日本にはびこる指摘の封じ込め
残念なニュースが入ってきた。
不正を内部告発した委託業者の社員の個人情報を横浜市の職員が漏洩してしまったのだ。
もちろん、倫理的にも問題があるわけだが、日本の法律にも違反している可能性がある。
ということで、今回は内部告発のうち、公益通報について調べた。まさに、日本のためにある制度だと感じた。ただし、今回のような問題が起こるということから、現状についてはお察し願いたい。
背景
公益通報者保護法
公益通報者保護法は、文字通り、公の利益のために行政や事業者の法令違反やその未遂に関する通報をした人を守るための法律だ。
この中で、公益通報者は解雇されず、「降格、減給その他不利益な取扱い」をされないことが定められている。
個人情報の保護については「国の行政機関の通報処理ガイドライン(外部の労働者からの通報)」に示されており、行政が通報に際して獲得した個人情報を口外してはならない旨が書かれている。
公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報)
つまり、行政は内部告発をした人を守らなければならない。
現在は罰則がないが、法律にいけないと書いてあるのは事実である。
それゆえ処分がかなり軽くなっているが、世のため人のために身を削った人のためにも、厳罰化が求められる。
法令遵守に関するアジア特有の空気
アジアの企業においては、法令遵守よりも企業同士・人間同士の関係性が重視されると言われる。
法律や契約文書にとらわれない柔軟なビジネスができる一方で、今回のように、違法な状況があっても従業員(特に年少者)が通報できない空気がある。
年寄りや集団の和を尊重するあまり、よくないことに対しても口が開けないのだ。
いわば、「公益」というものが「お上の利益」「ウチの利益」になっている現状がある。
国民全員の利益を守るためにも、公益通報が善であり、その封殺が悪であるということを啓蒙しなければならない。
公益通報者保護制度のポイント
通報者のプライバシーが守られる
公益通報者保護制度では、情報をできるだけ内密にすることを原則としている。
ルール上は通報者の許可がない限り、通報者に関する情報を通報の対象が知ることはない*1*2。
また、ガイドライン上では匿名でも通報が可能になっている。
匿名だからといって信憑性がない、責任を果たしていないとはみなされず、名前を出した通報と同様に扱われる。
不正な通報は受け付けない
公共の利益に反する上司の不正は保護の対象だが、上司を陥れるためなどの不正な通報については保護されない(第二条)。
言い換えれば、個人が不正な利益を得る目的で公益通報を悪用することは許されない。
強い機関ほど要件が厳しい
権力・影響力が強い機関ほど、公益通報として認められる要件は厳しくなる。
- まず、企業の内部であれば、通報者が犯罪が起こりそうだ・起こっていると思っただけで、公益通報が成立する。ただし、内部での対応になるため、その通報によって現状が変わるとは限らない。
- 次に、行政機関に通報する場合は、通報した内容を証明できる証拠が必要となる。その代わり、管轄の行政機関が真摯に対応するため、改善の可能性が高まる。
- 最後に、マスコミなどのその他の外部機関においては、会社にも行政にも頼れない絶対的な理由が必要となる。つまり、告発することで現状を変えることができる可能性が高く、不正の証拠があり、しかも行政に頼れない理由があることを示さなければならない。
もちろん、「通報の内容を受けて通報者を解雇した」なんてことが全国に報じられた日には、企業は大変なことになる。
よく企業や行政機関の不正の内部告発がテレビで報道されるが、実は、それは最後の手段だ。
出典:
公益通報者保護制度の欠陥
罰則がない
現実として、公益通報者保護法に違反しても、罰を受けることはない。
そのため、解雇や減給などを無効にしても、違法な懲罰行為を受け続ける場合がある。
通報の俗語として「チクる」があるが、今回、まさにチクった方が悪者扱いされるチンピラのような状況が起こっている。
報道では過失ということになっているが、万が一意図的に漏らしたのだとしたら、その職員はパクられるべきだろう。
適用対象外の法律がある
公益通報者保護法は「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」に載っている法律しか対象にならない。
それは、「個人の生命や身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保などに加え、国民の生命・身体・財産その他の利益の保護にかかわる法律に規定する犯罪行為など」だ。
そのため、対象外の法律に違反していても、公益通報にはあたらない。
その他の法律に関して長年違法状態が続いているという場合でも、公益通報制度を通じて改善することはできないわけだ。
損害賠償の訴訟は起こりうる
賠償請求をしてはならないという規定はないので、公益通報者が通報に関して訴えを起こされることは十分にありうる*3。
そのため、従業員・公務員として法律に定められているような不利益な取扱いを受けることはなくても、別の方法で不利益を被る可能性がある。
そうした抜け道があれば、正義や職場を改善したいという想いよりも自己防衛が優先され、誰も通報したくなくなってしまう。
だが、働き方改革が叫ばれる中で、不正という非効率性をそぎ落とすことが強く求められている。
出る杭が打たれるようなことはあってはならない。
公益通報の処理の自動化
公益通報が人間の管理する情報である以上、人為的なミスは必ず発生する。
しかし、公益通報者の秘密の漏洩は取り返しのつかないことになる。
もちろん、公益通報に関わる人間による意図的な流出も考えられないわけではない。
人間の悪意の介在や過失を防止するためにも、人が介在しない処理が求められる。
最近は人工知能もあるわけだし、頑張れば通報内容の振り分けや匿名になるよう情報を加工するぐらい可能な気がする。
このような考えは机上の空論でしかないが、少なくとも日本の企業がクリーンになることを願う。
*1:外部の労働者等からの通報Q&A(平成29年7月版)|消費者庁
当該調査が通報を端緒としたものであること等、通報者の特定につながり得る情報については、調査等の対象となる事業者に対して開示しないことが定められており、通報等があったことを事業者に伝えることも適切ではありません。
としている。