちろん、氷室聖という人物は実在しないわけで*9、画面の中の彼がショックを受けることもない。しかし、周りで一緒に観ている古参ファンにとっては心外であり、もしかしたらお忍びで来ているかもしれないスタッフやキャストにとっても許しがたいであろう発言である。観ていないのだから仕方ないとは思うが、応援上映に何度も行くまでにキンプリを愛してくれるのであれば、プリティーリズム本編を観てほしいものだ。


メディアによって解釈が変わる

ファンが作品の感想、あるいは公式の見解を拾うメディアによっては、アニメの解釈に大きく影響を与える。第一に、作品の感想を拾うメディアによっては、作品のイメージや解釈が変わる可能性がある。2ちゃんねるニコニコ動画のライブ感あふれる実況では、公式が「ネタ」として用意していないものが「ネタだ」と書き込まれたり、場合によっては、キャラクターに対するヘイトが書き込まれたり場合がある*10。そのため、元々穿った見方で作品を観ていて、キンプリでも穿った見方で応援をしてしまうこともありうる。プリティーリズム・レインボーライブの本編の傑作選を上映するオールナイト上映*11では、蓮城寺律*12に対して、「クソババア」と叫んだ人がいるという*13プリティーリズムに純粋な悪役がおらず、失敗を許容する文化であるということを真に理解していれば、こうした問題発言は起こらなかった。

第二に、公式によって、あのシーンの真意はこうだったという弁明が示されることがある。しかし、その弁明を知らない人は、公式と真逆の解釈を持つ可能性すらある。これは雑誌の「お宝インタビュー」が生み出した功罪であるが、こればかりは、公式に責任があると言わざるを得ない。これまでは作品を支持してくれるファンのみに向けて、本当のことを話せばよかったのだが、新規ファンが大量に増えてしまった。そのため、本当のことを知らずに作品を観ている人が多くいるのだ。もちろん、ネットで無料で見られる記事もある。しかし、よほど能動的なファンでなければ、ネットに情報があったとしても見ないだろう。例えば、十王院財閥の御曹司・十王院カケルが総資産200兆円を誇る十王院財閥の新商品を紹介するシーンで、「親のカネだろう!」というヤジが飛ぶらしい。しかし、十王院カケルは十王院ホールディングスの役員という設定になっていて*14、自分でも仕事をしている。親のカネだなどという失礼なことをいうのはまずい。もし十王院財閥が実在していたら、そうしたヤジを飛ばす人は社会的に消されてしまうかもしれない。いずれにしても、設定を知らない人がいるせいで不快な思いをする人がいるのであれば、基本設定の周知徹底を図れていない公式の罪はそれなりに重い。


視野を広く持とう

こうした悲劇を繰り返さないためにも、新規ファンは作品を深く知ることを、古参ファンは新規ファンが何を知らないか把握することを徹底し、公式側も、情報媒体のマルチ化や公開する情報の優先順位の再検討などをして、それぞれが宥和を図っていく必要がある。

みんなに言いたいことがありまーす!

 

レインボーライブから始めてもいいので、ディアマイフューチャーまで3作全部観てくださーい!

 

*1:プリティーリズム・レインボーライブでは、アパレルショップ所属の主人公チームに対して、エーデルローズと呼ばれる闇に包まれたアカデミーのチームがライバルとして立ちはだかった。その後、エーデルローズは浄化され、主宰の法月仁はエーデルローズを去った。しかし、父の死後、仁はさらなる闇のアカデミー・シュワルツローズを設立する。

*2:otacco[おたっこ] - オトナになったオタク女子のための情報サイトより

*3:キング・オブ・プリズム「プリズムエリートの集い~福岡編~」レポート | N-Styles

映画「キンプリ」ファンの応援で「お通夜」からの奇跡の復活トークイベントレポ - エキレビ!(1/5) 

*4:プリティーリズム・ディアマイフューチャーは、プリティーリズム・オーロラドリームの3年後の話であり、日本の少女達と韓国の少女達の国境を越えた友情を描く。韓国要素は、ケンチャナなどの簡単な言葉や、(少女たちが料理をする回で)焼肉やサムゲタンの名が出てくる程度である。決して韓国語や韓国の文化を無理やり日本人に刷り込むものではない。

*5:もちろん、韓国だけが視聴をやめる理由ではない。

*6:元プリズムショー協会会長で現在のエーデルローズの主宰。プリズムショーを盛り上げるため、様々な大会を主催する。素晴らしい演技をしたにもかかわらず、ルールブックにない技なので採点されない、などの不正義にも果敢に立ち向かった。トップスタァの天羽ジュネのコーチでもあり、ジュネとは恋人関係にある。

*7:亡くなったエーデルローズ創始者・法月皇の遺産をほぼ全て仁が相続し、赤字だけが残った。

*8:筆者も現場で確認済み。

*9:同姓同名の方がいたら申し訳ない。

*10:たまたま番組や動画を初めて観た人がそう書き込んでいる可能性もあるが、わざと穿った見方をしている人もいる。

*11:一夜に及ぶハードな上映会であるため、ほとんどの客が古参ファンであると仮定する。

*12:蓮城寺べる」の母。娘を大切に思うあまり、娘にヴァイオリンや外国語などの英才教育を施し、娘への心からの愛を見失っていた。一部の能力者しか使えない技・プリズムライブを高級なパーティーの場で娘に披露させようとしたが、娘にはそれができず、娘を絶望させてしまった。

*13:その場に居合わせていないため、真偽のほどは定かではない。

*14:『キング オブ プリズム』連続キャラインタビュー:十王院カケル | アニメイトTV