セカンドレイプを防ぐために
男性の財務事務次官が記者と思われる女性にセクハラ発言をする音声データが公表された問題。
世界的な広がりを見せる”MeToo”運動の一環として、注目を集めている。
しかし、
- 「風俗店の店員に対する発言を記者に対するものとして公表している」
- 「ハニートラップだったのではないか?」
などいわれのない誹謗中傷がネット上に書き込まれているのも事実だ。
今回の事案に関連して、性被害に遭った人の取り扱いについて考えたい。
身元を明かせという恫喝(どうかつ)
この件について、財務省はセクハラを認めず、被害を訴える記者に対して内部調査に協力するよう求めている。
これは、被害者のプライバシーを守る上で非常にまずいやり方である。
被害者の保護は絶対
性犯罪・セクハラ被害者のプライバシーは守られるのが原則。
性犯罪・セクハラは被害者の尊厳を傷つける行為であり、本人は告発すらためらう。
それに付け込んで、加害者が再犯をする恐れもあるそうだ。
そのため、被害者の秘密が最大限に守られることを前提に捜査・調査が行われている*1。
それが徹底できていない警察があると、被害者は泣き寝入りせざるを得なくなる。
セカンドレイプの恐怖
また、被害者が世間から非難されるという二次被害(セカンドレイプ)も問題になっている。
そうした発言は事実に反するものも多く、性被害者全体への偏見を強めかねない。
例えば、レイプ被害者に「相手を誘惑するような服を着ていたのではないか」と指摘する人もいる。
だが、被害者はごく普通の地味な服を着ていることが多いとのこと*2。
職場のセクハラでは、対応する担当者の言動によって、被害者がさらに傷つけられること(セカンド・ハラスメント)もある*3。
心無い誹謗中傷を避けるためにも、性犯罪・セクハラの被害者は名乗り出られずにいる。
現実に起きているセカンドレイプ
それには、被害者の実名公表に関することも含まれる。
たしかに、以前あった事件の被害者は例外的に、勇気を持って名前を公表した。
被害者個人の判断によるものだ。
それは今回の被害者には当てはまらない。
実名を公表しろという恫喝、それ自体がセカンドレイプである。
被害者の名前がなくても議論はできるのに、なぜ実名公表を求めるのか?
被害者をたたきたいからではないのか?
財務省は御用弁護士を用意
財務省は、被害者に直接名乗り出ろと言ったのではない。
財務省が用意した弁護士へ名乗り出ろと言っている。
これがまずいことはわかってもらえるだろうか?
仮に事案が事実だとすれば、事務次官に被害者の情報が筒抜けになり、さらなる被害の恐れがある。
最悪の場合、被害者の実名が暴露され、被害者が事件をねつ造したかのように仕立て上げられるかもしれない。
今回の事案で被害者のプライバシーが最大限に守られることを願う。
音声のねつ造の可能性について
今疑われているのは、風俗店などの店員に向けて言った内容を、あたかも記者に言ったかのように報じているのではないかということである。
仮にそのような店だったとしても、ねつ造と断定することはできない。
そのような場所で、記者が事務次官に接触した可能性もある。
いずれにしても、証拠品の真偽を判定するのは警察・検察の役目だ。
素人である私たちがねつ造を断定することはできない。
セクハラの特殊性を意識しつつも、事実が確定していないことを忘れないようにしよう。
(2018/4/19 ソース追加。一部に文章追加。)
*1:参考:性犯罪被害にあってしまったら | 高知県警察ホームページ「こうちのまもり」
職場でのハラスメントでお悩みの方へ(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント) |厚生労働省
*2:地味な服装のファッションショーにざわつく観客 理由を知り、言葉を失った – grape [グレイプ]
レイプ被害者が当日に着ていた服のファッションショーは、話題になった。
*3:セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ |厚生労働省
*4:推定無罪の原則というものもあるが、これは被害者に不利な環境で捜査・裁判を進めるという意味ではない。被害者が用意した被害者の弁護士と加害者が用意した加害者の弁護士、両方いてこそ公平と言えるのではないだろうか?