夢見る少女は袴を選んだ
現在、小学生の卒業式に革命が起きている。娘に袴を着せる親が増えているというのだ。
大学の在学中、袴のレンタルののぼりは何度か見たが、それが小学生にも浸透しはじめているのだという。
私の時代では考えられないことだ。
しかし、これは異常事態ではない。菅原孝標女の時代と同じである。
女の子は大人の女性を目指す。その過程で、袴を着るという行為をしただけだ。
もちろん大人の女性と言っても様々であり、一人一人目標とする人物や像に少しずつ違いがあると思う。
でも、袴を着る女子小学生が増えている以上、門出の式典で袴を着る女性を目指していることは否定できない。
言い換えれば、袴は伝統に則った自然な選択なのだ。(※一部、ジェンダー的に多少偏った内容になっているがご容赦願いたい。)
参考:
ナゼ?小学校卒業式で袴姿 禁止する学校も|日テレNEWS24
(リンク先が消えていたので、別の記事に変更 2017/5/21)
髪が長く大人っぽい女性が女児に人気
幼稚園から小学校低学年に向けたアニメ『プリキュア』。
その中で女児の憧れになるキャラクターは大体決まっている。それは、髪が長くて大人っぽいキャラクターだ。
ただし、それだけではハードルが高すぎるという配慮からか、急成長して大人になったので内面は子どもっぽいとか、異世界からきたので地球の常識を知らないといった設定がつくこともある。
これは他の女児向けアニメも同じで、『アイカツ!』や『プリパラ』でも同様のキャラが人気を集めている。
いずれにせよ、女の子が憧れているのは大人っぽい女性だと考えられる。
そこから考えると、袴が人気なのは頷ける。
女子大生(小学生から見れば立派な大人)が着ている袴は大人の女性のアイテムなのである。
袴をやめさせたい親への反論
しかしながら、やめさせたい親や自治体があるのは否定のしようもない。
人生で3-5回ある卒業式のたった1回のために、そこまでのお金は出せない。
慣れない着物を着ることで、子どもが体調を崩したり、怪我をしたり、あるいはレンタルの着物を壊して弁償が発生したりする場合もある。
そもそも、お金がなくて袴をレンタルできない人だっている。
そのような懸念があり、袴をやめさせたい気持ちはわかる。
だが、このチャンスを逃すと次は大学の卒業式、あるいは次はないかもしれない。
男性がスーツを着ることが美徳とされている現代において、式典における和装は女性の特権であり、卒業式は限られたチャンスのひとつだ。
今経験しておかないと、二度と経験できない人もいる。
たしかに、お金がないので袴をレンタルできないという人もいるだろう。
でも、私が小学生だった頃、卒業式に私服で参列した子がいたのを覚えている。
スーツでも制服でも袴でも結局同じではないだろうか?
修学旅行に行けない子がいても修学旅行を中止しないのと同様、袴を着られない子がいても、袴を着て卒業式に出席してよいと思う。
きっと、いい経験になる。
理想に近づく大変さと後ろめたさ
理想に近づくことは必ずしも楽しいことの連続ではない。
卒業式に出るために、相当早起きして着付けをする。
食事はとりづらいし、トイレも行きづらい。小学校は上履きのところが多いと思うが、外は下駄で移動するかもしれない。
それ以前に、ませている子は着物を選ぶ時点である種の罪悪感を覚えるだろう。
すなわち、自分に似合わないのではないかとか、周りからとやかく言われないだろうかといった心配である。
袴を着るという経験を通して子どもが色々勉強するというのは期待したいところだ。
袴自体の魅力:丈が長い
ここからは袴自体の魅力について考えていきたい。
そもそも、袴は和のロングドレスだ。和のプリンセスが着ていた十二単には及ばないものの、洋のロングドレスと同じように憧れの対象だと思われる。
これだけ言っているとミソジニストと捉えられかねないので、プリキュアシリーズでは強い女性の象徴として丈の長いスカートが使用されていることを指摘しておこう。
これは男の子の憧れが厨二病ロングコートであるのと同じだと思われる。
(厨二病ロングコートは礼服ではないので、間違っても卒業式に着ていかないように。)
そういう意味では、袴は理にかなっている。長い丈それ自体も大人の象徴なのだから*1。
親は保守的
ここで、注意しなければならないことがある。
大人の視点でものを見ると、保守的になってしまうということだ。
子ども関係の仕事をしている人であれば問題ないと思うが、親が子どもだった頃と今時の子どもとでは感覚の違いも当然ある。
その時々の流行や時代の風潮があるのだから当たり前だ。
特に、今は晩婚化が進んでいるわけだから、世代が離れていることにも留意しなければならない(祖父母であればなおさらだ)。
例えば、今の子ども向け特撮番組(「戦隊もの」「仮面ライダー」「ウルトラマン」等)では、ポップ(奇抜)なデザインであったり、よく喋る変身アイテムが流行っている。
親世代や大人の特撮ファンはこれを「ダサい」と思ってしまうのだが、子どもはこれが好きだ。
女の子の卒業式においてもこれは同じである*2。
そのようなジェネレーションギャップが衣装選びを子どもの望まない方向へと導いてしまうだろう。
「その柄は派手すぎる」とか「私の頃は中学校の制服だった」とか言わずに、まずは子どもの意思を尊重してほしい。
それからスタッフの声を聞いたり、金銭的な事情で子どもに妥協を求めたりするのが良いと思う。
いずれにしても、親の感覚が古いことに留意しつつ、子どもが魅力的に思える色・柄の着物・袴を選んでほしい。
今のトレンドに理解を
見てきた通り、袴というのは伝統的な価値観がもたらした保守的な選択だった。
大人の女性や丈が長いドレスへの憧れから、女の子たちは袴という選択に行き着いたのだと思う。
もちろん、袴を着ることは大変で、お金もかかる。お金がないので袴を着られない子もいるかもしれない。
だが、次に袴を着られる機会は大学や短大の卒業式までなく、その機会がない子もいる。
社会勉強だと思って、子どもに袴を着せてみるのも大事なことだ。
こうしたものを着るというのは、親世代・祖父母世代にはなかったことで、理解に苦しむ人もいるかもしれない。
でも、これが今のトレンドだということをわかってほしい。
ところで、この機会に男の子にも紋付袴を着せてほしい。
男性はあらゆる式典においてスーツを着せられるイメージが強い。
今はジェンダー云々もあるので、女の子だけ和装というのはあまりよろしくない。
(チラシの裏)中学校の制服を着たくない子も?
私の子どもの頃は中学受験が今ほど盛んではなかった(今はどうかわからない)。
卒業生の多くは地元の中学校に通うため、地元の中学校の制服を着ていた。
しかし、私を含む数人は自分の通う私立中学の制服を着る必要があった。
他の子と違う服を着るのは、あまり心地よいことではないことだと思う。
私立校の制服となると、私服出席以上のプレッシャーがある。
なぜなら制服自体が「私立校に行くエリート」であることを表しているからだ。
私立に行く子どもは「上に立つ者」「特別な子」として逆説的に惨めな思いをすると思う。
なので、私立校に通わせるようなお金のある方には、ぜひ中学校の制服以外の選択肢も考えてほしい。