イラスト依頼サービス登場・訴訟手続簡略化も課題残る
TwitterなどのSNSで、絵師に関する話題をよく目にする。
トラブルに巻き込まれたという書き込みも多い。
無報酬(タダ)で仕事を依頼されたというのが有名だ。
仕事というと、企業のイメージが強い。
しかし、一般ユーザーによる問題も無視できなくなっている。
この記事では、一般ユーザーに関するトラブルをまとめる。
料金を踏み倒される 前払いで阻止を
ネットで活躍する絵師は、個人に対しても依頼を受け付ける場合がある。
個人間のやり取りは契約書を伴わず、金銭トラブルが起こりやすい。
SNSのダイレクトメッセージ(DM)機能でやり取りする人もいるようだ*1。
手数料がとられないため、料金がすべて絵師の懐に入る。
ただし、イラストを納品して料金を請求したところ、ブロック(着信拒否)されたというトラブルがよくある。
お金を払う約束をしたのに、払わず逃げる行為は詐欺罪にあたる可能性が高い。
もちろん、民事でも損害賠償を請求されるだろう。
ネットならバレないと、誤解している人も多い。
だが、SNSにはログが残っており、原告はそれを捜査機関や裁判所にも提出できる。
最近は、有償でイラストの作成を依頼するためのサービスも増えている。
完全前払いで、報酬の支払いを踏み倒せない仕組みのサービスも存在する。
これによって、詐欺案件がなくなっていくのを期待する。
わたしが描きました SNSに無断転載
承認欲求が強い人なのだろう。
SNSで他人の絵について、自分が描いたと主張する人がいる。
これを防ぐため、イラストレーターは自分のイラストにサインやアカウント名を入れている。
画像が無断でアップロードされている場合、サイトの運営会社に掲載の差し止めを要請できる*2。
アメリカのデジタルミレニアム著作権法(DMCA)で、クリエイターに認められた権利だ。
ネットで申請すれば、あなたの著作権を侵害している画像などをいますぐ差し止められる。
ひどい例では、特定の絵師になりすまして、SNSアカウントを作っていたりする。
これについては、ユーザー1人ひとりを運営に通報していくしかない。
偽者がいると知らせたり、正しいアカウント名を書いておくのも重要だ*3。
DMCAの悪用 嫌いなクリエイターを凍結
一方で、このDMCAを悪用したいたずらが、長年クリエイターを苦しめている。
何者かに自分の著作物が差し止められる被害が後をたたない。
目的は嫌いなクリエイターへの嫌がらせと思われる。
差し止められた場合、
- 画像を掲載しているSNSアカウントが凍結される
- ウェブサイトが検索に引っかからなくなる
- 広告収益が没収される
などの影響を受ける。
被害にあった人は、自分で異議申し立てをしなければならない。
実際に、人気ゲームの公式アカウントも被害を受けている。
もちろん、虚偽(ウソ)の訴えなので、違法行為である。
オーダーメイド作品 勝手に販売
約束していた以外の用途で、作品を使用されたというトラブルもある。
中には商品として販売されてしまったケースも。
作者が作品を納品しても、著作権を譲渡しない限り、依頼者のものにはならない。
依頼者は作者の作品をSNSのアイコンなどに使わせてもらっているにすぎない。
損害賠償を請求されるため、契約外の利用をしてはいけない。
なお、著作権を譲渡しても、著作物をいじる権利は作者がもつ。
勝手に加工すると著作権侵害になるので、気をつけたい。
クリエイターの名前を出さない契約もできるが、依頼者が作ったと主張することはできない。
アーティストに作品の作成を依頼する人は、著作権についての勉強をおすすめする。
参考:
二次創作してもいいですか? 公式凸問題
二次創作の権利は非常にセンシティブな問題だ。
著作権の侵害は「親告罪」であり、元作品の権利者から訴えられない限り、罪には問われない。
どこまで許すかのガイドラインを設けているコンテンツもある。
一方で、「公式凸」と呼ばれる質問行為が問題になっている。
公式(問い合わせ窓口)に突撃して、
- 「二次創作してもよいか?」
- 「このような同人誌があるが、公式は認めるのか?」
などを質問するというものだ。
一見正義のように思われるが、ファン活動の萎縮を招きかねない。
公式側も二次創作を禁止すれば、国内外のコミックイベントでの興行などに影響が出る。
結果的に、そのコンテンツ全体の萎縮につながる。
ファンと公式の双方にとってうれしくないので、公式凸はやるべきではない。
過激な発言 二次創作禁止のおそれも
とある実在の事物をモチーフにしたコンテンツで、二次創作をめぐるトラブルがあった。
ガイドラインでは、二次創作はモチーフの権利者に配慮するよう、求められていた。
これについて、権利者とファンの間でひと悶着あり、一時は二次創作禁止になりかけた。
あるユーザーがSNSに、キャラの権利者は成人向けの二次創作についてどう思うだろうかと投稿。
権利者はこれに反応し、話題になるなら構わないという趣旨の返信をした。
これについて、一部ユーザーが「おもちゃにして良いって許可出た」などと反応した。
この発言が権利者の怒りを買い、二次創作は全面的に禁止すると言わしめた。
(その後、権利者は全年齢の二次創作はOKと主張を改めている。)
参考:スポンサー凸 資金源を断つ
ところで、正しいやり方で権利者にアプローチする「スポンサー凸」という手法もある。
不適切なテレビ番組を終わらせるなどの目的で、スポンサーに問い合わせる行為を指す。
番組の資金源を断つことが期待でき、効果的とされる。
一方で、今回のふざけたツイートは権利者を怒らせており、キャラの削除につながるおそれもあった。
作品をよく思わないアンチ、あるいは競合他社の仕業とすらウワサされている。
いずれにしても、コンテンツの意思決定に強くかかわる人物への凸行為には重大なリスクがある。
民事のハードル下がるも……
現在、ネット上の被害に関する訴訟をしやすくするため、制度改革が進められている。
これにより、いたずらをした人への訴えが起こしやすくなる。
ただ、裁判を起こせないようなグレーゾーンのいたずらもある。
権利者への質問がその一例だ。
直接的・経済的な被害が出ないいたずらに対しては救済がない。
ファン・権利者・スタッフが笑顔になれるような仕組みづくりが求められている。