参加者全員が不幸になるバトルロイヤル エンタメとしては優秀
2018年11月現在、芸能人向け配信サイト「SHOWROOM」にて、バーチャル配信者(≒VTuber)の公開オーディションが行われている。
その形式は、同じ名前・同じ姿のキャラクターにエントリー番号がつけられ、それぞれがネット活動を行うというもの。
いわば、キズナアイや輝夜月のようなVTuberが同じ絵で十何人いるような状況だ。
その潰し合いの構図がいかにも蠱毒(こどく)のようだと話題になっている。
蠱毒とは
毒を持つ動物を争わせ、一番強かったものを祀(まつ)って人を呪ったとされる呪術である。
今回は、「参加者全員が不幸になるバトルロイヤル」という意味で使われている。
どういうことなのかをざっくり説明する。
見せ物としての面白さ
バーチャル配信者を公開オーディションで決めるという珍しい試みは、ネットユーザーの心をつかんだ。
同じ顔の人に番号がつけられている状況は、ユーザーの想像力を刺激する。
バーチャル配信者の「人格」が消えていくことに芸術性を見い出す人もいるようだ。
もちろん、候補が脱落していく過程にもドラマがあり、エンターテインメントとしては優れている。
バーチャル配信者のコンセプト:ネズミのキャラクター
一方で、「中の人」がいることはバーチャル配信者のコンセプトに反するという声がある。
バーチャル配信者は、技術者が公表されることはあっても、声を当てている中の人が公表されるケースは少ない。
あくまで、ひとつの名前と姿を持った「人」が配信を行っている。
例えば、キズナアイという1人の人物として扱われている。
同じ姿の人が別の人格をもって配信をするのは、いわば、キズナアイというファンタジーを壊す行為だ。
ネズミのキャラクターの着ぐるみを着た人が10人くらい同時に現れて、誰が一番ふさわしいかを決めているようなものである。
オーディションでオピニオンリーダーを潰す意味
オピニオンリーダーを1人に絞るコンペは、商売的には失敗するだろう。
配信者というのは、オピニオンリーダーだ。
ゲームやアプリを試して、ユーザーにも使ってほしいと呼びかける。
これによって、商品に対するユーザーの評価(オピニオン)を形づくる。
既存の有名な職業では、ファッションモデルに近い。
ファッションモデルを潰していくようなもの
今やっているのは、いわばモデルを消していく戦いである。
彼女らがブログで紹介した香水は、「人気モデルの◯◯ちゃんが使っている香水」として評判になる。
モデルが消えれば、その評判になる機会がどんどん失われていく。
仮に◯◯ちゃんだけが生き残っても、それ以外のモデルのファンが◯◯ちゃんを好きとは限らない。
結果として、モデルとファンによって作られた情報ネットワークは小さくなってしまうのだ。
これがバーチャル配信者の中で起きようとしている。
十数人のオピニオンリーダーを失うことは大きな損失だと考えられる。
誰も得しない可能性 2位以下は損?
イケメンコンテストなどでは、2位以下の人にも活躍のチャンスがある。
でも、今回のオーディションは匿名性なので、2位以下には何も残らない。
時間と労力がパーになる。
それから、上にも書いた通り、1位の人の支持者しか残らない可能性もある。
その人数が、人気投票に参加した全体のユーザーの10分の1に満たないこともありうる。
企画としては面白いが、利益につながらないかもしれないのだ。
(投げ銭にしても、商品の購入にしても。)
それどころか、2位以下の人とその支持者は敵に回ることが容易に想像できる。
1位の人の毒が一番強いというのが、バーチャル蠱毒と言われる所以である。
配信サイトの町おこしとして
今回の話は、あくまでバーチャル配信者をオピニオンリーダーと考えた場合のことだ。
客寄せ・話題作り・町おこしとしてであれば、十分に役割を果たしている。
今回の件で、SHOWROOMを知ってくれるネットユーザーが少しでもいるならば、成功といえると思う。
オーディション企画で出来た輪をどこまで広げられるかは、配信サイト次第である。
バーチャル配信者のオーディションは、エンターテインメントや話題作りとしては優れている。
一方で、バーチャル配信者をトレンドの先導者だと考えると、消していくのは損な感がある。
十数人が同時に存在することで、キャラクターが実在しているというファンタジーが壊れてしまう。