気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

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トランスジェンダーの人が心の性に従ったトイレを使うという衝撃(批判記事ではありません)

この記事はこれまでジェンダーセクシュアリティ研究に触れてこなかったシスジェンダーの男性が訓練のために書いたものです。どうか生暖かく見守ってください。

 

 

アメリカで発生したトランスジェンダー論争においては、同じ人間なのに、肌の色の違いだけで差別を受けるのはおかしい、という黒人解放・人種差別撤廃の論理がそのままトランスジェンダーに適用される形となった。つまり、同じ男性(女性)なのに、体の違いだけで差別を受けるのはおかしいという話だ。トランスジェンダーやXジェンダーの人々はこれまで、肉体や性自認の違いにかかわらず、全て第3の性として扱われてきた節がある。日本でも、トランスジェンダーの児童・生徒・学生には、多目的トイレや職員用トイレの使用が、政府により求められており、他の男子や女子とは別の存在であるというコンセンサスが実質的に形成されている*1

 

一方、アメリカでは、性自認に従ってトイレを使用することの是非が論争を巻き起こしている。ノースカロライナ州シャーロット市では、新しく制定された条例によって公共の場所でのLGBT差別が禁止され、トランスジェンダーの人々が自分が認識する自分の性別のトイレを使用できることになった。ところが、ノースカロライナ州では逆に、戸籍の性別(肉体の性別)に従って、トイレを利用することを義務付ける法案が提出されてしまった。日本で言えば、(あくまでたとえだが、)渋谷区で同性婚に準じたパートナーシップ証明書を出しているにもかかわらず、東京都が同性愛を禁止したようなもので、渋谷区の制度は無き物となってしまう。いずれにしても、訴訟大国アメリカにおいて、シスジェンダートランスジェンダーの利益が真っ向から対立してしまった事実に変わりはない。

 

トイレ騒動を取り巻く問題

そもそもトランスジェンダーに対する理解が進んでいないという問題

トランスジェンダーに対するシスジェンダーの人々の理解は芳しくないと思う。筆者自身、国際関係学専攻だったため、マイノリティのことはだいたいわかっているつもりだった。しかし、トランスジェンダーが主に手術していない人を指すことは知らなかった。実際、日本では、テレビのバラエティ番組で「オカマ」が滑稽で面白いものとして表現されてきたし、女装コスプレや男の娘といったサブカルチャーも発展してきており、男性の肉体を持つ女性が見て・消費して楽しむものと化しているという節がある。もちろん、これらはすべて別の概念であり、トランスジェンダーの人を「オカマ」や「オナベ」と呼ぶとすれば、それはあまりにも配慮に欠ける。もちろん、バラエティ番組に対する「嫌い」が、バラエティ番組が表現した「オカマ」に転移する可能性もある。気持ち悪いと判断されれば、侮蔑される可能性もある。あるいは、そもそも第3の性であることすら認められず、肉体の性としてしか扱われないケースもあるだろう。男の子が遊びで女の子を演じていると思われるかもしれないし、男勝りな女の子だと勘違いされるかもしれない。挙げ句の果てには、「いつ女房を連れてくるんだ」とか「早く結婚して子どもを産め」とすら言われるのかもしれない。教育機関や職場がトランスジェンダーへの認知度を高めていかなければ、彼らが理解されないまま、社会から排除されてしまう恐れがある。

そもそも、ジェンダーセクシュアリティ研究という分野自体、誤解の塊だ。筆者自身、かつてこの分野をラディカル・フェミニズムと混同していて、この分野に足を踏み入れれば、「男は悪だ」「女性が差別されてきたのは男性のせいだ」という話を延々とされるものだと思っていた。大学ではこの分野の授業は受けず、ある時TL上に流れていたツイートを見て、初めてシスジェンダーの概念を知ったぐらい、この分野において無知だった*2。逆に、公共政策の授業などでジェンダーセクシュアリティの分野をよく知らずに無意識に男性差別的な政策提言(内容は忘れたが)をしている女子学生がいて、その時はさすがに、偏った内容だと指摘を受けていたように記憶している。

 

性犯罪に悪用される可能性

トランスジェンダーが自分の心の性のトイレを利用することを許せば、性犯罪に悪用されるという形で(主に女性から)恐怖からの自由を奪ってしまう恐れがある。危険な男性*3のいない聖域に、男性の肉体を持つ人が来ることが許されることで、女性の身の安全が侵されるというのだ*4。もちろん、これはトランスジェンダーの女性が危険というわけではなく、トランスジェンダーだと偽った男性が侵入した場合の話だ。一方で、こうした危険への畏怖は過剰であると言えないこともない。なぜなら、シスジェンダーの男性が女性と偽り女子トイレに侵入して性犯罪を行ったというケースはあまり見受けられないからだ*5

