人工知能は医師のアシスタント
人工知能(AI)の医療への応用の話題を多く耳にするようになった。
昨日も、入院患者の体温や心拍数を測ることで、焦りやストレスを感知する技術が開発されたことがニュースになっていた。
この技術によって、焦った患者がベッドから転落するなどの事故を防ぐことができるのだという。
このように医療の分野にAIが入り込んでくると、ひとつの大きな懸念が生まれる。
「AIのせいで医者が失業するのではないか?」
いや、そうしたことはあり得ないだろう。なぜなら、AIの力は限定的だし、そもそも現在、医師は不足している。
医師不足の現状
医師の過労死・過労自殺は会社員と同様に問題になっている。
しかし、医師の場合は、患者の命にも関わってくるため、働き方改革と医師不足の間で板挟みになっているのが現状だ。
でも、四面楚歌になっているわけではない。例えば、新潟のある病院では、受け入れ患者を限定することで医師の業務時間を減らそうとしている。
最近、大病院で紹介状を持たない患者を受け入れないのは、「バカが増えた」というよりも、医者が足りないからなのだ。
このような状況において、AIは助け舟になるだろう。これは、一般の会社員や職業においても同じことだ。
医療をサポートする人工知能
今、AIに期待されているのは、医師という職業にとって代わることではない。
医術という難しい仕事をサポートすることである。
医療業界とIT業界は、医療の担い手が足りない、需要に対して供給が足りていない状況を少しでも改善しようと頑張っている。
例えば、亡くなった方の死因の診断をする病理医。
そのサポートをするシステムの開発が急がれている。
本来、病理医は複数人いるのが望ましいが、病理医が1人しかいない病院も多い。
そこで、1人の病理医をサポートして効率化し、負担を和らげるシステムが今回、提案されたのだ。
人体という共通のものを扱う医療は、他の分野に比べて団体ごとの違いが少ない。
そのため、広く社会に影響を与えることが予想される。
人間を超える人工知能の記憶・処理能力
とはいえ、AIは人間よりも記憶力に優れ、法則を見つけ出す力に優れている。
人間は風邪から難病まで全ての病気を把握できるわけではない。
しかし、AIにはそれが可能だ。
つまり、記憶や論理的な推論をする仕事は、将来、AIにとって代わられる。
人間が細かな物事を覚えることは、仕事に役立たなくなるだろう。
だからといって、人間の医師がただちに仕事を失うわけではない。
AIが診療医の全ての動作をコピーできるわけではないし、言語化・映像化できない診断基準(=医師の勘)を学習することは難しい。
AIには代替できない人間的な仕事
現状は、機械が学習できる分野においてのみ、AIが役に立つと考えてもらえばよいと思う。
コンピュータが100%代替できる職業を目指す意味は薄れてきているが、人間的な部分を活かす仕事は残る。
たしかに、「人間はAIが作曲した曲とクラシック音楽を聞き分けられない。
だから、心を込めることは意味がない」という話もよく聞く。
だが、心を込めることだけが人間的な作業ではない。
人間だからこそ使える第六感を活かすことが重要だ*1。
医師不足が解消されるのはずっと先
超長期的に考えれば、必要な医師の数が減るのは確かなこと。
だが、半年後・1年後に突然クビを宣告されることは考えづらい。
現在、医師が不足しているのは事実なので、数十年先の未来を見越して医師になるのをやめる人が出てくると、困ったことになる。
明日、医師不足が突然解消されるということはありえないので、医学部を目指す人はどうぞ、医学部を目指してほしい。
仕事量削減と賃金上昇
AIが仕事量を減らしたとしても、賃金が増えなければ意味がない。
今、日本では、長時間労働と低賃金という、本来相いれない事柄が同時進行している。
そのような状況で、人間にはAIを活用して新たな付加価値を生み出すことが求められている。AIに人間の職業を譲ることではない。
もちろん、従業員の賃金を増やすには、経営陣の努力が必要だ。
だが、その努力にこそ、AIが役立つ。
はやっているからといって、AIを使った事業をテキトーに発注して資金をドブに捨てるのではなく、よりよいことのためにAIを使うべきだ。
追記:医者を助けるのはAIだけではない(2018/2/9)
医者をサポートする技術にVR(仮想現実)がある。
臓器の感触を再現したり、遠くにいる医師を指導したり、遠くにいる患者を治療したりする技術も開発が進んでいるそうだ。
今後、治療を受けるために遠くへ行かなければならないという人が減るかもしれない。
VR(仮想現実)を使えば、遠くにいる人を教育できる - 気持ちのサンドバッグ
*1:逆に、AIはビッグデータを使うことで、論理的に説明できないのに正しい判断をすることもある。それは第六感とは違うので、住み分けは可能だと考える。