仮面ライダーに出演するということ
とある事件を起こした俳優について、「仮面ライダーシリーズに出演した」という報道があった。
当該俳優はゲスト出演こそしたが、レギュラー出演者ではなかった。
言うなれば、ドラマ『相棒』の犯人役で1回出演した俳優について「相棒シリーズに出演していた俳優が逮捕」と言っているようなものだ。
この報道によって、番組自体もけなされている気がして、よい気分ではない。
テレビや報道機関は見出しで視聴者の気を引く必要があるが、これは何も知らない人の誤解を招く悪質な報道と言えるのではないだろうか?
レギュラー出演かどうか
そもそも、仮面ライダーに出演するとはどういうことを意味するのだろうか?
第一に、仮面ライダーに出演というぐらいであれば、レギュラー出演者であるのが妥当だ。
レギュラー出演
平成仮面ライダーシリーズは5-10名程度のレギュラー出演者によって1年間(48話程度)放送することが多い。
休日などの商戦に合わせて、人物が退場したり、加入したりする。
当初はレギュラー扱いだったが、12話でクランクアップするという出演者もいる。
ライダーも例外ではなく、場合によっては登場から4話以内に退場する。
ゲスト出演
2話で1エピソードとして放送されるシリーズも多く、その2話ごとにゲストが出演することもある。
シリーズによっては、その人物が不定期に準レギュラー出演するが、2回限りで退場することのほうが多い。
2話限り出演の俳優を「仮面ライダーシリーズに出演」と言えるのであれば、人気ドラマにゲスト出演したあらゆる人を「××に出演した俳優」として報道できてしまう。
それは、番組にとって風評被害以外の何物でもない。
正義と悪
第二に、仮面ライダーに出演するというとき、正義の役か、悪役か、あるいは民間人の役かを区別するのは重要なことだ。
善意の怪人・悪のライダー
特に、平成仮面ライダーシリーズは、正義と悪の境目が曖昧である。
善意の怪人や悪の仮面ライダーが頻繁に登場する。
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今年のシリーズ(『仮面ライダービルド』)では、悪の戦士や悪の仮面ライダーに変身するためのおもちゃまで発売している。
先日、強制わいせつ事件を起こした俳優も、以前のシリーズで悪の仮面ライダー役だった。
奇抜な怪人は少ない
それに、「イケメン俳優」が悪役で起用されることもある。
闇のアイテムを手に入れた普通の人間が怪人に変身するという作品もあり、奇抜な服装やメイクをした悪役は少なくなっている。
「仮面ライダー出演者」とだけ言うと、あたかも正義のヒーロー役であったかのような印象を受ける。
正義か悪かただの一般人役かを区別して報道すべきではないだろうか?
子どもに夢を与える?
子ども向け番組のキャストが捕まったときの決まり文句は「子どもに夢を与えるべき◯◯がとんでもないことをした」だ。
でも、出演期間の長さや正義か悪かによって、子どもに夢を与えていた度合いは変わるはずである。
それに、バイキンマンやドロンボー一味のような愛嬌(あいきょう)のある悪役ならまだしも、人の命を奪うような残忍な悪役などが子どもに夢を与えるとは思えない。
傍観者の期待にすぎない
そもそも、子どもに夢を与えるというのは、傍観者の期待にすぎない。
工事現場でショベルカーを動かしている運転手は、子どもに夢を与えようと思っているだろうか?
ケーキ屋さんは子どもに夢を与えることを考えながら、ホイップを泡立てているだろうか?
メディアは、働く人が子どもに夢を与えているのではなくて、子どもが勝手に夢を受け取っているにすぎないということに気づくべきだ。
子ども向け番組に出演するタレントは、模範的な行動を常に心がけなければならないわけではない*1。
メディアが語りたいストーリー
メディアは、仮面ライダーのブランドを濫用して、正義のヒーローが悪に堕ちたというストーリーを作りたいのだろう。
そのために、あたかも犯人が正義のヒーローであったかのように語る。
これは「保育士が幼児を殴った」「介護士が入居者を襲った」などと同じではない。
職業自体を誤って報道しているのだから。
本来であれば、正義の仮面ライダー役でレギュラー出演していた俳優について、残念だというべきだ。
あのような報道をするメディアこそ真の悪人ではないだろうか?
*1:模範行動をしなくてもよいとはいえ、犯罪をすることは許されない。