 

「女装」で女子トイレを使うことの是非

トランスジェンダーの女性が女子トイレを使う上で、女装した男性との区別がつかないという問題がある。「女装した男性」が女子トイレに「侵入」して逮捕されたケースがある*6。この場合は、女装をしていたので女子トイレを使ったという供述をしている。肉体が男性の人が女性のコスチュームをしているということが女子トイレを使う上で不利な条件になるとしたら、それはトランスジェンダーにとって問題だ。だが、女装コスプレ*7トランスジェンダーの女性が心の性に合わせて女性の服を着ることは本質的に異なる。女装コスプレは女の子に「なりきる」ものだが、トランスジェンダーの女性は女の子そのものだ。女装コスプレの場合の「心」というのは、その服を着ている女性や女性キャラクターの気持ちを演じたものであって、その人自身が「私は女性だ、女性でありたい」と思っているわけではない。この場合、男子トイレに入ることに抵抗があるならば、多目的トイレを使うしかない。

もちろん、トランスジェンダーの女性でも、自分がちゃんと女性として見られているか心配だという人もいるかもしれない。実際に、「トランス初期段階」での心の性にあったトイレの使用を勧めないというサイトもある*8。見た目や仕草や雰囲気が体の性に近い場合、あなたの性が体の性として認識されやすいというのだ。現状、日本でのトイレ法の法制化が進まない限り、承認されること*9が異性のトイレの利用条件になりそうだ。

 

心は女性と偽ったシスジェンダーの男性が強姦目的で女子トイレに侵入するケース

たしかに、男性が強姦目的で女子トイレに入り込んだケースはあるようだが、女性と偽ったという記述はない(米フロリダ州で79歳女性に40歳前後の男が強姦未遂 - ライブドアニュース)。その他は、アダルト動画のサイトしか見当たらず、このケースが頻発しているかは不明だ。もちろん、男女共用や男子トイレに連れ込む形で強姦に至ったケースはあるものの、いずれにせよ、女子トイレにトランスジェンダーの女性が入ることを許したら強姦が増えるという具体的な証拠はない。増えるとも減るとも言えないので、単純に女子トイレに侵入して強姦した場合や女性と偽って侵入し強姦をした場合など、ケースに応じた法改正などの検討が必要だ。逆に、FtMの男性が男子トイレを利用して性被害に遭ったというケースも、筆者が確認した限りでは、存在しなかった。どちらの場合でも、証拠や前例がないのにあたかも危険かのように報じてしまうのは尚早である。検証するためには、特区*10を使った実験をして検討する必要がありそうだ。

 

女性と偽ってトイレに忍び込み、盗撮用カメラを設置するケース

盗撮に関しても、見つかれば逮捕され、刑事罰の他に社会的な制裁を受ける。それが犯行阻止のインセンティブになるとは言えないが、盗撮魔が全て野放しにされるわけではないことは指摘しておく。こちらに関しては、実際に女装して女子トイレに侵入して盗撮を試みたケースが存在する*11。男性による女子トイレの盗撮自体は残念ながらありふれた犯罪だ。しかし、女性と偽ったケースは多くない。これから増えていくのかといえば、どちらとも言えない。もしかしたら、トランスジェンダーの女性が違法な業者に協力してカメラを設置するというケースもあるのかもしれないが、今のところ、それは憶測に過ぎない。

 

