スポーツ観戦か死か 思ったより危ないリオの現状
リオデジャネイロの警察がリオに来るなとか、警察には給料が支払われていないと言ってデモを起こしたことは記憶に新しい。
「地獄へようこそ」、リオ警察が空港で抗議デモ 観光客困惑 写真9枚 国際ニュース:AFPBB News
だが、問題はそれだけにとどまらないようだ。ヒューマンライツウォッチはリオデジャネイロ警察が去年(2015年)1年間で645人を殺害したことを明らかにした*1。日本であれば、警察が犯人1人を殺害しただけで大問題になる。にもかかわらず、ブラジルでは、645人殺害してやっと人権団体がレポートを発表するレベル*2なのだ。問題の規模がどうであれ、オリンピック・パラリンピックをやる国でこれが問題になるのは、非常に恐ろしいことだ。リオデジャネイロ警察は人を守るのに不十分な組織と言える。
以下にレポートがある(英語とポルトガル語のみ)。
リオデジャネイロの警察
役割の分担によって、職権の乱用とそれによる捜査の妨害が起きているというのがリオデジャネイロ(リオ)が抱えている大きな問題だ。リオには軍警察と文民警察がある。在リオデジャネイロ日本国総領事館ウェブサイトによれば、文民警察が捜査機関で、軍警察がそれ以外の実務を担当する。つまり、普段、パトロールしたり、犯罪者を捕まえたりするのは、軍警察の仕事だ。言い換えれば、凶悪な強盗犯やテロリストなどがいた場合に交戦するのが軍警察で、現場や犯人の取り調べを行うのが文民警察だ。日本の刑事ドラマでは、刑事がそうした現場に突入するイメージがあるが、ブラジルの場合、突入するのは武器を持った軍警察で、捜査は文民警察という別の組織が行うというわけだ。そうなれば、軍警察と文民警察の間で伝達ミスのような問題が発生しそうな気がする。だが、問題はもっと深刻だ。
例えば、軍警察が止むを得ず犯人を殺害した場合、それも文民警察の捜査の対象になる。しかし、回避可能な場合、あるいは、容疑者の性質から考えて明らかに殺害する必要がない場合、当然、軍警察側の責任になる。軍警察がそれを隠蔽したり、証拠隠滅したりするというのがもう何年も問題になっている。酷いケースでは、軍警察による「死刑の執行」を目撃した女性の息子が、女性(母)の居場所を吐かせるために拷問され、殺害されている*3。他にも、容疑者の遺体に銃(=危険な武器)を添付したり、軍警察が容疑者を病院に搬送して救命の意図があったと主張したりしているケースがある*4とヒューマンライツウォッチは報告している。捜査官とその他の警察官の連携が取れていればこのような事態は起こらないはずだが、こうした問題は実際に起こっているのだ。
リオデジャネイロの治安
リオの治安維持がどれだけ成っていないかというと、日本総領事館*5が余計なことはするなと警告を出すほどである。これは「事件に巻き込まれないように注意しなさい」ではなく、「動くな」と言っているに等しい。行動範囲はかなり制限されているのだ。極端な事例になるが、CNNにリオの街を取材した動画があった。
スラム街(ファベーラ)では日常的に銃(大型のもの)を携帯した軍警察によるパトロールが行なわれている。それこそ日本の刑事ドラマでなぜか刑事が携帯しているようなピストルではない。もちろん、これはリオの中でも治安の悪い地域における事例だ*6。しかし、子ども連れの親が走って子どもを避難させる様子や子ども向けの娯楽施設に銃弾が入ったという証言もあり、とても安全な街とは言えない。パスポートが盗まれたぐらいであれば救済手段はいくらでもある*7だろうが、命が奪われた場合はどうにもならない。現金の入った財布を返してくれて、書状や言葉を用いて生きた犯人を逮捕する警察官がいる日本がどれだけ恵まれているのかが身にしみてわかる。
リオデジャネイロといえば、サンバカーニバルで有名なこともあり、陽気で楽しいイメージがある。だが、実態はパーカッションではなく銃声が鳴り響く危険な都市なのだ。軍警察の警察官は、危険な容疑者を攻撃する権利を濫用しており、市街地での銃撃戦も行なわれている。死と隣り合わせのこの都市。道理で警察本人が来るなと言っているわけだ。
*1:ブラジル:超法規的処刑がリオデジャネイロの治安をゆるがす | Human Rights Watch
*2:実際には、2009年にもレポートが出されている。
*3:レポート p.32
*4:レポート p.4
*6:ただし、観光地の繁華街イパネマ、レブロンでも銃撃戦があるようだ。→安全の手引き リーフレット版(PDF)