とうとうG7伊勢志摩サミットが開幕しました。公式のTwitterアカウントには、首脳の集合写真が載っています。首脳の集合写真で首脳の勢力図がわかるというのがよく報道で解説される特徴ですが、よく見ると、何かがおかしいです。
安倍総理大臣及びG7各国首脳は,伊勢神宮の荘厳で凛とした空気を味わいつつ,正宮を訪れました。#G7 #伊勢志摩サミットhttps://t.co/fWJZKkOOSn pic.twitter.com/Qci0AB0GOZ
— G7伊勢志摩サミット (@g7iseshima) 2016年5月26日
だって、G7なのに9人もいますもん!
国際関係に造詣のある方は、答えを知っているはずなので誇らしくブラウザを閉じてください。
ここで、正解発表
実は、第8、第9の首脳はEU(ヨーロッパ連合、欧州連合)のリーダー(ドナルド・トゥスク欧州理事会議長とジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長)です。EUはG7・第8のメンバーなのです。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアと役割が重複しているという批判が出そうですが、EUとして一致させなければいけない政策と、各国が自由に決めてよい政策があります。そうした加盟国が勝手に決めてはいけないEUの共通政策について、EUは調整をしています。
#G7 #伊勢志摩サミット でEUを代表するため、ユンカー欧州委員会委員長と来日。共通の価値、#難民 、外交政策および世界経済について重要な討議となる pic.twitter.com/OJmnAEO04x
— Donald Tusk (@eucopresident) 2016年5月25日
トゥスク議長が来日した際、日本語で呟いています。おそらくトゥスク氏は日本語が話せませんが、EUの日本大使館に当たる駐日欧州連合代表部もありますから、それなりに日本語を話せるスタッフはいるはずです。
The memory of Hiroshima for a future of peace - Federica Mogherini
フェデリカ・モゲリーニ氏は外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長という役職についています。日本でいう外務省に当たる欧州対外活動庁のリーダーであり、先日、広島で行われた献花式にも参列しました。
EUはG8のメンバー(ファン=ロンパイ議長とバローゾ委員長が出席,他にEU加盟国から英仏独伊が参加)であり,2014年3月24日にハーグの核セキュリティー・サミットの折にロシアを除くG7が会合した。
植田隆子「欧州連合の対外関係」植田隆子・小川英治・柏倉康夫編『新EU論』第1版第1刷、信山社、2014年、187ページ。
ファン=ロンパイ(ヴァン=ロンプイ)議長とバローゾ委員長はそれぞれ当時のリーダーであり、現在はトゥスク議長とユンカー(ユンケル)委員長に代わっています。
- ジャンル: 本・雑誌・コミック > ビジネス・経済・就職 > 経済・財政 > 国際経済
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 3,348円
話をEU加盟国の意思決定に戻しますが、例えば、対外関税などの貿易政策はEUの管轄であり、個々の加盟国が勝手に決めてはならないことになっています*1。このため、EUの参加は必須なのです。ここで、EUの役割が強まれば、そのうちEUに加盟している4か国がサミットに出席する必要がなくなると思う方もいらっしゃるかもしれません。2000年代終盤まではこれからEUの統合がますます深化し、国家の壁が次第になくなっていくのではないかという期待があった印象ですが、現実にはギリシャの財政破綻や地中海の難民問題、トルコの加盟問題、あるいは、スコットランドやカタルーニャといった地域の独立運動など、課題が山積みであり、しばらくこの体制が続くものと思われます。
メルケルと役割被ってない?
それから、マスコミの報道でよくあることですが、ドイツ・メルケル首相はEUのリーダーではありません。メルケル氏は、アメリカのオバマ大統領が他国の政治に発言権を持っているのと同様、他国に対して意見できる強い信頼や意志があるのです。もちろん、ドイツの首脳であることからわかる通り、欧州理事会*2のメンバーです。ただし、北島三郎とEXILEであれば北島三郎の方が偉いように、メルケル首相にはそれなりの発言力があります。政治界の大御所として石原慎太郎元都知事に発言力があった状態と重ね合わせると意味が変わってしまうかもしれませんが、そのようなものだと思っていただきたいです。
EUが話し合っている間、加盟国首脳は何やってんの?
そもそも、話し合いの内容は基本的に、外交官の交渉によって事前に決められています。どの首脳も、自分だけで考えて、自分だけで交渉しているわけではありません。つまり、サミット本番では原稿を読み上げるだけです。よく日本の国会で、「事前に聞かれていないので、答えられません」という答弁があります。事前に言われていないものに軽率に答えることはできません。大臣は、内閣や各省庁の代表なのですから。もちろん、安倍首相も意思決定には関わっていますが、何から何まで安倍総理が考えたことではありません。このように、EUとEU加盟国は役割を分担した上で、平等に扱われています。
TPPで利害調整や外交交渉にあたった外交官の話。
何はともあれ、EUはG7のメンバーなので、心の隅に置いておいてください。
EU関連ページ
G7伊勢志摩サミット公式ウェブサイト関連
(2016年5月26日夜、それまで出席する首脳が載っている記事で代用していたクイズを、公式のツイートに差し替えました。駐日欧州連合代表部の出版物のページへのリンクも追加しました。)