気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

ゴクリンを捨てたトレーナーはポケモンの命をなんだと思っているんだ?

あるNPO法人が取り組んでいる猫の命を守るための仕組みについて

  • 猫を遺棄から守り、快適に人間と共生するための制度作りが求められている
  • 人間はペットのことを理解し、ペットの権利を尊重するべきである
  • とはいえ、不妊去勢など人間の手に負えるようにする措置は最低限必要だ

 

 


先日、『ポケモン・ザ・ムービーXY ボルケニオンと機巧のマギアナ』で取り上げられたペット遺棄の問題が印象に残っているという記事を書いた。あの映画を観て以来、この問題が気になっていたので、書店に関連する書がないか探したところ、ある本にぶち当たった。

 

山本葉子、松村徹『猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』

 

 

この本は、著者の1人である山本葉子氏が代表を務め、動物保護という非営利活動をソーシャルビジネスにするために日々奮闘しているNPO法人「東京キャットガーディアン」の活動内容と、飼い猫・捨て猫を取り巻く問題についてまとめた本である。私は背表紙を見て、すぐにこの本が「ボルケニオン」であることに気づいた。猫と言えば、「可愛い」というイメージがどうしても先行してしまう動物だ。インターネット上には、猫がおかしな場所に居座っていて可愛いという投稿が写真とともに掲載されている。私自身も、国際基督教大学(ICU)の出身であり、キャンパス内のあちこちに猫が寝転んでいた。猫はいろんなところで寝ているイメージがあり、小さくて可愛い、人をリラックスさせる動物という認識が強くある。

 

しかし、本来、野生で生息していない品種の猫が野良猫として存在していたり、あるいは飼えなくなった猫が保健所で殺処分されたりする現実に目を向けると、猫を飼っていたはずの人の、残酷で猟奇的な性格が浮かび上がってくる。猫という動物は理解ある人に愛される一方で、誤った認識の人間によって苦しめられているのだ。そこで、この記事では、この本の要約と私なりの意見を載せる。

 

 

 

 

要約

山本代表は、猫を人間の身勝手な遺棄から守るためには、猫を守る仕組みづくりが重要だと主張している。山本代表は飼い主を失った猫を保護する活動をしており、猫の習性を利用して飼い猫が野生化した野良猫を捕獲していた。そのような飼い猫・捨て猫を守るためには、獣医師や保険制度が必要であり、東京キャットガーディアンは事業領域を拡大させている。そもそも、捨て猫を保護するシェルターを増やすためには費用が必要で、シェルターに空きを作るには、譲渡を加速させる必要がある*1


そうした課題に対して、山本代表が出した答えが保護猫カフェと保護猫付き住宅である。まず、保護猫カフェは、保護施設と猫カフェの融合であり、保護してから、新しい飼い主に渡るまでの新しい経由地となっている。これは、保護猫を展示し、触れ合ってもらうことで、協力者に引き取ってもらう猫に対する理解を図り*2、また、協力者の理解度を測り*3、譲渡を効率化しようというものだ*4


次に、保護猫付き住宅は、ペット可物件と保護ボランティアの融合となっている。山本代表によれば、不動産業界には、猫の飼育を許可するにしろしないにしろ、猫に対する事実誤認や誤解が蔓延っている*5。言い換えれば、不動産業者は猫の習性をよく理解せずに、イメージだけで猫を毛嫌いしたり、猫に対する配慮に欠いた設備を作ったりしていた*6。保護猫付き住宅は、猫を安心して飼える物件と猫*7をセットで提供することで、物件の付加価値を高めつつ、猫のシェルターの拡大もしようというプロジェクトだ。こうした住宅は、不動産業界の理想とは裏腹に猫と暮らしたい需要が高まる現代において、意義がある*8。説教をするだけという不確実な方法よりも、このようなシステムを作っていくことが重要なのだ。

 

ペットに権利を

このように、猫を巡っては、捨ててしまう人や猫を理解しない人という根源的な問題がある一方で、その不正義を是正しようとする人がいる。思考停止して安直に意識改革を訴えるのではなく、猫を直接守り、ひいては人々の意識を改革するための仕組みを作ることが、飼い猫や捨て猫を守る上で重要なのだ。


