気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

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トランスジェンダーの権利を尊重するとシスジェンダーの権利が侵害されるという考えについて反論

トランスジェンダー性自認のトイレを使用できるか

ドナルド・トランプ米大統領バラク・オバマ政権が発したトランスジェンダーの児童・生徒を保護するためのガイドラインを破棄した。オバマ政権は、TITLE IXという教育における性差別を防止する法律をトランスジェンダーにも準用し、全ての公立学校に対し、トランスジェンダーの児童・生徒に自分の望むトイレやロッカールームを使わせるよう命じていた。これが破棄されたことにより、米国の州や学区はトランスジェンダーの子どもがどちらの性別(もしくは多目的トイレ)の学校のトイレを使用するかを選ぶことができる。この決定は、トランスジェンダーの子どもが使うトイレやロッカールームが、地域に根付く思想に大きく左右されてしまうという一大事である。

 

www.tokyo-np.co.jp


今回はこの問題について、物申したい。ただし、書いているのはアライでもなんでもないただのシスジェンダーでストレートの男性である。

 

 

 

トランスジェンダーとは

確認だが、トランスジェンダーは生まれつきの性と性自認が一致しない人の総称である。性同一性障害の診断を受けた人が含まれるが、性同一性障害の診断を受けているとは限らない。同一性とはアイデンティティのことであり、性のアイデンティティの影響で生活に支障があるということを、医療的な見地から診断したものが性同一性障害にあたる。


トランスジェンダーの存在を知ると、誰でも自由に「逆の性」を名乗れるような錯覚に陥る。だが、黄色人種が白人を名乗れないように、男である人が「私は女です」と名乗っているわけではない。私が女「である」ことに「気づき」、女性としてのアイデンティティを形作るものを獲得したとき、あるいはその努力の過程で、初めて女性を名乗れるのだ。もちろん、人によってはそのような壮大なものではなく、生活の中のちょっとした気づきから、自然と性自認が確定することもあるらしい。

 

www.washingtonpost.com

 

これは、トランスジェンダーの娘を持つ父が書いたエッセイだ。こちらの少女*1は2歳のとき、従姉妹の持っていたバービー人形に強い関心を示し、次第に、人形だけでなく自分も女の子の服を着ることを望むようになったのだという。この子が女の子になったのは「一過性」のことではなく、永続的なものだった。たしかに少女はアイデンティティを「選んでいる」わけだが、短期的に性的アイデンティティを取っ替え引っ替えすることは難しいだろう。つまり、自由に、わがままに性自認を変更することはできない。女性として定着した後で、「実は私は男です」と告白しても手遅れだ。もちろん、都合の良い時だけ男性に戻るということもないだろう*2

 

トイレ問題とは

トイレ問題は、トランスジェンダーの人が性自認にあったトイレやロッカールーム(更衣室)を使用できるかという問題である。主な論点は、トランスジェンダーの女性が女性用のトイレやロッカールームを使うことでシスジェンダーの女性の権利や尊厳が侵されるかだ。

 

物事を性自認通りに

そもそも、トランスジェンダーにおいて、性自認が適用される範囲は、言語学的な意味でのジェンダーや、服装*3などに関することだけではない。トランスジェンダーは基本的に性自認で扱われることを望んでおり、限定的な状況においてのみ、肉体の性にあう処遇や中性的な扱いを受けるという妥協をするものと考えられる。

 

トイレは性に関するものではない

これはトイレやロッカールーム・シャワールームに関しても同じだ。一見、トイレや着替えは性に関するものだと思われる。もちろん、肉体が女性の人(ヒトのメス)に対しては性に関する役割もあることは否定しない。だが、これらの施設の主な目的において、肉体的な特徴が大きな意味を持つことはない。ヒトはオス・メスともにトイレという場所で排泄を行い、ロッカールームと呼ばれる場所で着替えを行う。行為が行われる過程においてオス・メス間の違いこそあるものの、代替不可能なレベルで施設ごとに違いがあるという部分は少ないだろう。そうした意味では、「羞恥心」や「(性的)秩序」以外の理由をもって、そうした施設を男女で分ける必要はないはずだ。

 

男女の区分は女性が男性から身を守るためのものである

こうした施設を男女で分ける理由としてもうひとつ思いつくのは、女性が男性から身を守るためだ。排泄・着替え・シャワーという行為においては、身体の一部、または全部が無防備な状態に置かれる。そのため、男性から性的暴行を受けるリスクが高まる。家庭においてこれらの行為が男女同室で行われるのは、家族であることの信頼感からであろう。逆に言うと、襲われないという信頼感さえあれば、男女で分ける必要はないはずだ。言い換えると、信頼という条件さえあれば、トイレ・ロッカールーム・シャワールームは肉体の性とは関係がなくなる。このような理由から、トランスジェンダーの女性が女子トイレを利用しても、問題はないと思われる。