もっともトイレに恵まれない人は衛生的・性的な危険に晒されている

あまり関係のないことだが、国際関係学を学んできたものとして入れないわけにはいかないと思ったので、無理やりここに、この話を入れる。国連が示した持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)では、トイレの重要性が示唆されている。SDGsは国連ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)の後継に当たる。実行期限の2015年がきて、残念ながら解決に至らなかった開発目標を新しいものに更新することになってしまった。その特設サイトには、SDGsに掲げられている17の目標が示されていて、そのうちの1つが”Ensure access to water and sanitation for all(すべての人に水と衛生へのアクセスを保障する)”というものだ。日本ではトイレを使うことは当たり前の権利だが、世界にはトイレを使用できない人が10億人いる*12。野外で排泄をする行為は壁や鍵で守られていない空間に性器を晒すことにつながる。野外で排泄をしようとした女性が性被害に遭うこともあり、トイレはまさに人間の安全保障や尊厳の問題である。もちろん、野外排泄は衛生的ではなく*13国連も推奨していない。我々先進国の市民が当たり前のように使っているトイレ(衛生的な便器、トイレットペーパー、手を洗うための上水道、排泄物を流すための下水道を含む)は、最も恵まれない人々にとっては身の安全や健康を守るために必要なものなのだ。話のスケールが大きくなってしまったが、トランスジェンダーの人々が希望のトイレを使用できないならば、トランスジェンダーの人々からそうした生きるために必要な権利が奪われているに等しい。つまり、心の性に沿ったトイレの使用を認められない人々は、尊厳と身の安全を守るという根源的な権利を侵害されているのだ。リンチ米国司法長官の言葉を借りれば、変化に対する恐怖から抜け出すために行動するのではなく、トランスジェンダーの人々を受け入れるために行動するときだ*14。これはアメリカ特有の精神ではなく、世界に普遍的な精神のはずである。

www.un.org

 

 

トイレの機能に関する問題

トイレの機能は男女で異なる。一般的には報じられていないが、トイレ問題を調査していく中で気づいたのでまとめておく。男子トイレが排泄行為に特化しているのに対し、女性のトイレの機能は化粧からプライベートな事柄まで様々だ。男女のトイレの設備で一番大きな違いは、男子トイレの小便器だ。男子トイレにおいてシスジェンダー男性の一番の問題は、性器を他人に見られる可能性にある。相手の心が女性だとわかっていても、肉体が女性の人に性器を見られてしまう(可能性がある)のは、多くのシスジェンダー男性が気にすると思う*15。小用に関して言えば、男子トイレの個室には音消し装置が設置されていないので、音が響いてしまう恐れがある。もちろん、中に「女性」がいるということがわかり、トランスジェンダーの男性が性暴力を受ける可能性も否定はできない。そもそも、学校などで年次が低い(ひどい場合は高校生まで)と、「個室に入る」=「大」だと思ってしまう。そうした違和感からいじめられるケースも考えられるだろう。個室の数が少ないのも問題だ*16。また、立っている状態での女性の排尿をサポートする器具もあるようだが、男子トイレにおいてのSRSを受けていないトランスジェンダーの男性による使用の是非に関する記事は見られなかった。男子トイレにはサニタリーボックスがなく、ペーパーを捨てるためのゴミ箱がある場所も限られている。尿が付着した道具が蓋のされていない容器に放り捨てられるのは衛生的に問題だし、プライバシーに関わる。あるいは、洗面台も広くなく、数も多くない。化粧自体が男性の間で広く認められた文化ではない(整髪料を除く)ので、もし化粧をしたら白い目で見られてしまう*17だろう。

逆に、女子トイレには、化粧を想定して洗面台スペースが広くなっているはずだ。おそらく、親しい間柄ではない「男性」にすっぴんや化粧途中を見られるのは気持ちの良いことではないだろう*18。もちろん、女子トイレは全部個室なので男子トイレのように性器を見られることを羞恥する必要はない。しかし、どちらにしろ、排尿時には問題が発生する。男性器から排尿する音と女性器から排尿する音が異なるためだ。音消し機能を使わずに排尿をしたために、「男性」として認識されてしまったケースもあるようなので、注意が必要だ。また、男性に比べて個室の外で行う事柄が多いため、女性としての通用度合いが低いと、シスジェンダーの女性によって「男性」と認識され追い出されるリスクが高い。

 

「トイレ法」で何が変わるのか

ここからは勝手な予想や願望が含まれたパートなので、読み飛ばしてほしい。

トランスジェンダーの人々が自分の希望する性別の設備を利用できる

これまでは、「あなたの体は女性なのだから、男性と一緒のトイレには入れない。多目的トイレを使いなさい。」「あなたの体は男性なのだから、女湯には入れない。個室でシャワーを浴びなさい。」とされてきた人々が(理想通りならば、)優しく受け入れられる。もちろん、今はアメリカのノースカロライナ州だけだが、法律が適用されない地域でも、トランスジェンダーがどの性別の施設に入るかについての議論は活発化するだろう。いずれは日本にもその波が来るかもしれない。日本の場合、個別の人の人権を守るよりも全体に迷惑をかけない全体主義が強く主張されやすいため、今後の動向を注視する必要がある。


