気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

盲導犬タクシー乗車拒否事件からわかる我々の無知〜身体障害者補助犬とは?〜

補助犬に意外と寛容じゃなかった社会

金沢市のタクシー会社が盲導犬を連れた視覚障害者の乗車を拒否し、4台の車両を2週間使用停止にする処分を受けました。

 

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そもそも、盲導犬身体障害者補助犬の一種です。身体障害者補助犬は2002年の身体障害者補助犬法で定められた職業犬であり、身体障害者を補助します。

身体障害者補助犬法

第二条  この法律において「身体障害者補助犬」とは、盲導犬介助犬及び聴導犬をいう。
2  この法律において「盲導犬」とは、道路交通法 (昭和三十五年法律第百五号)第十四条第一項 に規定する政令で定める盲導犬であって、第十六条第一項の認定を受けているものをいう。
3  この法律において「介助犬」とは、肢体不自由により日常生活に著しい支障がある身体障害者のために、物の拾い上げ及び運搬、着脱衣の補助、体位の変更、起立及び歩行の際の支持、扉の開閉、スイッチの操作、緊急の場合における救助の要請その他の肢体不自由を補う補助を行う犬であって、第十六条第一項の認定を受けているものをいう。
4  この法律において「聴導犬」とは、聴覚障害により日常生活に著しい支障がある身体障害者のために、ブザー音、電話の呼出音、その者を呼ぶ声、危険を意味する音等を聞き分け、その者に必要な情報を伝え、及び必要に応じ音源への誘導を行う犬であって、第十六条第一項の認定を受けているものをいう。

第十六条  指定法人は、身体障害者補助犬とするために育成された犬(当該指定法人が訓練事業者として自ら育成した犬を含む。)であって当該指定法人に申請があったものについて、身体障害者がこれを同伴して不特定かつ多数の者が利用する施設等を利用する場合において他人に迷惑を及ぼさないことその他適切な行動をとる能力を有すると認める場合には、その旨の認定を行わなければならない。
2  指定法人は、前項の規定による認定をした身体障害者補助犬について、同項に規定する能力を欠くこととなったと認める場合には、当該認定を取り消さなければならない。

 

道路交通法

第十四条  目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。
2  目が見えない者以外の者(耳が聞こえない者及び政令で定める程度の身体の障害のある者を除く。)は、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める用具を付けた犬を連れて道路を通行してはならない。

 

道路交通法施行令

第八条  法第十四条第一項 及び第二項 の政令で定めるつえは、白色又は黄色のつえとする。
2  法第十四条第一項 の政令で定める盲導犬は、盲導犬の訓練を目的とする一般社団法人若しくは一般財団法人又は社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)第三十一条第一項 の規定により設立された社会福祉法人国家公安委員会が指定したものが盲導犬として必要な訓練をした犬又は盲導犬として必要な訓練を受けていると認めた犬で、内閣府令で定める白色又は黄色の用具を付けたものとする。
3  前項の指定の手続その他の同項の指定に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。
4  法第十四条第二項 の政令で定める程度の身体の障害は、道路の通行に著しい支障がある程度の肢体不自由、視覚障害聴覚障害及び平衡機能障害とする。
5  法第十四条第二項 の政令で定める用具は、第二項に規定する用具又は形状及び色彩がこれに類似する用具とする。


つまり、身体障害者補助犬は、身体障害者の生活を補助するために訓練を積み、国から認定された職業犬です。筆者自身、身体障害者補助犬法を知るまでは、介助犬を、盲導犬などの身体障害者をサポートする犬の総称だと思っていました。あのような事件が起こったのには、補助犬への理解が至っていないことが関係していそうです。(補助犬の入店や乗車について)賛成・中立・反対の立場に立って、誤解していそうなこと、知らなさそうなことをまとめてみました。一部内容が反復していますが、ご了承ください。

 

 

賛成派にありそうな勘違い

苦情を言ってはいけない

補助犬が問題を起こした場合、文句を言っても構いません。身体障害者はデリケートな存在なので、クレームを言うのは非人道的と思うかもしれませんが、受け入れ施設などの管理者が補助犬について(都道府県や政令指定都市中核市に対して)苦情を言うことは、実は法律で認められています(身体障害者補助犬法第25条)。もちろん、関係ない一般市民は苦情を言うことを認められていませんが、商業施設などの意見カードなどに書くことはできます。会社員・公務員なども、問題があれば、上司などに相談することができます。その苦情を受けて、身体障害者補助犬の訓練施設が改善を図っていくことができます。たしかに、補助犬は法律の定めによって厳しい訓練を受けていますが、人間の公務員がミスをするのと同様、補助犬にも間違いはあります。それを訓練*1などによって改善していくことが大切です。