 

反論1:肉体や性器は男性だ

ここで反論があるとすれば、トランスジェンダーの女性にはペニスが付いているのだから、シスジェンダー*4の女性が性的暴行を受ける可能性があるということだろう。これは幻想に過ぎない。可能性があるだけで、そういうケースは報告されていないからだ。そもそも、本当に女性を自認しているのであれば、男性器を使った性行為には違和感を覚えるはずである。もちろん、肉体が男性である以上、男性の性機能には抗えない。だが、男性器の影響で女性を襲うというゾンビ映画のようなことがあれば、今頃街は大混乱である。


いずれにしても、男性器がついているからといって、女子トイレや更衣室から追い出すということは根拠に欠ける。ちなみに、トランスジェンダー男性も女性の性機能を持っている。男子トイレでカバーしきれないトイレの機能については、別途付け足す必要があるだろう。

 

反論2:女性を性的対象にしているトランスジェンダー男性もいる

「男性器を使った性行為に違和感を覚える」という表現を使用した理由は、女性であることだけでは女性を襲わないという説明にならないからだ。つまり、女性を性的対象にしている(レズビアンの)場合、女性を襲う可能性があるという反論が想定できる。しかし、シスジェンダーレズビアンがトイレで女性を襲っているというニュースを聞いたことがあるだろうか?

 

試しにGoogleで検索してみたところ*5、アダルトサイトぐらいしか表示されなかった。対象をニュースに絞っても同様の結果だ。つまり、「レズビアンならば女性を襲う」という構図も幻想だと思われる。トランスジェンダーレズビアンが女性を襲う可能性についても同様だ。万が一女性を襲ったとしても、本番には至らないだろう。「それ」は男性のモノだからだ。


このように、トイレは肉体の性に関わるものだから、あるいはトランスジェンダー女性がシスジェンダー女性を襲うからという理由で、女子トイレや女子用のロッカールーム・シャワールームからトランスジェンダー女性を排除するということはできない。

 

まとめ:「恥ずかしい」で済むことじゃん

今回の問題は、トランスジェンダーがどういう人たちなのかさえ理解すれば、シスジェンダーの人が恥ずかしがっているだけという問題で片付くはずだ。性的被害の恐れもなければ、秩序が崩壊することもない。身体の形こそ違えど、同じ男性・女性の仲間である。

 

それをわかっていても、人は肉体的性の異なる人に対する性的な羞恥心を隠し、性的被害の防止や性区別といった大義名分を唱えたがる。たしかに、懸念を表明し、問題が起こるのを防ぐことも大事だが、当事者や当事者を受け入れた学校の成功談も聞かせてほしいところだ。

 

付録:宗教的価値観の問題

今アメリカでトランスジェンダーが差別を受けているのには、もっと別の問題がある。それは、トランスジェンダーの存在が宗教上許せないことだ。キリスト教の世界観では、命というものは神との契約であって、その契約を変更したり破棄したりすることはできない。同性愛を否定するのは、男女が結婚して子孫を増やさなければならないからで、中絶に反対するのは契約破棄にあたるからだ。

 

そして、トランスジェンダーは命を生み出した神の意思を否定する(神が間違うはずはない)上、子孫も増やせないものと考えられる*6。残念ながら、こうした信条を変えるのはとても難しい。無論、これらは最も保守的な考えだが、声が大きいのが現状である。(もちろん、日本と同様の偏見も根強い。)

 

付録:性別を判断することの無意味さ

百歩譲って、トイレに肉体的性が関係あるとしよう。このとき、肉体的性を確認する術はあるだろうか? 我々は対象が男性であるか、女性であるかを判断するのに、性器を確認しない。見た目の第一印象で判断する。だが、その目は正しいとは限らない。

 

人は見た目で判断できない

例えば、男性だと思っていた人が女性だった(もしくはその逆)という経験はないだろうか? 私は昔、女の子だと思っていた子が男子トイレに入ってきて、そのとき初めてその子が男性だと気づいたことがある。性器は確認しなかったが、その後、その子は実際に男性であるとはっきりした。このように、人が性別を判断する第一の基準は外見や仕草であり、性器ではない。それから、その性別の施設に入ってきたら、基本的に否定のしようがないはずだ。その子が女性なのに、わざわざ排泄のために男子トイレに来たとは考えづらい。つまり、トイレに入るという行為は性別の判断基準として高い機能を持つのだ。

 

声の高さは個人差が大きい

もちろん、声という基準もあるだろう。でも、声は個人差が大きい。ほぼ声変わりしていない男性もいれば、声の低い女性もいる。トイレの個室の外から異性の話し声がするので入るトイレを間違えたと思ったら、よく聞くと同性だったということはないだろうか? 男子トイレの場合は、声変わりをしていない男の子もトイレに入ってくるので、ハッとさせられることがあるかも知れない。人間の感覚というものは実は曖昧で、役に立たない。もしかすると、その性のトイレに入ってくることが最大の判断基準なのかも知れない。


