根拠がないガセ情報・報道からの推測も
大手アニメ製作会社「京都アニメーション」が放火の被害に遭い、多くの命が失われた。
そんな中で、ネット上ではこれまでにないほどのデマが拡散されている。
ファクトチェックはしきれないものの、根拠がない、または不明瞭なことは確実だ。
根拠に欠け、断定できない情報がまことしやかに書き込まれている。
報道からの推測が真実として拡散されている。
現在ネットに出回っている偽情報をできる限り紹介していく。
誰も見ていない 当時の状況が拡散
犯行当時の状況に関する噂が拡散されている。
ネットユーザーは誰も現場に居合わせていないので、それらの情報はただの推測だ。
「屋上へのドアが施錠」はデマ 消防隊員が解錠を確認
「タバコの吸い殻のポイ捨てが原因で、屋上が施錠されていた」との情報があった。
階段に遺体があったという報道から着想したものと思われる。
実際には、多くの報道で、屋上のドアは施錠されていなかった可能性が指摘されている。
消防隊員は外から開けることが可能だったようだ。
「屋上に到達できなかった」と考えるのが自然だろう。
参考:
京アニ火災 屋上へ逃げ切れず 十数段の階段で19人を発見 - 産経ニュース
「テレビ局の取材でセキュリティ解除」は無根拠 勝手な憶測も拡散
現在2つの、いかにも関連しそうな情報が報道されている。
来客のために入り口のロックを解除をしていた*1。
テレビ局のディレクターが取材に訪れる予定だった*2。
この2つの報道を前提に、
テレビ局のディレクターが来るのでロックを解除していた
テレビ局の指示でロックを解除していた
テレビ局が来るという情報が犯人に流出していた
テレビ局の職員は逃げて無事だった
取材のために京都アニメーションの主力スタッフが集結していた
放火はテレビ局の陰謀だ
などの根拠のない情報が流れた。
連想ゲームのように、あることないことが書き込まれている。
事実が明かされない以上、断定は不可能だ。
テレビ局の取材に関しては、「犯人が取材日を知っているはずがない」として、テレビ局の陰謀を疑う書き込みが散見された。
取材日に襲撃があったのは全くの偶然という可能性もあり、陰謀があったとは断定できない。
悪質な陰謀論に騙されてはいけない。
まとめサイトの内容は信じてはいけない。
関係者ではない個人の書き込みは信じてはいけない。
「◯◯が行方不明」 SNS中心主義が生んだデマ
一部のスタッフが安否不明だという真偽不明の噂が広まった。
事件後にSNSを更新していない人は、ネットの情報では無事かどうかわからない。
そうした人たちの一覧が「安否不明者リスト」として拡散され、正式な情報と誤解された。
人気作品の監督なども挙げられており、ネットユーザーの不安を煽った。
インターネットに対する認識の違いも
このような情報が拡散された背景には、インターネットに対する捉え方の違いがある。
インターネットのヘビーユーザーとライトユーザーでは、ネットへのアクセスの頻度や優先度が違う。
世の中には、何かあったらすぐにネットに書き込むという人もいるだろう。
一方で、こんな大変な状況でネットなんて、と思ったスタッフもいるかもしれない。
ネットユーザーに安否を教える必要はないと考えたかもしれない。
それに、火災でスマホが焼失した可能性もある。
SNSが更新されなかったからといって、亡くなったとは限らない。
犠牲者の氏名は発表されていない
7/19現在、亡くなった方の名前は発表されていない。
34人の身元の特定だけでなく、司法解剖や遺族の許諾にも時間がかかっている。
犠牲者の公表にはさらに時間がかかると見られ、「犠牲になった」というデマが広がるリスクが高い。
個人の書き込みを鵜呑みにせず、当局の発表を待とう。
「クラウドファンディング詐欺」は無根拠 主体は取引先企業
「センタイ・フィルムワークス」が、京都アニメーションを助けるためのクラウドファンディングを募っている。
同社はアニメの海外展開で、京都アニメーションと協力している。
にもかかわらず、
- 詐欺の可能性がある
- 寄付しても届く保証はない
- 営利企業への寄付は禁止されている
などの偽情報が流れている。
まず、このクラウドファンディングは、センタイ・フィルムワークスの公式ページでも紹介されている(2019/7/19現在)。
同社を騙った詐欺である可能性は低い。
「営利企業に寄付はできない」はデマ
それから、営利企業への寄付はできないという嘘の情報が流れている。
企業が企業から受け取った寄付金は、法人税上の収入に含まれる。
つまり、法律で禁止されている事実はない。
寄付をご希望の方は寄付しても問題ない。
参考:
Choose Sentai Filmworks to Fulfill Your Anime Cravings!
「届かないかも」という話には、募集者が対応している。
少なくとも、火災に乗じた詐欺ではないということは強調しておく。
ところで、京アニの商品の購入に関しても、善意に基づく未確定の情報がある。
「まったく京都アニメーションの利益にならない」ことはないので、善は急ぐことをおすすめする。
根拠がない! 動機がまことしやかに拡散
現在の犯人は重傷で、会話できる状態ではない。
しかし、拘束時に「パクりやがって」などと言っていたという情報があり、そこから憶測が広がっている。
拘束した(パクった)警察に逆上したとも考えられるが、真相は明らかになっていない。
「小説を盗作されたと勘違い」は未確認
新聞などが報じているのは、小説を盗まれたという説だ。
小説のアイデアを、アニメなどで勝手に利用されたということだろうか?
それが勘違いであることを前提にネット上で情報が拡散されている。
捜査が進んでいないため、犯人が小説を書いたか、京都アニメーションのコンペに出したかなどは明らかになっていない。
根拠に欠けるため、勘違いと断定するのは難しい。
また、本当に盗作されたとも断定できない。
「撮り鉄用語をパクられたと思い込み」は未確認 本人の証拠なし
京都アニメーションでは、吹奏楽を題材にしたアニメ「響け!ユーフォニアム」を作っている。
それに関するコミュニティサイトの書き込みから、動機を邪推した人がいる。
コミュニティサイトに、自分が作ったオリジナルの撮り鉄用語を書き込んだ人がいた。
アニメ内で使用された(伝統的な)吹奏楽用語がそれと同じだった。
そのため、アイデアをパクられたと誤想したのではないかと推測したようだ。
もちろん、これは全くの無根拠である。
ネットの情報からは、書き込みの主が犯人であると証明できない。
世の中には、コミュニティサイトでのトラブルが動機となった事件もある。
でも、今回もそうとは限らない。
犯人の情報 むやみに拡散しないで
毎度のことながら、ネットにおける犯人の情報にはデマが含まれている。
ガセ情報で訴えられるぐらいなら、拡散しないほうがマシだ。
事件の真相を知りたい気持ちはわかる。
だが、赤の他人が犯人の関係者と誤認されたケースもある。
原則として、現地や電話で取材しているメディア(テレビ・新聞や大手ネット報道機関)を参照してほしい。
大手メディアが裏を取りながら取材した場合でも、誤報はありうる。
だからと言って、取材に基づかない想像・妄想を信じるのは危険度が高い。
怪しい情報は拡散しない。
誤報だとわかったら、シェア・リツイートを含めて直ちに削除する。
知る権利は無限ではない。
*1:参考:
京アニ火災 33人の死亡確認 平成以降最悪 第1スタジオ、18日朝はセキュリティー解除 - 毎日新聞
*2:参考:
アニメ会社で放火 容疑者とみられる男 確保の様子 | NHKニュース
ディレクターが撮影した現場の映像が報道されている。タクシーらしき車窓が映っており、まさに到着時の映像と思われる。