補助犬は利口なのでなんでもできる

補助犬は飼い主の苦手な部分を助けるための訓練を受けた存在であり、ひとり(1頭)ではできないこともあります。例えば、補助犬の衛生管理や健康管理は、獣医師やトレーナーの指導のもと、利用者(もしくは支援者)が行っています。(ペット犬の)飼い主のエゴと捉えられがちなシャンプーは、補助犬に対しては義務付けられています(身体障害者補助犬法第22条)*2。排泄も利用者が管理していて(身体障害者補助犬法第21条)、仕事中にはしないようにしているようです。人間の会社員や公務員に仕事中の間食が認められないように、補助犬にも認められません。通行人に食べ物を与えられたら食べてもいいと学習してしまっては困ります。


中庸にありそうな勘違い

賢いなら問題ない

賢さに関係なく、本人の目・耳・手足として重要です。もちろん、補助犬の育成施設はなるべく賢い犬を選んでいます*3が、及ばない点もあるかもしれません。しかし、身体障害者の体の一部である以上、補助犬を理由にして入店を拒むことは、許されません。眼鏡や補聴器や義手・義足を付けている人、あるいは介護士が付いている人が入店を拒まれないのと同じです。ただし、飲食店の管理者には、都道府県や政令指定都市中核市に苦情を言う権利があります(身体障害者補助犬法第25条)。「賢くない」補助犬によって迷惑や損害を被った場合は、身体障害者や訓練施設に改善を求めることができます。


受け入れる土壌(準備)がないなら仕方ない

公共施設が補助犬を受け入れることは法律で義務付けられています(身体障害者補助犬法第7-10条)。罰則はありませんが、受け入れなければ当然コンプライアンス違反です。これは体が不自由な従業員も同じです。受け入れを拒否された補助犬使用者は都道府県知事(または政令指定都市中核市の長)に苦情を言うことができる(身体障害者補助犬法25条)ので、そういうことを言うお店は何らかの制裁が下ることを覚悟したほうがいいです。

 

反対派にありそうな勘違い

補助犬はペット

補助犬は、その能力を身体障害者補助犬法第16条第1項に基づいて認定された犬であり、動物愛護管理法に基づいて所有している犬(ペット)とは異なります。ただし、愛護を否定するものではありません。補助犬は生後2ヶ月から1歳になるまで、一般の家庭で育てられます*4。訓練やオフの時には利用者と遊び、絆を深めます。オフの時間もあるわけで、24時間、非情に過酷な労働を強いられているわけではありません。ところで、働く犬の中にアニマルセラピー用のセラピードッグ(セラピー犬)がいますが、セラピー犬は身体障害者補助犬法の補助犬としては認められていません。したがって、補助犬の受け入れ義務がある施設には受け入れる義務がありません。ちなみに、補助犬と偽って入店許可を強要するのも法律違反です。


補助犬は汚い

補助犬のシャンプーやブラッシングが利用者(もしくは身体不自由者の支援者)に義務付けられています。脱毛の散乱防止のため、犬用の服を着せるユーザーもいるようです。補助犬の活躍を特集した番組などの影響で、補助犬が1頭でなんでもやっているイメージがありますが、補助犬の衛生管理や健康管理(予防接種、排泄の管理を含む)は利用者の義務(身体障害者補助犬法第21-22条)です。飲食店の衛生状態を著しく損ねる存在ではないことにご留意願いたいです。(飲食店の管理者であれば、)補助犬が明らかに汚れていたり、補助犬の健康状態に問題があるように感じられたりする場合は、利用者にその旨を伝えましょう*5。入店によって本当に損害が発生したり、入店時にその他の問題があったりする場合は、都道府県知事(または政令指定都市中核市の長)に苦情を言うことができます(身体障害者補助犬法第25条)。

 

日本にいる補助犬は1000頭余*6にすぎません。1億数千万人が暮らすこの日本において、出会うこと自体レアかもしれません。でも、出会うチャンスはいつでもあるのだから、きちんと知識を身につけておいたほうがよさそうです。