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地域猫と合意形成
地域猫が脚を切断されるなどして死ぬなんとも痛ましい事案があった。
事案と書いたのは、違法性が確信できず、違法な狩猟活動として立件できないということだ。
地域猫は以前の記事で紹介しているので最低限の説明にする。
交配を続け永続的に殖え続ける野良猫を減らすため、有志が猫を捕獲し、去勢し、世話して管理するという活動だ。
本来地域ぐるみでやっていくべき活動だが、地域との話し合いや有志の管理が不十分だと、今回のように「野良猫の被害を受けている」「猫嫌いの人」による「猫よけ」で虐待被害が発生するのである。
野良猫を可愛がってはいけない ただひとつの例外を除いて - 気持ちのサンドバッグ
こうした地域猫活動は、今回槍玉に上がっている鳥獣保護法*1の範囲内ではない。
猫はアライグマのように捕獲が推奨・依頼されているわけでもないし、狩猟に関して都道府県知事のお墨付きもない。
それに、今回使われたトラバサミは鳥獣保護法第三十五条で定める特定猟具だ。今回やってしまった行為自体は本当に残虐だと思う。
一方で、この事件の背景にひとつの大きな矛盾を感じざるを得ない。
本来、地域猫活動は周辺住民の理解を得た上で、周辺住民との協力によって成り立つ活動のはずだからだ。
だから、実施している以上は猫が嫌いな人の意見も取り入れていなければならないはずである。
そうなってしまったからには、地域猫活動のプロセスに問題があったと考えるほかないだろう。
活動主体は、地域猫活動が住民の理解を得なければならない活動だということに留意しなければならない。
広島県の地域猫活動
広島県は地域猫活動のガイドラインをウェブサイト上で公開している。
他都道府県ほどスタイリッシュなデザインになっていないが、内容が詳しい。
最初に地域猫活動がどのような願いのもとに成り立っているかを説明し、野良猫を迷惑がる人とかわいそうだと思う人、両方の視点に立った活動なのだと強調している。
ただ、猫の側に立ちすぎている面もあり、人間側の反発があっても仕方ない。
猫の習性の熟知
広島県では、猫の特徴を十分加味してガイドラインを作っている。
特徴的なのは、不妊去勢手術を猫を一通り世話して懐かせた後で行なっていることだ。
給餌・餌の片付け・糞尿の管理を1つの循環として捉え、そこから外れたところに不妊・去勢手術を位置づけている。
これは猫の出現を習慣づけるとともに、人間や檻への警戒心を解くことが狙いのようだ。
不妊去勢手術を受けさせるまでのプロセスは行政やNPOに助けを求めることもできる。
特に、不妊去勢手術は県のガイドラインに沿ってさえいれば無料で受けさせることができるので、太っ腹だ。
住民参加の不足
問題として挙げられるのは、地域住民による意思決定を前提としていない点だ。
他都道府県及び市区町村では、地域や住民に合わせたルールづくりを求めている。
例えば、横浜市のガイドラインでは、地域住民が参加する会合で話し合い、猫が好きな人・苦手な人・興味がない人など多くの住民の理解と同意を求めることを必要としている*2。
その上で、「実施地域にふさわしい」政策にしなければならない。
一方の広島県のガイドラインでは、住民の参加が担当者や費用の分担を決めることにとどまっており、あとは基本的に県が決めた通りにやるような内容となっている。
政策実施ありきなのも問題だ。広島県は会合や回覧板で知らせることを求めているが、同意を得るプロセスが足りていない。
(福山市のガイドラインも「説明する」となっていて、やることが前提になっている。*3 )
千葉県の場合は、そのプロセスがしっかりしている。
そもそも、千葉県のケースでは、活動主体が「地域の理解を十分に得るための継続的な周知活動」を行うことを求めている*4。
その活動主体が情報収集をし、周辺住民と会議を開き、ルール作りをする。
広島県もガイドライン策定の過程である程度のヒアリングを行ったのかもしれないが、個別の地区の実情にあった政策が実行できるよう、柔軟性を持たせるべきだった。
住民の地域猫活動への不安
上記のことからも分かる通り、広島県は猫寄りの「飼い主のいない猫」対策をとっていた。
一応、後ろの方のページには猫よけの仕方が具体的に書かれているので、猫嫌い・猫アレルギーを無視しているわけではない。
でも、県が指示した内容を県民が実行するトップダウン(上から目線)型の政策なので、ご近所同士の理解・協力が求められる地域猫活動には適していない。
何が何でも「理解を求めて」やる前提になっていて、反対する人への風当たりは厳しい。
実は行政の責任
ここまでくれば、もはや誰に一番大きな責任があるかは大体分かるだろう。
実施ありきで猫嫌い・猫アレルギーの人の自主防衛を求める、猫優遇の政策を策定した広島県だ。
もちろん、どの地域も絶対にやらなければいけませんというわけではないが、県のガイドラインに反対派に寄り添ったプロセスが載っていなければ、今回のような痛ましい事案が起こってしまうだろう。
私はあまりこの言葉を使いたくないのだが、弱い立場にある猫を保護することを住民に強要するこのやり方こそ、正真正銘のポリコレだ。
「回覧板で回しておくから、知らなかったらあなたの責任だよ」というようなやり方は好ましいとは思わない。
地区単位で大々的に住民会議を招集し、やってみたい、ぜひやってほしい、絶対にやってほしくない、私はやりたくないなどの意見を募るべきだった。
もし自分の知らないうちに地域猫活動がどんどん進められて行っているのなら、今回の事案の当事者は不憫だし、猫に八つ当たりしてしまったのは仕方がない。
行政は説明会・報告会を定期的に開くよう指導し、お猫様のために嫌な思い・苦しい思いをする人、人のせいで虐待を受ける猫のないようにしてほしい。
好きの押し付けはやめよう
地域猫活動は住民の理解を必要とする活動だ。
猫好き・猫嫌い両方の立場に立たなければならず、その両方にメリットがあることを伝えていく必要がある。
もちろん、猫の習性を交えて詳しく説明することも大事だが、だからと言って行政が上から地域猫活動のあるべき姿を押し付けるのも良くない。
地域住民が話し合わなければ、地方自治・住民自治とは言えない。
たしかに猫の命を奪ったり、脚を切断したりした当事者の行動は許せないが、猫嫌いは総じて悪人という風潮も好ましくない。
猫の嫌いなところ・苦手なところを言葉で説明でき、有志が出来る限り配慮していけるような地域猫活動を目指すべきだ。