東京キャットガーディアンが想定しているペットの飼育は、飼い主がペットから一方的に癒しサービスを受けることではなく、飼い主が責任を持ってペットの命を預かることだ。もちろん、ペットの「業務」を改善するために声帯を切除したり、爪を抜いたりすることはほめられたことではない*9。それは責任の範囲外だ。それ以上に重要なことは、ペットを家族や社会の一員として認めることである。ペットを人間の子どもと同等と捉えれば、家を追い出されたり、食事を与えられなかったりすることは虐待となる。それに、育てられなくなったからと言って、殺処分することはありえない。虐待されている子どもがいれば近所の人や児童相談所がそれに対処するはずだ。なのに、ペットになると、そういう文化はない。


先日の全日空の荷物騒動でも「貨物」として扱われたようで、人間の子どもに直せば、預かった子どもを置き去りにしたことになる。もしかしたら、飼い主が病死した場合など、仕方ないケースもあるのではないかという反論があるかもしれない。本当に突然死したのであれば仕方がないが、事前に死ぬことがわかっていた場合、里親を探すのが常識のようだ。本書でも、死を目前にした飼い主が東京キャットガーディアンに相談したというケースが紹介されていた*10。人間のペットに対する意識を変えなければ、不幸になるペット(や飼い主)はいなくならないだろう。もちろん、説教をすることで意識を改革したいわけではない。ペットの権利を拡大し、人間並みにすべきであるというのが私の主張だ。


制限すべきペットの権利

一方で、制限しなければならない権利があるのも事実だ。例えば、ペットの生殖機能は停止させなければならない。一度にたくさんの子どもを産む動物の多頭飼育は破綻しやすく、生殖機能のある動物が野に放たれれば、地域の生態系が崩壊する。生殖機能を奪うことは動物の尊厳や自然性・野性を奪う行為だと思う人も多いと思う。よく犬に犬用の◯◯(服、ケーキ、etc……)を飼い主のエゴで犬に与えていたりして呆れるという意見を耳にしたり、ネットで見たりするが、動物らしく生かせてあげたいという意見は尤もだ。しかし、ペットは人間が勝手に交配して家庭にもたらした生き物であり、本来生息していない地域に放すと、その地域の食物連鎖が崩壊してしまう。そもそも餌の取り方がわからないというケースもあるらしいが、感染症やその他の病気にかかってまともに物を食べられないケースがあることが本書でも示唆されていた*11

 

ペットは人間が勝手に作り出したものなのだから、「ペットのためを思って」無責任に野に放つのではなく、せめて保護団体や信頼ある知り合いに預けてほしいものだ。いずれにしても、ペットは人間が自由に弄んでいいものではなく、人間が大切に守り、人間と同じように尊重すべき命なのだ。

 

 

この本を通じて制度を知ったあなたとあなたのペットは幸せだ。別れる時の悲しみ、苦しみが軽減されたのだから。でも、ベストな道は、別れなければならない状況をできる限り排除することである。子どもが親にそれを望むように、ペットも飼い主にそれを望んでいるはずだ。

 

*1:166-167ページ参照。

*2:79-82ページ。ただし、80-81ページは写真のみ。

*3:88ページ。誰でもすぐに、好きな猫をもらえるというわけではなく、審査と(飼い主にあった猫との)適合が必要である。詳しい条件は140ページに記載がある。

*4:不幸か幸いか、84ページのグラフによれば、譲渡数は減少しつつあるという。

*5:第3章参照。例えば、大家が嫌っている猫のある習性が、実は発情期にしか発現しないもので、去勢により避けることができるというものだ。去勢に関しては、複数の子どもを出産する猫の生態上、また、多頭飼育で飼い主の手に負えなくなるよりはよいことであるため、仕方のないことだとされている。

*6:猫は犬とは違い、足場があれば塀を登って越えてしまうので、横向きに溝が彫られている塀やフェンスは不適切らしい。113-115ページ参照。転落防止の措置を取らないと、高いところから落ちてしまう恐れもある。

*7:ただし、これは備え付け家具に過ぎない。優良な飼い主が今後も飼ってくれるようであれば、譲渡となるようだ。150-151ページ参照。

*8:140-142ページ。著者は犬にはノウハウを共有する仕組みがある一方で、猫にはそれに相当する仕組みがないことを指摘している。先例を作ることは大いに意義があると言える。

*9:138-140ページ。

*10:30-35ページ。

*11:15-18ページ。