(ちなみに、トランスジェンダーの男性がホルモン剤を投与した場合、声変わりが起きるが、トランスジェンダーの女性はすでに声変わりを完了しているので高くならない*7。高い声を出しているトランスジェンダーの女性芸能人もいるが、女声を出すトレーニングをした結果である。)

 

肉の付き方には男女差があるが

反論として、肉の付き方で性別がわかるという意見があると思う。今の医療では骨を削る以外の方法で骨格を変えることはできないので、生まれつきの性を判断する極めて有力な判断基準である。ただし、肉付きの変化は第二次性徴で発生する違いなので、その途上である子どもたちに対しては、あまり現実的ではない。というか、その観察眼はどこで手に入れたのだろう。

 

そもそも確認しない

そもそも論として、我々は公衆トイレにいる人の性別をいちいち確認しない。なぜなら、そこにいるのは同性であることが前提だからである。上の例のように、明らかに異性に見える人がいるときには注目するかも知れないが、それ以外の人には無関心だ。

 

女子トイレに母親に連れられた小さな男の子が入ってくることも、男子トイレに父親に連れられた小さな女の子が入ってくることも否定しない。悪意なく本当に間違えたであろう人が入ってきたら、「ここは◯◯トイレですよ」と優しく教える。指摘した自分が間違っていたら謝る。トイレに入ってきた人がその性であることを確信させるものは、その性のトイレに入ってきたという事実とそこから生じる信頼だけだ。

 

付録:トランスジェンダー専用のトイレ!?

この問題であたかも妙案かのように扱われているのが、トランスジェンダー専用のトイレである。トランスジェンダーのためのトイレを作れば、シスジェンダーの人が迷惑を被らなくて済むという考えだ。とてもよい考えのように思えるが、実は何の解決にもなっていない。むしろ、生まれつきの性のトイレに入ることよりもひどい仕打ちになる可能性すらある。

 

入るだけで晒し者

トランスジェンダーの人が困っているのは、肉体的な性と性自認と一致していないためだけではない。トランスジェンダーに対する世間の理解が足りないからでもある。差別を受ける可能性があり、トランスジェンダーであるのを他人に知られることはよいこととは言えない。つまり、トランスジェンダーのためのトイレに入ることは、「私はトランスジェンダーです」と言っているようなもので、銃弾が舞う中を駆け回るにも等しい。(性自認の性の格好をして性自認通りのトイレに入ることは、トランスジェンダーに関して何のメッセージも発していない。)

 

マイノリティの排除

もうひとつの問題は、トランスジェンダーの願いを1ミリも叶えていないことだ。普通の女性・男性として平穏に暮らしたいにもかかわらず、肉体の違いだけで別の扱いを受けることになる。性別移行期にある人のための現実的な選択として、多目的トイレはアリだとは思う。だが、それ以外のトランスジェンダーは仲間外れ・除け者になってしまう。多様性を受け入れるために考えた政策がマイノリティを排除してしまったら、本末転倒である。

 

付録:全てを個室の男女兼用トイレにする

全てのトイレを個室にしてしまえば、公衆トイレという概念がなくなり、問題自体がなくなる。正しい妥協案はこれだと思われる。ただし、この案だと全てのトイレを作り直す必要性が出てきて、現実的ではないというのが欠点である。学校に関していえば、化粧などの問題はないので心配はないが、トイレで行われる他の活動をどうするかという問題もあったりする。予算さえあればなんとかなるだろう。

*1:トランスジェンダーの人は性自認の性で呼ぶことが必要なので、ご配慮願いたい。

*2:公共の手続きにおいては、戸籍の性として扱われるので、そのときは戸籍の性になる必要がある。例えば、日本では性別適合手術を受けなければ戸籍の性は変えられず、未成年は手続き上、肉体の性である。

*3:今回の議論は学校が前提になっているので、対象は未成年である。未成年はホルモン剤投与を受けられず、基本的に髪の長さや服装でジェンダーを表現することしかできないと思われる。

*4:トランスジェンダーではない人、生まれつきの性と性自認が一致している人はシスジェンダーである。

*5:検索ワードは「レズビアン トイレ 性的暴行」。セーフサーチ・プライベート検索はオフ。

*6:米国でトランスジェンダーの17歳が自殺、クリスチャンの母親に非難 キリスト教会への警鐘の声も : 国際 : クリスチャントゥデイ

敬虔なクリスチャンの家庭に生まれたばかりに、自死を選ばざるを得ないケースもあるようだ。

*7:Masculinizing Hormones - Transgender Health Information Program

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