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買い物難民は足がないのではない。方法がないのだ
金沢市に来て2週間ほど経つが、できることとできないことがわかってきた。結論から言うと、車がないと行けない店が多いので、足だけあっても意味がない。千葉県にいたときに当たり前に使っていたお店が手の届く距離にないのだ。
今目の前で起こっていること
どうせお店はあるのだからなんとかなると思い、できるだけ軽い荷物で東京を出たが、実はものが足りているとは言い難い。東京にあるような大手ドラッグストアが手の届く距離にないので、わざわざネットショッピングでいつも使っている石鹸などを取り寄せている状況だ。(親戚の家にいるので、家具一式はある。)
それから、後述するが、地方都市においては駅前に行っても全てが揃うわけではないということを実感させられた。繁華街に行っても、足りないものがあった。本当は生活できる最低ラインのものであれば、歩いて数分のコンビニでも揃えられる。しかし、東京で使っていたのと同じものを求める場合は限界がある。そんな状況だ。
鉄道社会と車社会
自家用車(いわゆるマイカー)がなくても生活できる都市圏と、自家用車がないと生活できない地方都市では状況が異なる。まずは大まかな違いを認識してほしい。
鉄道社会の都市圏の場合
首都圏や鉄道の発達している地方都市圏では、大きな駅前に行けば何かしらお店があって、必要なものが大体揃う。駅前になくても、駅からショッピングモール等へのシャトルバスが運行していて、そこに行けば買える。どうしてもないときの最終手段がネットショッピングだ。
車社会の地方都市の場合
一方、金沢のような地方都市の場合は、駅前に行けば全て事足りるというわけではない。主要都市銀行の支店は金沢駅前にないし*1、主要な飲食店も幹線道路沿いにある場合がある。当然、スーパーやドラッグストアも車で行くため、自動車がないと困るわけだ。
参考:
福山市市街地部における「買い物弱者」発現の可能性に関する一考察-福山市立大学 機関リポジトリ
研究自体は広島県福山市を対象にしているが、買い物難民という現象については一般的なことが書かれていた。
「車がないならバスを使えばいいじゃない」と言うのは、とんだマリーアントワネットだ。全てのお店がバス停の近くにあるというわけではないだろう。必要なものを揃えるために分散したお店をかっさらう作業を、運転免許を返上したような高齢者にできるだろうか? 我々は、買い物難民が交通手段さえあれば解決する問題ではないということに気づかなければならない。
ということで、この記事では交通機関さえ整えれば買い物難民はなくなるという思い込みを打ち破っていく。そのために、地方の店舗の現状を深く掘り下げる。そして、最後には、スーパーや交通手段が単純な商売ではないことを指摘する。ということで、最初は、採算が取れないスーパーが撤退するという問題を紹介する。
採算が取れないスーパーが撤退
儲からなくなったスーパーが閉店してしまうと、周辺住民は生活に困ってしまう。もちろん、東京でも人気が出なかった店は撤退することがある。ショッピングモールに行けば、1テナントぐらいは空きがあるはずだ。だが、地方の場合は道路沿いの1店舗が潰れ、周辺に代わりがないということも起こりうる。そのお店がスーパーであれば、まさに買い物難民になってしまうのだ。
都市圏のみんなが使う駅前スーパー
そもそも採算が取れないひとつの理由がお客さんが入らないということである。それがアパレルショップや特定の料理を扱う飲食店だった場合、「需要を読み違えた」ということで閉店しても問題ない。しかし、スーパーだった場合、お店の都合で生命線を断たれることになる。
東京であれば、駅前のスーパーを(何千人という)みんなが使う*2。だが、地方都市であれば、近所の人が自宅または職場から離れた場所にわざわざ行く必要がある。そのため、地方のスーパーは、みんなが寄り道してくれる都心のスーパーよりも採算が取りづらい。採算が取れないスーパーが撤退してしまうことで、近所に他にスーパーがない人は買い物難民になるのだ。
