英語がわからない日本語学習者を無視してはいけない
"Evacuate"
あなたにはこの単語の意味が分かるだろうか?
仮に、韓国やドイツなどの非英語圏に滞在しているとき、災害に遭ったとしよう。
「外国人なら、英語がわかりますよね?」
現地人は、外国人のあなたに英語で情報を提供する。
“Please evacuate.”
それを英語学習者のあなたは理解できるのか?
今、非英語圏出身の留学生や労働者が日本で被災している。
彼らは英語の情報を理解できるだろうか?
英語学習者で日本語学習者の人
世の中には、第2言語として英語を学び、第3言語として日本語を学んでいる人がいる。
彼らは必ずしも英語が流暢なわけではない。
英語をマスターしたから、日本語にステップアップしたわけではない。
英語と日本語を同時に学んでいるのだ。
英語が完璧じゃないのに、大学で第2外国語を勉強した人は、日本人の中にも多くいるのではないか?
そのような状況で、難しい英語を出されても困る。
そこで重要なのが、やさしい日本語で情報を出すことである。
やさしい日本語とは
簡単な言葉を漢字とふりがなを使って表現した日本語のこと。
「猛烈な勢いで接近する台風」を「強くて大きい台風がきます」のように言い換える。
ふりがなの機能がないSNSなどでは、ひらがなをスペースで区切った情報も投稿されている。
単語の区切りや漢字がわかりにくいという「難しい日本語」のデメリットを緩和している。
NHKはやさしい日本語でニュースを発信
NHKでは、子どもや日本語学習者でもわかりやすい「やさしい日本語のニュース」を出している。
今回の台風19号では、Twitterを中心に、ひらがなばかりの情報を流した。
それに加え、専用のウェブサイト「NHK NEWS EASY」も展開している。
このページは漢字交じりだが、できるだけわかりやすい言葉でニュースを伝えている。
難しい単語をタップすると、意味が日本語で表示される。
これらとは別に、NHK WORLDが多言語でニュースを流している。
だが、世界にごまんとある言語にNHKは対応しきれない。
やさしい日本語のニュースは、多様な言語圏の出身者に向けて発信されている。
やさしい日本語は翻訳しなくてよい
英語がわからない日本人にとっても、やさしい日本語は便利だ。
例えば、台風で物流網に影響が出て、商品の入荷が制約されているとしよう。
「台風19号の影響で、物流が停滞しています」
これを店頭に掲示したとして、日本語学習者は分かるだろうか?
おつかいにきた小学生は分かるだろうか?
やさしい日本語なら、外国語に翻訳する手間・子どもに説明する手間を省ける。
中には、翻訳ソフトを使ってしまい、まったく意味の通じない・意味が変わっている文を掲示しているケースもある。
そうしたミスを防げるのも利点である。
「台風(たいふう)が吹(ふ)いたので、 品物(しなもの)がきません」
などと書けば、日本語初心者でも小学1年生でもわかりやすいはずだ。
やさしい日本語は拡散する
やさしい日本語は、日本語がわからない外国人が人伝いに情報を得るのに適している。
なぜなら、母語にかかわらず、多くの外国人が内容を理解できる。
英語だけ・中国語だけ・韓国語だけを併記した場合に比べて、内容をわかる人が圧倒的に多い。
さまざまな言語を母語としている外国人の皆さんが、母語を同じくする人々に情報を伝えられる。
その利点は非常に大きい。
あなたが想定していない言語の話者も、情報を得られる。
やさしい英語ではダメなのか?
「やさしい英語のほうが伝わりやすいのではないか?」
それは間違いだ。
なぜなら、英語がまったくわからない在日外国人もいる*1。
やさしい日本語と違って、訳す手間もかかる。
簡単とはいえ、誤訳・誤解のリスクもある。
(和製英語、英語由来ではない外来語、細かい文法・語法etc…)
災害の現場では、迅速かつ正確に情報を伝える必要がある。
やさしい英語はデメリットが多いのだ。
日本で一番わかりやすい言語—それがやさしい日本語である。
なぜやさしい日本語なのか?
英語をまったく話せない人・日本語と英語を同時に勉強中の人がいる。
翻訳の手間が省けて、誤訳・誤解のリスクが減る。
特定の外国語の翻訳に比べ、人伝いで内容が伝えられる可能性が高い。
言葉以外の配慮もあったほうがよい
やさしい日本語ならば、言葉が通じる可能性が高い。
一方で、伝わる可能性を高めるには、他の対策もとったほうがよい。
例えば、話すだけでなく、スケッチブックなどに文字を書くと、より言葉が伝わりやすい。
ワープロで打てば、Google翻訳のカメラ翻訳が使える。
それから、日本語をまったく勉強していない外国人観光客などのために、一般的な言語の翻訳は用意するのがベターだ。
挿し絵やピクトグラムを添えれば、言葉が通じなくてもわかる可能性がある。
特に、お店や施設を運営している方。
「外国人なら英語がわかる」というステレオタイプを捨てて、伝わる方法で危険を伝えられるようになってほしい。
*1:私のいた大学には、非英語圏のアジアやヨーロッパからきている留学生も多くいた。彼らも私たちも英語は完璧ではないので、日本語を織り交ぜたほうが話が通じる場合がある。