仮面ライダーゼロワン 縄田雄哉にバトンタッチ
スーツアクターの高岩成二さんが、仮面ライダーの主演から降板することがわかった。
仮面ライダーゼロワンは仮面ライダーゲンム、仮面ライダーゲイツなどを担当した縄田雄哉さんが演じる。
一部メディアで引退と表記されているが、スーツアクター業を廃業するわけではない。
このニュースが報道されたのは、すごいことだ。
これまで「裏方」として存在を伏せられてきたスーツアクターが、ファンから惜しまれている。
今、世間での裏方の扱いが変わりはじめている。
高岩成二とは
高岩さんは、平成ライダー20作のほとんどで主役ライダーのスーツアクターを務めた。
平成ライダー(特に、主役の最強の姿)はスーツのデザイン上、肩の動きが制限されやすい。
そのような中でも、高岩さんはライダーに変身前の役者と同じ魂を込めた。
それから、複数人のライダーが合体した姿を演じる様子は「高岩劇場」として話題になった。
それぞれの人格が身体の主導権を握ろうとするコミカルの動きは、高岩さんの専売特許と言える。
同氏の功績はライダーの公式ネット動画でもたびたび話題になっている。
大人の仮面ライダーファンの間では、常識になりつつある。
高岩さんは、高度な技術と経験のある貴重な人材だ。
とはいえ、高岩さんが主演を続ければ、後輩が育ちづらくなる。
時代の節目での降板は、英断と言える。
裏方が大々的に報道される背景
裏方の著名人・タレント化
今、裏方は縁の下の力持ちではなく、有名人になろうとしている。
SNSアカウントでの発言が拡散されるだけでなく、トークイベントや講演会が開かれたりもする。
出演タレントではなく監督を目当てに、映画の舞台挨拶に行く人もいる。
このように裏方が著名人化している背景には、現代特有の事情がある。
インターネットの発達で、情報が得やすくなった。
その上、オタクが大衆化し、オタク文化が広く受容されるようになった。
その結果、物事を裏で支えている人々の人気が可視化され、あるいは増加した。
ほとんどタレントとみなされている裏方もいる*1。
スーツアクターや映画スタッフに限らず、今後もいろいろな職業の人が注目されそうだ。
情報の「見える」化への要求
現代人は、情報は開かれるべきだと考えている。
以前であれば、誰が何を作っていようと気にしなかった。
だが、食の安全性への懸念からトレーサビリティが注目されるようになった。
人権意識(知る権利)が向上し、政府や自治体の情報公開制度も積極的に利用されるようになった。
エンタメも例外ではない。
ニュースサイトなどの情報解禁はソーシャルメディアで多くのネットユーザーにシェアされる。
情報解禁時のネットでの盛り上がりは、ユーザーの知りたい気持ちの強さを感じさせる。
一方で、解禁された情報から勝手な憶測が飛び交う懸念もある。
誰が何を決定したかはスタッフの発言からのみ知ることができる。
にもかかわらず、「誰々が決めた」「誰々のせいで売上が低迷した」などの勝手な思い込みが拡散されることが多い。
悪い評判や勝手な予想が広まるのを防ぐためにも、しかるべきタイミングでの適切な情報公開*2が求められている。
今回のバトンタッチを秘密裏に行わなかったのは、正しい判断である。
ネットの発達・オタクの一般化などにより、裏方の知名度と人気が上昇している。
情報開示を求める声も多く、それがゆえに誤った情報が飛び交うこともある。正確な情報を流す必要がある。
裏方への問題意識も増大
搾取への批判
そうした中で、裏方の搾取・犠牲が問題視されている。
建設会社社員の自死、着ぐるみスタッフの病死などが報道されると、私たちは思いを馳せずにはいられない。
「裏方の犠牲で主役を立てる」社会の仕組みは、もはや隠せなくなっている。
そうした搾取への不満は、裏方本人から吐露されることも多い。
前述の講演会などでも、業界の現状が語られたりする。
発言力のある裏方の告発なら、搾取を揉み消すのは不可能であろう。
いずれにせよ、オタクを抱える業界にとって、搾取をなくすことは喫緊の課題だ。
アニメにしても、遊園地にしても、大金を落とすオタクが多い。
倫理に反する労働環境は、そうしたオタクたちの財布の紐を締める結果になりかねない。
亡くなった裏方は実名を公表すべきか?という問題
一方で、裏方のタレント化は死亡報道を難しくさせる。
京都アニメーションの放火殺人事件では、遺族の意向で、一部の犠牲者しか公表されなかった。
アニメスタッフは有名人なのだから、名前を公表すべきという声もある。
一方で、遺族の意向に従うべきとの声も根強い。
実名公表に踏み切ろうとするマスコミには、批判が集中している。
実際のところ、有名タレントが引退している場合、「数年前に亡くなっていた」などの報道もある。
有名人が亡くなったとしても、すぐ報道しなくてもよいのではないか?
テレビ以外の仕事=下積み?
そうした著名人・タレントの幅が広がる中で、テレビでの扱いが問題視される場合がある。
例えば、舞台俳優として活躍している人がテレビドラマでヒットした場合に、「遅咲き」とか「下積み」と表現される。
そうした表現は、実績を残してきた本人にも失礼だし、応援してきたファンもショックを受ける。
最近では、ワイドショーなどでネットのトレンドが紹介される。
表立ってテレビ出演しない著名人についても、正確な説明をすべきである。
ファンも裏方の搾取を危険視している。
亡くなった裏方に同情している。
テレビでの扱いを気にしている。
トップスターがもてはやされる風潮 業界の今後に不安も
これまで影の存在だった裏方がもてはやされるのは、よいことだと思う。
その一方で、弱肉強食の構造は変わっていない気がする。
今回、高岩さんが主役を退いたのも、実はタイミングが遅すぎる感がある。
スーパー戦隊はローテーションしながら、少しずつ新しいアクターを入れながら、キャスティングしている。
主役も数年で新しい人に変わる。
仮面ライダーは、高岩さんがスーツアクターをやらない年もあったが、それでも18年程度、主役が固定されていた。
絶対的人気にあやかりたい気持ちはわかるが、下の世代が育たない恐れもある*3。
もっと早く身を引くべきだったのではないか?
高度な技術が求められる業界では、スクールや専門学校の整備が進んでいる。
若手の才能が認められ、実力に応じて大仕事が勝ち取れる社会になることを切に願う。
*1:スーツアクターは、アクション俳優事務所に所属しているタレントである。スーツアクターやスタントだけでなく、顔出し出演しているタレントもいる。
*2:最近の仮面ライダー・スーパー戦隊・プリキュアでは、児童誌の発売前やおもちゃの予約開始前にニュースサイトで解禁することが増えている。違法アップロードを防止しつつ、ネット上のトレンドを独占している。
*3:多人数の仮面ライダーが登場する作品もある。そうした作品は若手を使う絶好のチャンスだ。でも、毎年多人数ライダーになるわけではない。積極的に若手を使っていかないと、上の世代の引退時にノウハウが失われかねない。(平成2期は2-3人の少人数ライダーが多く、それらの作品では高岩成二、永徳、渡辺淳(敬称略)の3人で回している。仮面ライダージオウで2号を演じた縄田さんは異例の抜擢といえよう。)