不適切な二次創作 削除が難しい理由
マンガのCMで使われた音声が無断で切り取られ、動画投稿メディアで流行している。
原作者がやめるよう呼びかけた。
ネット空間で広がるインターネット・ミーム。
その怒涛の波を人間1人が止めることは難しい。
この記事では、
- そもそもインターネット・ミームとは何なのか?
- 何が問題になっているか?
について説明していく。
ネットミームとは
インターネット・ミーム(ネットミーム)は、インターネット上で流行する物事全般を表す言葉だ。
特定の画像やセリフを指すことが多い。
この記事を書いた当時は、バーチャル配信者の「壱百満天原(ひゃくまんてんばら)サロメ」が使う独特のお嬢様言葉がネットミームとなっていた。
基本的には、アニメやゲームのような具体的な著作物が元になる。
ニュースの街頭インタビューがミーム化し、それをもとにイラストが書かれる現象も見られる。
一方で、○○が言いそうなセリフとか、誰が元祖か分からない可愛いポーズなどもミームに含まれる。
ネットミームはすぐ広まる
ネットミームは人気に火がつくと、すぐに広まる。
有名人があるゲームをプレイしていたら、ネットは瞬く間にその話題一色になる。
ただし、流行の移り変わりがはやいので、1ヶ月前の流行がすでに時代遅れというケースもある。
流行っていたゲームをあとからプレイしても、もう誰も話題にしていない。
いや、もはや誰もプレイしていないかもしれない。
ネットミームは経済を動かす
ネットミームの影響は、企業や官公庁も避けられない。
あるスーパーマーケットの看板が壊れすぎていて、もはや店名が読めないと話題になった。
スーパーは看板を修理すると同時に、壊れた看板をグッズ化した。
あるいは、人気ゲームのキャラクターに因(ちな)んで、ファンが特定の店舗に集まっている。
この飲食店がある自治体は、ゲームとの正式コラボを実施した。
ネットミームは経済も動かしているのだ。
ネットミームを巡る問題
ネットミームでは、著作権が軽視されている。
例えば、街頭インタビューのキャプチャ画像(を載せただけ)の投稿は、議論のための引用を超えている。
あるいは、流行っているマンガの画像を改変するミームもあった。
著作権の問題を避けるため、動画サイトでは音楽の著作権管理団体と包括契約を結んでいる場合がある。
むしろ、ミーム側に加担する権利者もいる。
そのほかにも、差別や、他者の人権を侵害する内容もある。
関係各所の対応が求められている。
無断利用を許可しない自由:限界がある
以下、ネットミームを巡る具体的な問題について、実例を交えて説明していく。
ネットミームについてよく言われるのは、一次創作者の利益になるということ。
とは言っても、自分の愛する作品が汚されるのを、よく思っていない人もいる。
現状は、二次創作は著作権法に反していて、訴えがあった場合は処罰される可能性がある。
「訴えないので自由に使って」という人もいる一方、「やめてください」という人もいる。
だが、残念ながら、ミームを止める絶対的な力は存在しない。
100万を超えるような二次創作をすべて訴えるのは難しい。
ネットコミュニティの自制によって、一次創作者の望まない二次創作を消していくことが求められている。
事例:医学書のコラージュ画像がミーム化
精神疾患に関する解説書の内容がネットで拡散された。
広まったのは、ある症状について解説する図の一部だった。
それを面白がったネットユーザーたちが、図を改変(コラージュ)して投稿しはじめた。
図で説明されている症状を、矛盾するオタクの心情や理不尽な上司の発言などに差し替えたものが多い。
あるいは、文字だけの投稿も見られる。
出版社は「患者に配慮してほしい」として、投稿をやめるよう呼びかけた。
呼びかけは届かず、今も投稿は続いている。
海外の二次創作:日本のガイドラインが通じない
海外で広まった日本のミームは、基本的にその国で消してもらう必要がある。
無断転載された画像1枚であれば、アメリカのデジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)に従って、消せる可能性が高い。
ただ、新たに描かれたイラストなどでは難しいだろう。
例えば、日本のとあるゲームでは、性的な二次創作を認めていない。
多くのファンはそのガイドラインに従っており、日本のイラスト投稿サイトもそれに協力している。
ところが、海外に目を向けると、そうした二次創作が行われている。
彼らは日本語のガイドラインも読めなければ、日本国の法律も通用しない。
巨大グローバル企業であれば、現地の当局に訴えることは可能だ。
