気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

【知床観光船事故】危険への意識の低さを教訓に

参加者と運営者が安全を守るということ

2022年4月、北海道・知床。

観光船が沈没し、乗客乗員26名が行方不明になる事故があった。

執筆時点では、少なくとも14人が発見され、死亡が確認されていた。


この観光船は小型船で、北海道の寒い海では安全対策が不十分だったとの指摘もある。

ライフジャケット(救命胴衣)を着ていたとしても、救助が来る前に意識を失っていた可能性が高いのだ。

 

一般に、野外レジャーでの事故に対しては「安全より楽しさが優先された」ということが言われる。

今回の事故も例外ではない。


小型船で小回りが利き、ヒグマを見つけやすいことをセールスポイントにしていた。

実際には船の小ささが仇(あだ)になった。

 

自然の中の活動では、一歩間違えると命を落とす。

業者も利用客も、野外レジャーの危険性を認識する必要がある。

 

 

 

 

危険性を褒め称えるレビューも

意外なことに、今回事故を起こした業者の、ネット上での評価は高かった。

「他社が欠航する中で、この業者だけが出航してくれた」

という好意的なコメントもあった。

 

一方で、

「濃霧で欠航して残念だ」

「欠航するならもっと早く電話してほしかった」

などの否定的な意見も目立つ。

 

いずれの意見にも言えるのは、自然を甘く見ているということだ。

他の業者が欠航しているような気象状況なら、海のレジャーに出かけるべきではない。

雨や波がなくても、霧で視界が遮られれば危険である。

 

上に挙げた「残念」という言葉は、「楽しみにしていたが仕方ない」という意味かもしれない。

でも、「出航しなかったのは期待外れだ」という意味も考えられる。

仮にそうだとしたら、それは身勝手だ。

 

海に行くのは、コンビニに行くのとは訳が違う。

出港直前や航行中に、急に海の状況が変わることだってありうるのだ。

より厳しい基準で判断し、危険であれば即時中止するのが、屋外レジャーの鉄則である。

 

自然の中での活動は、命があってこそ楽しいものだ。

レジャーの運営者は客の安全を第一に考えなければならない。

客も、自分や人間の限界を理解し、自制する必要がある。

 

レジャー参加者の安全

客ではなく参加者という考え方

お店を利用する人を一般に「客」という。

客は店員にもてなされ、サービスを受ける。

 

だが、野外レジャーに参加する人を「客」と呼ぶのは、必ずしも適当ではない。

なぜなら彼らは指導者・運営者に従いつつ、主体的に活動するからだ。

 

例えば、普通のキャンプ場では、キャンプ場の従業員が料理するわけではない。

包丁や火を自分で取り扱い、自分でケガのリスクを負う。

彼らは野外活動の「参加者」と呼ぶのがふさわしい。

 

海水浴場はなぜ安全なのか?

自然の中の活動には危険がつきものである。

参加者一人ひとりが自分の安全を確保することが求められる。

 

とはいっても、海水浴場のように安全なレジャーもあるのではないか?

いや、そんなことはない。

海水浴場はライフセーバーや監視員のおかげで、ある程度の安全が保たれているだけだ。

 

人が溺れれば、ライフセーバーが助けに来る。

泥酔した状態で海に入る人がいたなら、制止する。

海水浴場での事故が少ないのは、プロの目があるためといえる。

 

でも、ケガや死亡事故を完全になくすには、海水浴の参加者一人ひとりの安全対策が肝要である。

自分の安全を確保できない子どもは、保護者が守る必要がある。

ライフセーバーが間に合わなければ、あなたは確実に死ぬ。

 

ちなみに、2020年は多くの自治体で海水浴場が開設されなかったが、事故が起きている。

遊泳を想定していない海域でも、遊泳中の死亡事故があったようだ。

救助するのは血税の注ぎ込まれた海上保安庁であり、「自己責任」で済まされる話ではない。

 

参考:

今夏 海水浴場でない海で遊泳 関東と静岡県で計12人死亡 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

 

参加者にも知識が必要 死亡事故や災害も

レジャーの参加者が自分の身を守るには、知識が不可欠だ。

 

