気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

お子様をICUに入れたい親御さんの誤解

うちの子は英語が好きだから、ICUでもっと英語を勉強させたい

まず、そう主張するのは、お子様が本当に英語が好きなのか確かめてからにしてください。次に、ICUは英語を教える大学ではありません。たしかにリベラルアーツ英語プログラム(ELA)にはクラスルーム英会話を学ぶ時間もあります。しかし、それは大学の授業をスムーズに進めるための方法を教えているに過ぎず、主旨は英語のお勉強ではありません。ICUには、TOEFLの対策講座などもありますが、そのためだけにお子様をICUに入れるというのは愚かであるとしか思えません。

 

では、ELAとは何なのか?

筆者は、ELAは大学での学びの準備であると考えています。それを英語でやっているだけであって、英語を教えているわけではありません。むしろ、英語はICUの大学生活の前提となっているもので、入試に合格できるぐらいの最低限の力があればそれでいいのです。

 

学びの準備1:英文の読み方

高校までの英語科で教えていたのは、文の分解とパラグラフの理解+文法だったと思います。確かにそれは文意を捉える上で重要です。しかし、3ページではなく、30ページの文章を出されたらどうでしょう?一文一文、1パラグラフずつ解釈していったら、日が暮れても終わりません。そこで、ELAのAcademic Reading and Writing(ARW)では、大学生の英文の読み方を教えています。大きなパートに分け、文法的な解釈よりも、リアクションを大事にします。もちろん、理解しづらい文があれば、意味をテキストに書き込みます。深く読むときは、要約を書き記したりします。このように反応を書き起こすことをアノテーションと言います。ハイライトも使います。ただし、どこにでも好きなところに引くのではなく、趣旨の部分だけです。知らない単語があれば、単語リストを作り、辞書で引きます。

 

文章を読むことは、文字を読むだけに終わりません。読む前に、タイトルから文章の趣旨を想像し、あるいは、著者がどのような人なのかを調べ、ザッと読んで誰に向けて、何のために書いた文章なのかを理解します。高校までの国語よりも本格的です。そうすることで、筆者が暗黙のうちに前提にしていることや、時代背景、筆者の主張の方向性などを理解することができます。

 

学びの準備2:概念を理解する

論文を理解するための便利なツールにコンセプトマップがあります。樹形図の発展版と思っていただければいいのですが、概念を図示することで、著者の意見をより的確に理解することができます。中学校までの国語の授業参観でお子様が作っているのを見たという方もいるかもしれませんが、英語に限らず使えるスキルです。


学びの準備3:エッセイ(小論文)を書く

ARWでは、リーディングコンテンツのテーマでエッセイを書きます。学期ごとに段々文字数を増やしていき、2000語(日本語換算で4000文字)程度の小論文を書けるようにします。日本人は察しの文化といって、長々と話をして相手に趣旨をわかってもらえるよう文章を組み立てますが、学問においてはむしろ、最初に趣旨を述べる簡潔さが求められます。そういったところをエッセイを書きながら矯正していきます。エッセイはお子様が一人で書くわけではなく、教員のアドバイスを受ける時間が毎週1回は設けられています。面談の回数や態度によって成績をつける教員もいるようです。


エッセイを書くには、想像を膨らませてテーマを作る必要があります。そのテーマについて調べて資料を集めなければなりませんし、その資料を読まなければなりません。そうしたプロセスの中で、いろいろなスキルが身につくのです。

 

学びの準備4:学術的なスキルを身につける

ここからは半分は強制的に、半分は選択的に身につける技術です。

 

学びの準備4-a:スピーチやプレゼンテーションを要約し、意見を述べる

スピーチを要約することは、授業において重要です。例えば、メディア研究の授業や国際関係学の授業では、動画で英語の映画や演説を観ることが多いです。それを理解するには、練習が必要です。授業中の友人のプレゼンテーションや小論文*1には、クラスメイトが評価を下します。クラスメイトに評価をさせることで、相手の話を理解する力、相手に話を理解させる力がつきます。


学びの準備4-b:議論をする

英語で議論をできるようにならなければ、大学の授業で活躍できません。必修のARWでは、リーディング課題を読みながら、文章の趣旨や与えられた設問についてみんなで考えながら議論していくという形式の授業があります。この形式の授業は、ELA以外の一般の授業でも行うものです。発展的な段階では、ディベートを実際にしながら、ディベートのスキルを磨きます。(主張や反論のスキルは論文を書く際にも役立ちます。)これは個人的な意見ですが、日本人は相手を褒めるのが苦手だと思うので、賛成の立場に立ってディベートをすることは大切です。


学びの準備4-c:プレゼンテーションをする

プレゼンテーションはICUのあらゆる授業で必要な能力です。ましてや、社会では、プレゼンテーションができない人はやっていけません。それぐらい重要な能力です。プレゼンテーションの授業はELAの様々な授業で行われます。発展的な授業を選択した場合は、情報の提示の新たな方法としてウェブサイトの作り方を学びます。自分の得た情報や意見を積極的に発信するのは日本人が苦手なことであり、ELAがそのスキルを開花させます。

 

学びの準備4-d:文法を学ぶ

前述と矛盾するようですが、文法も学びます。ただし、関係代名詞の限定用法がどうたらとか、仮定法過去完了がどうたらとかではありません。簡潔な論文を書くための文法です。例えば、英語では文の頭にいきなり新しい言葉を持ってくると受け手が混乱します。そうした情報の並べ方もELAで習います。もちろん関係代名詞を使う場合もありますが、文法の名前を覚えるという次元ではなく、わかりやすい文章にするためにどの書き方(文法)を選ぶかという段階にあります。ARWの授業では小出しにしていますが、文法の授業を選択すれば、文法について詳しく学ぶことができます。

 

ELAに関するその他の勘違い

ここまではELAが英語のお勉強という勘違いについて言及してきましたが、他にも勘違いしていると思しきことはあります。

 

ネイティブの先生に教えてもらえる

ELAの教員には日本人もいます。ELA教員の多くは、第二言語として英語を教えるために勉強してきた方々です。もちろん日本生まれではない、日本語が母語ではないという意味の外国人の先生はいますが、彼らの中にも英語が母語ではない方がいます。とにかく、誰であれ、英語で接するのがELAです。もちろん試験の際は、注意事項を日本語で読み上げてくれるので安心してください。日本人教員の中には、面談は日本語で大丈夫という方もいます。


ELAは楽しい

ELAはどちらかというと苦しいです。1年生の週の大半はELAです。初日からありえない量のリーディング課題*2を課されて、苦手な人は徹夜をするかもしれません。課題を覚えきれないレベルで課題が舞い込んできます。エッセイの提出期限の前は、お子様はかなり苦しい思いをされています。お子様を支えてあげられるのは、保護者の皆様です。

 

 

ELAを落とすと、事実上の留年になります。ICUには留年の制度はありませんが、ELAを落とすと、落とした学期から翌年にやり直しになります。後輩と苦手なELAを受けるのは気まずく*3、どんどん泥沼にはまって抜け出せなくなる学生も多いようです。どうかお子様に「あなたが好きな英語のお勉強」を無理やりさせないようにしてください。

*1:教員ももちろん成績評価をするが、クラスメイトにも評価をさせる。

*2:高校の教科書1章の5倍以上はあると思います。

*3:ELAのクラスは高校までのホームルームクラスの役割をしています。みんな仲が良く、プライベートでも遊んでいるというところもあります。そこに先輩が入ってきたら後輩だって戸惑いますし、先輩もいづらいです。