ものづくりは試行錯誤の連続? 熱いドラマ?
皆さんは、NHKの「超絶 凄ワザ!」という番組をご存じだろうか?
製造業に携わる大企業や町工場、あるいは大学の学者らが、より優れた機器を作る競争をするという内容だ。
番組では、毎回、積荷を傷つけない台車や強い衝撃に耐えられる防災用の帽子などのテーマを設けていた。
そのテーマに沿って2つのチームが対決するが、番組ではその試行錯誤の過程をドキュメンタリー形式で描く。
そのような番組を見ると、ものづくりとは手の感覚や人間のひらめきを頼りに、長い時間悩み抜いて行うものだという印象を受ける。
下町の町工場を舞台にしたドラマなども作られていて、日本の町工場は世界一だと思っている人もいるのではないだろうか?
ものづくりは短いスパンで
残念ながら、3Dプリンターの普及により、町工場の熱いドラマは終えんを迎えそうだ。
パソコンで設計をし、3Dプリンターで直ちに正確に出力する。テストで悪かった部分を修正し、すぐに修正する。もしかしたら、テストすらない。
時代は、手の感覚に頼った職人の試行錯誤をなくす方向へ進もうとしているのだ。
「短い期間で結果を出す」
これが、これからのものづくりのスタンダードになるだろう。
3Dプリンターならいつでもフィットする
例えば、車いすマラソンの選手にとって、手にフィットするグローブを作ることは重要だ。
従来は自分で型をとって、試行錯誤しながら、自分にフィットするかもわからないグローブを作っていた。
しかし、今は3Dプリンターがあるので、自分にあったグローブを何度でも作れる*1。
町工場のおじさんたちが熱いドラマを繰り広げて作った粗悪品と、3Dプリンターが量産した優良品。
あなたならどちらを選ぶだろうか?
3Dプリンターは日々進化する
さすがの3Dプリンターも、スイッチひとつでなんでも作れるわけではない。
でも、なんでも作れるように、日々進化している。
例えば、アディダスは、3Dプリンターを使って、スポーツシューズを量産している。
この3Dプリンターは、従来は扱えなかった種類の樹脂を使用可能にしたものらしい。
ソフトウエアの進歩で、そうした樹脂が短時間に、正確に、安全に加工できるようになった*2。
こうして、高度な加工技術を持った町工場は、3Dプリンターに代替されつつある。
上記の例のように、製作は工業機械メーカーの開発した機械が正確にやってくれる。
人間はよりよい製品を設計するためだけに試行錯誤すればよい。
ちなみに、3Dプリンターの導入で、従来は18か月だった開発期間が6か月に短縮されたらしい。
これまでの3倍のスピードで開発し、量産までできるというのは、町工場にとって耳が痛いことだろう。
手作りはやがて潰される
もちろん、町工場で3Dプリンターを採用しているところもあるかもしれない。
だが、「俺たちは長年培った職人の勘で」と言っている町工場は、「ひよっ子」たちにつぶされるだろう。
ついに不採用となった日本製品
下町の町工場の有名な仕事に、下町ボブスレーがある。
日本の町工場のソリは競技で使われることで有名だが、このたび、ジャマイカの選手が日本のソリを使わないことを決めた。
ラトビアのソリの方がタイムが出るということだった。
残念ながら、規模の小さい非効率な日本の町工場に、大きな大会で優勝できるソリをつくることはできない。
なぜなら、日本の町工場では、科学に基づく現代のスポーツに対応できない。
スポーツは科学 職人は勘
陸上の選手が科学の力で作られた3Dプリンターの靴で走っている中、ボブスレーの選手は職人の勘で作られた手作りのソリで滑らなければならない。
もちろん、毎日グラウンドを10周したとか、コンダラを引いたなどの苦労話がアスリートから語られることもある。
でも、そうしたアスリートも、今は科学に基づいて必要な筋肉だけを鍛えたり、フォームを修正したりしている。
アスリートが求めているのは、理論に基づいて自分の力を最大限に引き出す器具だ。
おじさんが勘で作ったよく飛ぶ竹とんぼではない*3。
力と力をつなぐことはできる
優良品を作れない多くの町工場は、3Dプリンターにつぶされてしまうだろう。
だが、町工場の完全な消滅に否定的な人もいる。
例えば、東京の浜野製作所は、他業種と町工場をつなげるプロジェクトのかじ取り役だ。
町工場は加工技術の担い手として、技術を持たない他の企業を助けることができる。
浜野製作所のGarage Sumidaは東京という地の利を活かし、町工場、ひいては日本のものづくりの復権を狙う。
このように、高度な加工技術、高度な知識、高度なニーズをつなぐことで、日本の町工場は復活するかもしれない。
町工場の中には、3Dプリンターはまだ町工場の高度な加工技術に遠く及ばないと考える人もいるようだが、今後どうなるのだろうか?
*1:JSR、3D技術を通じてパラアスリートのパフォーマンス向上を図る「スポーツ・アンド・ヘルス イノベーション コンソーシアム」に参画 | 2017年 | ニュース - JSR株式会社
【アスリート社員として働く】車いすマラソン リオパラ五輪代表:洞ノ上浩太 - Yahoo! JAPANコーポレートブログ
*2:「開発期間3分の1」「年産100万足」、アディダスが選んだ3Dプリンタとは (1/2) - MONOist(モノイスト)
*3:実際、下町ボブスレーは東京都大田区の中小企業や大学の教授などにお願いして作ったそうだ。ただ、彼らはボブスレーの専門業者ではなく、あくまで各企業の技術の流用だった。まさに町工場のおじさんが作った竹とんぼである。