2019年10月。富士山で、動画配信者が滑落して死亡する事故が発生した。

この事故は「人類の進化」に貢献した人に贈られる、国際的な皮肉の賞を受賞した。


配信者は、必要な装備をつけていなかった可能性が指摘されている。

冬山に関する知識が不足していたがために、命を落としたのかもしれない。

 

参考:

2019 Darwin Award: Pinnacle Of Stupidity

(英語、公式サイトだが不正確な記述もあるので注意。)

 

バーベキューの不始末が災害に発展したケースも存在する。

2014年、兵庫県で山火事があり、およそ70ヘクタール(テニスコート2660面分)が燃えた。


その火元はバーベキューの炭だと特定された。

正しい方法で処理されず、火がついたまま捨てられていたようだ。

 

バーベキュー場の利用者は「バーベキュー屋さんのお客さん」ではない。

自分の持ち込んだ道具や食材を、自分で管理する責任がある。

一人ひとりが参加者であることを意識し、また、正しい利用法を知らなければならない。

 

参考:

兵庫県/山火事を防ごう

捨てたBBQ炭、燃え広がり山火事…会社員逮捕 : ニュース : 動画 : 読売新聞オンライン

 

レジャー運営者に求められること

運営側の安全意識

レジャーの運営者は、参加者の安全を第一に考えなければならない。

 

栃木県では、県内の高校の山岳部が合同訓練を行った。

その際、雪崩が発生し、引率教員1人を含む8人が亡くなっている。

 

死者が出た主な要因としては、運営者の準備不足が挙げられる。

恒例行事ゆえに、事前の計画や緊急時の対処などが十分に練られていなかった。

訓練は安全のためだったはずなのに、実際には安全が軽視されていた。

 

参考:

高校生等の冬山・春山登山の事故防止のための有識者会議(第2回) 配付資料:スポーツ庁

 

学校といえば、プールへの飛び込み指導でも事故が起きている。

プールの水深が足りず、あるいは誤った教え方により、障害を負う生徒が後を絶たない。

デッキブラシを掲げ、それを越えて飛び込ませるという指導法で、障害を負った事例もある。

 

自然や装備に関する知識はもちろん必要だ。

それ以上に、どうすれば安全に活動できるかを考えることが重要である。

経験や資格の有無は、決して安全を保証するものではない。

 

利益より安全 中止する勇気

野外レジャーの運営業者は、利益よりも安全を優先させる必要がある。

 

例えば、屋根のない野球場では、小雨であれば試合を決行する。

しかし、大雨であれば、客の入る日曜日であっても試合を中止する。

選手がケガをするおそれもあるし、ファンも喜ばない。

 

仮に選手がケガをしたとして、新たに治療費が発生する。

人気の選手が戦線離脱すれば、次以降の試合で、観客が減る。

中止しなければ、中長期的にマイナスが大きくなるのだ。

 

同じことは客が参加するレジャー施設にも言える。

山梨県の有名な遊園地では、スリルのある遊具が人気だった。

人気キャラクターで集客している競合他社に対し、独自の路線で売上を伸ばしていた。

 

ところが、利用客の骨折や捻挫(ねんざ)が相次いで発覚した。

スリリングな遊具が増えていく中で、客の安全が軽視されていたのだ。


もちろん、客側も手すりにつかまるなど、守るべきルールがある。

とはいえ、大ケガをする人が相次いでいる以上、遊園地側も対策をとらなければならない。

大ケガをする危険のある遊園地からは、客が離れていくだろう。

 

自然は思い通りにならない

自然は生きている。

人間の命令どおり動かない。

だからこそ、厳しいルールを設定し、できるだけ安全に活動する必要がある。

 

それは人工物の中での活動も同じだ。

ルールや指導者に従えない人、参加者の安全を尊重できない人は、参加すべきではない。

 

安全対策がずさんであれば、死亡事故がいつ起きてもおかしくない。

参加者もふざければ、自分が命を落とす可能性がある。

危険と隣り合わせの場所で遊んでいることを自覚すべきだ。