気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』 人類は人工知能に滅ぼされるのか?

2045年、人類の知能を人工知能が超える」

現在、人工知能を題材にしたアニメ『デジモンユニバースアプリモンスターズ』(テレビ東京系・毎週土曜日朝7時〜)が放送されている。この番組のアバンタイトルでは「来たる2045年、人類の知能を人工知能が超える」という空恐ろしいことが語られている。残念ながら、これはアニメではない本当のことらしい。

 

AppleのSiriを想像すれば、2045年になったら、もっと可愛くて賢いアシスタントが付いてくれるのだと楽観的に考えることもできる。だが、SFが好きな人はむしろ、人類が人工知能に支配されるという悲観的な考えを頭の中にめぐらせるだろう。

 

2045年問題 |株式会社廣済堂出版 kosaido publishing

 

そうした2045年までに起こるであろう人工知能の進化のことを解説した本が、松田卓也の『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』(廣済堂新書、2012年)だ。この本では、有名なSF作品や最新(出版当時)の科学技術に言及しながら、人類と人工知能を取り巻く未来の予想図を示している。この記事では、この本について簡単にではあるが、まとめていきたい。その上で、自分なりの意見を書き加えていく。

 

 

 

要約

松田によれば、人工知能の進歩には恩恵と脅威の2つの側面がある。人工知能の進歩は、音声認識などのインターフェイス集積回路の改良によってもたらされている(3章1ページ)*1。一方では、こうした進化によって、人工知能は人類を助け、人類の進化に貢献している。他方、人工知能は人間の仕事を奪い(6章)、軍事に利用され(7章24ページ)、やがて人類を滅ぼしかねないと危惧されている(7章20ページ)。かたや、人工知能が進歩する暇もなく、人間社会が持続せずに滅亡するという未来も想定できないわけではない(7章)。未来のために必要なのは、人間の頭脳が秘めている謎を解き明かし、「頭脳革命」を起こすことである(4章17ページ)。

 

人類と人工知能の一体化

このように、人工知能を取り巻く未来は多様であり、様々な利点と欠点がある。松田は特に、人工知能が人類を滅ぼす未来を恐れており、人工知能の開発を止めない代わりに人工知能と人間が一体化する未来を望んでいる*2


この未来では、人工知能を搭載した高度なロボットが人間を襲うなどといった心配はない。人間は人工知能が獲得した高度な知能を利用することができる(5章5-6ページ)。つまり、人工知能は人間を強く、賢くしてくれる。

 

しかし、人間が人工知能と接続した際に人工知能と共存できるという保証もまた、ない。人工知能にコントロールされ、あるいは悪意ある人間からハッキングを受けることも予測できる。このように、未来には様々な利益とリスクがある。

 

資源と持続可能性

例えば、今、平和だった世界が均衡を崩しつつある。中東および北アフリカにおける移民・難民の発生を背景に、極左・極右が台頭している。その結果、市民の不満・不安を煽り、市民に迎合する政治が一般化し、世界は新たな時代を迎えてしまった。これは本書の執筆当時には考えられなかったことであり、時代の制約があることは否定しない。だが、ハイテク社会の中で移民と原住民がいがみ合う第5の未来を迎えてしまったことは事実である。(この先、2045年までにどうなるかはわからないが)


松田は、人類には天敵がいないため*3、地球上の再生不可能資源が刈り尽くされるだろうと予想している。だが、見方を変えれば、現在、移民という天敵*4から資源を守るための戦争が起きていると言うことができる。これが終結すれば、人類は新たな均衡状態を見つけることができるだろう。

 

未来のために熟考を

このように、どんな未来にも一長一短があり、また、そこから進むことのできる新たな未来があるはずだ。もしかしたら、一見滅亡に向かっているように見える未来にも、希望は残されているかもしれない。ある未来を極端に賞賛し、別の未来を忌避することは、必ずしも地球をよい未来へと導かないのだ。地球のためによい未来が何であるかを熟考することこそ、我々人類がすべきことである。

 

*1:電子書籍(Kobo)版からの引用のため、通しのページ数が不明であり、代わりに章番号とページ番号で表記している。そのため、ページが紙の書籍版と異なる場合がある。ご容赦願いたい。

*2:松田の想定する未来を整理しよう。

  1. 人工知能と協同する未来
  2. 人工知能が反抗する未来
  3. 人工知能と一体化する未来
  4. 財政難で人工知能の開発が停止し、世界が滅亡に向かう未来

著者が有力視する第三の未来は、人工知能と一体化することで、人間の知能を高めることを想定しており、こうした考え方を「サイボーグ派」と表現している(5章27ページ)。詳しくは5章を参照されたい。

*3:松田は「ロトカ=ヴォルテラの方程式」を説明するための具体例として、ライオンとシマウマと草によって成り立つ食物連鎖の簡易的なモデルを提示した(7章3ページ)。これは、ライオンがシマウマを食べることで、シマウマが食べる草の量が抑制されるため、地上から草がなくなることは避けられるというシステムである。だが、残念ながら、人間の天敵となる動物は数少ない。

*4:これは喩えであって、私は移民を敵だとは思っていない。