トランスジェンダーが社会に包摂される

これまで、男とも女とも違う別の存在とされてきたトランスジェンダーが、自分が希望する男性や女性の社会に入り込むことができる。トイレという社会生活の根幹にある施設について規定する行為が、トランスジェンダーが所属する社会について定義することにつながる。これまではどちらでもない第3の性であったトランスジェンダーが、体の形は違うけれど同じ男性・女性なんだと受け入れてもらえる社会になる*19ことが期待できるのだ。これまでは、例外規定により社会のきわどい位置にいた彼らがどれだけ社会の中心に近い場所に来られるかは重要な問題だ。

 

トランスジェンダーが社会の重要な位置に立つ

トランスジェンダーが社会において重要な役割を果たすことは大いに期待される。その特殊な立ち位置が肯定的に捉えられた時、それは男性と女性のことを中立的に考えられる*20というアドバンテージに変わるし、今回のトイレ騒動を通じて一定の発言力を獲得すれば、社会を変えることが容易になる。そういった可能性に満ちた人々を、「気持ち悪い」と言って捻りつぶすのは、前近代的な発想ではないだろうか?

 

たまたまTwitterで紹介されていたヒューマンライツウォッチのレポートがあまりに衝撃的だったので、問題について調べたところ、筆者はアメリカのトイレ論争にぶち当たった。つまり、日本でも問題が指摘されているというのが現状であり、いつ日本で論争が起こるかわからない。まだまだ勉強が必要そうだ。

 

↓Q&A方式で書き直したもの 

popncandyrocket1ban.hatenablog.com

 

*1:ちなみに、筆者がこの問題に出会ったきっかけは、ヒューマンライツウォッチが出した日本の教育におけるLGBTへの待遇に関するレポート(「出る杭は打たれる」 | Human Rights Watch)であり、そこに「トランスジェンダーの生徒が多目的トイレを使わされるのは人権侵害だ」という趣旨の記述があった。

*2:国際関係学や政治学・法学などのアプローチから女性について触れたことはある。

*3:男性全てが危険と言っているわけではない。男性の中に危険な人もいるということだ。

*4:尤も、女性ホルモンを服用し続けた場合、トランスジェンダーの女性は性器が萎縮して強姦を行えないはずだが。

*5:このパートでは、既存の法律が規制をしているので、犯罪に悪用される可能性は低いという主張(トランスジェンダーはどのトイレを使うべき? 米で議論白熱 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News)をあえて所与としない。法律による負のインセンティブは絶対とは言えないからだ。

*6:全文表示 | 女装しているのだから女子トイレ使って何が悪い 62歳逮捕男の何とも妙な理屈 : J-CASTニュース

*7:ここでは、シスジェンダーの男性が下着を含む女性の衣服を身につけて、女性や特定のキャラクターを演じることを指す。

*8:女子トイレ使っていいの? 性同一性障害と女子トイレ① | 女性化ガイド~元男性が女になる方法~

*9:日本の建造物侵入は、建物の利用が管理者の意思に反する場合をいう。

第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する(刑法)。

つまり、管理者がトランスジェンダーを差別している場合、管理者の意思に反しているため、正当な目的で利用していても逮捕される可能性がある。

*10:ただし、シャーロット市が先駆的に取り入れれば、シャーロット市が前例になる。

*11:トイレ盗撮目的で女装し侵入容疑 横浜、松本市職員を逮捕 :日本経済新聞

*12:別の試算では、24億人がトイレを含む基本的な衛生設備にアクセスできない

*13:不潔に感じるから精神的に嫌だというレベルではなく、自然界に便が垂れ流されているため、感染症から死に至るケースもあるようだ。世界中で18億人が便の成分が含まれた汚染水を飲んでいるらしい。

*14:Attorney General Loretta E. Lynch Delivers Remarks at Press Conference Announcing Complaint Against the State of North Carolina to Stop Discrimination Against Transgender Individuals | OPA | Department of Justice

*15:男性の小用は、ファスナーかズボン自体を(性器が露出できる程度に)下ろし、性器を露出させて排尿するというのが一般的なやり方だと思う。誰でも(しばしば男子トイレの外からでも)様子が見られる場所に小便器が設置されていることもままあり、便器の横にパーテーションがつけられているのはごく稀だ。

*16:これはシスジェンダーの男性でも困ることで、大手量販店のトイレが各階2室しかないというケースもある。小さい建物では、1室しかない場合すらある。

*17:男性としての化粧をしたくても、化粧というだけで女性として認識されてしまうかもしれない。

*18:性同一性障害トイレ問題 | LGBT-JAPAN

*19:まさに、女性や黒人、外国人が社会に受け入れられたように。

*20:もちろん誰もがそうであると言っているわけではない。

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