この国では労働の一般的定義が狭すぎる
日本という国では、これほど会社員のブラック労働が浮き彫りになっていても、会社員至上主義がまかり通っている。
絵師が会社員に不当な契約を結ばされたり、すでに「就職」しているフリーランスの労働者が就職しろと言われたりする。
サッカー選手に代表される一部の契約労働者はもてはやされるが、華やかさの裏にも闇はあるはずだ。
多分、会社員になること以外は就職と思われておらず、正規雇用以外は邪道とか裏道だと思われているのだろう。
労働者とは会社員のことで、それ以外は無職や趣味と同じ。
そのような印象を受ける。
同じ職場で働いていても、非正規雇用であればエレベーターが使えない場合があることからも、待遇の差は明らかだ。
このように、日本においては、会社員以外の労働者が何らかの不当な待遇を受けている。
もちろん会社員も不当な待遇を受けていると思うが、今回はそれ以外の話をしたい。
趣味扱いされる絵描き
先日、イラストの作成を依頼された高校生が代金を請求したら、ケチ扱いされるという事案が発生した。
この事案に代表されるように、どんなに時間がかかっても、どんなに傑作ができても、相応の対価が支払われないというのが絵描き業界の問題になっている。
そのイラストを使った商品が何万個・何百万円と売れても、イラストレーターに適当な報酬が支払われないのはおかしいとは思わないだろうか?
絵なら子どもでも描ける?
ここで、絵なんて子どもでも描けるんだから、労働の対価を支払う意味はないという反論が出てくるかもしれない。
それならば、営業担当者が自分で絵を描き、それを商品にしようすればよい。
しかし、そういうわけにはいかない。
きっと、企画意図を上手くアウトプットできないはずだ。
そもそも、イラストレーターは相手の意図を読み取り、それをイラスト化する職人である。
リフォームの工務店と同じで、職人が自分の好きなものを自分の好きなように作っているわけではない。
前述のような不当な請求があるような現場では、イラストレーター1人がデザインから作成まで行う場合が多いと思う。
これは、リフォームの現場で言えば、設計士と作業員の両方をやっていることになる。
よしんば設計図の作成だけなら低報酬だったとしても、作業員としての労働時間は考慮に入れるべきではないだろうか?
いずれにしても、イラストレーターに低い報酬で作業を依頼をするのであれば、大工の報酬も同様に減らすべきである。
海外並みの報酬がもらえないe-Sports選手
先日、e-Sports界において、いろんな意味で非常に残念なニュースがあった。
海外のゲーム大会で、日本人選手には賞金を出さないという但し書きが出されてしまったという事案だ。
運営側の法解釈では、ゲーム大会がゲームソフトのおまけ(懸賞)と見なされる可能性があり、それが日本の景品表示法に抵触する恐れがあるということだった。
競技における勝利の対価がおまけと同等に扱われてしまうというのは、残念なことである。
e-Sportsは遊び?
世間的には、頭脳プレイやチームワークを駆使したスポーツとしてのe-Sportsの認知度はまだまだ低く、ギャンブルと同列に扱われている。
これでは、「遊びでお金をもらっている」と思われても仕方ない。
では、将棋や囲碁のような遊戯でお金をもらっている棋士はどうなのか?
遊びとして認知されているボウリングをするプロボウラーはギャンブラーと同じなのか?
反論は枚挙に遑がない。
子ども向けゲームの大会が開かれ、大人が参加しているという話も聞くが、賞品・賞金はレアアイテムなどに限られる。
所詮子どもでしょうと思われるかもしれないが、作文能力を競う作文コンクールなどでは子どもでも金券がもらえる。
競技になりうるe-Sportsを「遊び」から解放するには、入賞者に正当な報酬を与えることが肝要だ。
芸能人への差別的偏見(逆パターン)
では、フリーランス労働者・契約労働者は全部下に見られているのか?
いや、芸能人などはむしろ、お金をもらって正当な待遇を受けていると思い込まれている。
しかし、テレビで仕事をもらっている芸能人でも、副業でアルバイトをしている場合がある。
それなのに、好きな芸能人のイベントにタダで行けるなど、お釣りがついてくると思い込まれている節もあり、世間の芸能人に対するイメージと現実は必ずしも一致していない。
現実として、彼らの待遇は「素人」以下だと思う。
見つかると騒ぎになるのでまともに外出できず、プライベートでイベント等に行ったことを報告すると売名行為として叩かれる。
普通の会社員であれば、そうは言われないのに。
ソーシャルメディアでは、性的嫌がらせを背景にアカウントを閉鎖しているケースもあり、配慮の必要のない一般人との差が浮き彫りになっている。
研修費用は自腹
一般の会社員であれば、研修費は会社の負担であり、退職時に研修費用の返還を求めることは法律違反であると考えられている*1。
しかし、芸能人の場合はレッスン代が有料のケースがあるようで、それにプラスして引き止めの圧力がかかっているという。
芸能界の働き方改革については公正取引委員会が動いているとのことなので、今後の改善が期待される。
会社という鞘に収まればよいか?
ここまで会社員ではない労働者が不当な扱いを受ける例を挙げてきたが、そこまで言うのであれば、普通に一般企業に入ればよいという指摘はあると思う。
だが、その意見は的を射ていない。
彼らがプロゲーマーやイラストレーターという道を選んだのは、エラーではないはずだ。
ゲームで稼ぎたい、イラストでご飯を食べたいと思ったから、その仕事を選んだのだ。
それは人類に認められた真っ当な権利であり、他人の好き嫌いで否定されることは許されない。
それ以前に、一般企業も安全とは言えない。
雇用や労働者の権利が守られることにはなっているが、それが現状全部守られているかと言えば、そうではない。
「シリアより安全だから北朝鮮に来なよ」と言われて、誰が北朝鮮に行くだろうか?
企業VSそれ以外の労働というのは、そのような低レベルの比較にすぎない。
低レベルの安定を求めるぐらいであれば、ぐらついていても自分の道を進める方がよいはずだ。
会社員至上主義からの解放
本題に戻ろう。
「会社員様が偉くて、それ以外はカス」という風潮は変えていかねばならない。
働き方改革で言われている「同一労働同一賃金」にも通じるところがあるが、「会社員様」が派遣労働者からイラストレーターまであらゆる人の運命を決めてしまうことは問題だ。
「自分は月収XX万もらっているけれど、それ以外の労働者はカスだからイラスト1枚100円でいいや。」
そんな思考があるから、イラストレーターやフリーランサーは報われない。
もちろん、会社員側にも予算があるはずで、仕方ない面があると思う。
イラストには作成者がいて、お金がかかるんだということを上の人間が理解しない限り、この現状は改善されない。
イラストレーターに限らず、会社員以外の労働者を救うには、社会全体が会社員至上主義から解放されなければならない。
いつまでも非会社員の労働者を弄んでないで、彼らの社会における活躍にも目を向けなさい。