交通機関が撤退
自家用車がないと交通手段に困るというのは上記の通りだが、交通手段に需要が関係してくるという問題もある。つまり、採算が取れない手段は数が減ったり、廃業したりする可能性があるのだ。
都市圏の郊外では、東京や大阪・名古屋などに通勤・通学するため、毎朝・毎夕必ずバスに乗る人がいる。交通手段を必要としている人が大勢いてそれが毎日使われている状況があるため、廃止になることは稀だ。しかし、地方都市の場合は大人は車を使う。バスに対する需要がそこまでないため、交通市場から退出してしまうのだ。
利便性と需要
都市圏の場合はシャトルバス等を用意し、あるいはショッピングモール内外に路線バスのバス停を設置して、駅からシームレスに郊外のショッピングモールに連れて行ってくれる。だが、地方都市では必ずしもそうではない。家が駅の徒歩圏内にあるとは限らないし、ショッピングモールの最寄りのバス停自体がショッピングモールから徒歩数分という場合もある。
そもそも、地方都市のスーパーやショッピングモールは、専ら徒歩や自転車・自家用車での来店を想定している。多分、そのスーパーを利用するであろう地域を回る送迎バスを手配しても、スーパーの収支を圧迫しかねない。利便性の向上が新たな需要を創出すればよいのだが、地方都市では底が見えている。だから、買い物難民の利便性を向上させる手段を取らないのだ。
ネットショッピングの限界
インターネットがあれば、買い物難民はいなくなるのではないかという声もあるだろう。たしかに、ネットショッピング(eコマース)の発達で、家にいても手軽に買い物が楽しめると言われている。最近では、オムニチャネルという言葉も登場し、百貨店やショッピングモールは実店舗でも買い物をしてもらえるよう必死になっている。
だが、実際にはネットの恩恵も薄まりはじめている。配送業者の疲弊で当日や翌日の配送が困難になっており、直近ではAmazonの「デリバリープロバイダ」のサービスの質の悪さがネットで物議を醸している。今や、「IT革命」「情報のグローバル化」なんて悠長なことは言っていられなくなっている。
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手に届くまでの時間
配送業者の疲弊以上に注目したいのが、実店舗で買ったほうが早いという問題だ。そこまで忙しくなければ、実店舗で買ってしまったほうがよい。ドラッグストアであれば、遅いところは23時までやっている。スマホの充電ケーブルなどの小物に関しても、コンビニで買える。送料も余分にかかってしまうし、普通であれば、実店舗で買ってしまったほうがよい。
だから、私もこっちに来るまでは、「楽天でシャンプーとか売ってるけど、誰が買うんだろう?」と思っていた。しかし、お店が少ない地域だと、実店舗よりネットで買ったほうが早い場合がある。賢くまとめ買いすれば、送料を無料にすることができ、バスで繁華街に行ったときの交通費より安くできるはずだ。ただ、モノが手に入るだけマシなだけであって、時間はかかってしまう*3。そういう意味では、地方と都市とで格差があると言ってもよい。
参考:
5000兆円欲しい
ここまで指摘したことから明らかな通り、民間や市場原理に任せた結果、都市ばかり買い物が便利になっている。例えば、地方のパンケーキ店が潰れたぐらいであれば、「田舎だから仕方ないよね」と言えるが、スーパーが潰れたらシャレにならない。これは電車やバスの路線も同じだ。
こうした暮らしに寄り添う業界はインフラを自称することがあるが、道路や水道は需要がないからといって撤退したりしない。本当にインフラなのであれば、需要に関係なく維持していくべきだ。私は赤字経営をしろと言っているのではない*4。行政の支援が必要となっていると言いたいのだ。5000兆円とは言わないので、地方の人が買い物をしやすくなるような支援事業にもっとお金を割いてほしいところだ。