一方で、日本で活動する中小企業であれば、やめてもらうの は難しいものと思われる。
消しても増える 再配布や加工で
現実的には、画像や動画を消すのは難しい。
「消すと増える」
ネット上では、一度消した画像や動画が何者かによって再配布される場合がある。
彼らは作品の一部を加工することで、削除プログラムの検知を逃れようとしたりする。
消すと増える法則は、普通はよい方向に働く。
ウェブサイトやSNSの炎上騒動で、当事者がそのページを消して鎮火を図る例がある。
そのページのスクリーンショットやアーカイブ(魚拓)サイトを有志がアップし、かえって問題が多くの人に知れ渡る。
ネットユーザーの努力によって、(本来公開されるべき)情報の隠ぺいを防げる。
でも、権利者が消したいネットミームに対しても、この法則が機能してしまう。
消すべき画像が拡散されれば、余計に権利が侵害されるだろう。
事例:ゲーム内画像を使った動画
2022年、とある過去の人気ゲームがリバイバルヒットを遂げている。
きっかけとなったのが、ゲーム内の画像や音声を使った動画だ。
動画の内容については後述する。
この動画は300万回以上再生されたが、ゲーム会社によって削除された。
著作権を侵害しており、削除は当然といえよう。
しかしながら、その動画の名前や、動画内で使われているミームで検索してみる。
すると、動画を転載したものが出てくるではないか。
この動画は、人々に利益をもたらす内容(告発・キャンペーンなど)ではない。
無断転載を正当化する理由はどこにもないはずだ。
ゲーム会社の法務部や、動画サイトの担当者は削除対応に追われている。
差別を含む二次創作:ガイドラインで禁止も
二次創作が抱える問題として、倫理的に間違った内容が作られやすいというものがある。
一次創作者は、そうした不適切な作品に毅然と対応しなければならない。
差別やヘイトスピーチを含む二次創作は、二次利用ガイドラインで禁止されていることが多い。
例えば、キャラAが病気になり、キャラBが看病するという二次創作は許容されうる。
だが、それが病気の人を悪く言う趣旨のものなら、ガイドラインに抵触するだろう。
作品のイメージを守るためにも、不適切な作品は消していく必要がある。
事例:ゲーム会社が削除 ホモフォビアを含む動画
上でも説明した、ゲームの画像や音声を使った動画。
これは、同性愛者を嘲笑する内容を含んでいた。
その点も、動画を削除するに至ったひとつの要因と思われる。
原作のゲーム会社は世界に展開する上場企業である。
責任ある企業として、ホモフォビア(同性愛嫌悪)を含む内容を認めるわけにはいかない。
企業には、すべての客を傷つけない姿勢が求められている。
犯罪者や炎上当事者への当てこすり
一部に、犯罪者や炎上の当事者を、無料で使えるフリー素材と勘違いしている人がいる。
あなたは、彼らの名前や写真・イラストを使ったミームを見ても、共有(リツイート)するべきではない。
悪いことをした人にも、肖像権や訴えを起こす権利がある。
そのため、常軌を逸した内容や、シェア数が伸びた投稿は訴えられるかもしれない。
刑事裁判が進行中の被告であれば、社会的制裁を受けたとして、減刑されるおそれもある。
ちなみに、ヨーロッパでは、忘れられる権利の議論が進んでいるようだ。
世界的なWiki形式のまとめサイトでは、犯罪者の実名を載せない記事も多い。
(知る権利や報道の自由の観点から批判もある。)
もちろん、どのような犯罪だったか覚えておくのは重要である。
だが、容疑者を面白おかしく叩くのは、なんの得にもならない。
事例:セクハラやじがミーム化
ミームが被害者を傷つけるおそれもある。
ある未婚の女性議員が、ほかの議員からセクハラのやじを受けたニュースは大きく報じられた。
ネットでは、推しの(好きな)カップルに対して、やじと同じ文言を言うミームが流行した。
街頭インタビューのように、コミカルなニュースがミーム化した例はいくつもある。
しかし、本件は被害者が言われた心無い言葉である。
面白おかしく取り上げるのは、良識に欠けている。
加害者を攻撃するために被害者を巻き込むのは、極めて不適切だ。
書き込みはデジタルタトゥー
「デジタルタトゥー」という言葉がある。
ネット上の書き込みは、簡単には消えないという意味だ。
流行っているネットミームだからといって、安易に書き込んではいけない。
誰かがやめてと言っていないか?
画像を加工して、著作権を侵害していないか?
差別的な表現ではないか?
あなたが加害者として訴えられるかもしれない。
書き込んで数十秒以内に消した内容が、たまたま見た人によって拡散される場合もある。
自分の投稿した内容がデジタルタトゥーであることは強く意識すべきだ。