VRシアターの魅力と課題について
先日DMM VR THEATER YOKOHAMAで上演された「アイカツスターズ!イリュージョンShow Time(以下、アイカツスターズ)」を拝見した。
このVRシアターというのは誤解を招きやすいので、簡単に説明したい。
というのも、世間で言われているVRとは少し違うものだからだ。
アイカツスターズの上演はすでに終了したが、今後も様々な作品が上映されるようなので、観に行く予定のある方、気になっている方はぜひ参考にされたい。
アニメ『アイカツスターズ!』とは
アイドル事務所を兼ねた中学校に通う少女が、仲間とともに困難を乗り越えながら、トップアイドルを目指す物語。
2017年4月からの第2シーズンでは、学園トップになった主人公が突如現れた多国籍の船上アイドル学園に立ち向かう。
この作品はアーケードゲーム「アイカツスターズ!」としても展開しており、アニメ・ゲームともにCGダンスパートがある。
ハイテク装置を使ってライブをしているという設定であり、VRシアターとは相性が良い。
VRシアターとは?
VRというと頭に装置をつけるものを想像するが、そうではない。
VRシアターは重層的なスクリーンを観ることで、現実でキャラクターがライブしているかのような気分になれるだけのものだ。
つまり、一般的なVRのように幼児の目に悪影響を及ぼすものではない。
バックスクリーンに背景が、手前スクリーンに人物が「投影」されている。
この手前スクリーンに映し出されているのは、床スクリーンに出力された映像を特殊な素材で作られた手前スクリーンに反射させたものである。
結果として、キャラクターが実際にそこにいるように見える。
すでに有名になっている初音ミクのヴァーチャルライブはまた別の方法を取っているらしく、透明なスクリーンに反射させているようだ。
これも、同様に初音ミクが空間の中で踊っているように見える。
ただし、全方向から見られる完璧な3Dホログラムを作るのは今の技術では難しいらしく、それをやるにはVRゴーグルを頭につけなければならないそう。
目の症状は関係ない
こうしたVRゴーグルに頼らない方法を使うことで、巷で問題視されているような6歳未満の子どもが目に異常をきたす問題を防ぐことができるらしい。
バックスクリーンの映像を工夫することで、斜視の人にも立体であることがわかりやすいようになっていて、立体視の得手・不得手は基本的に関係ない。
唯一問題があるとすれば、もっと重度の視覚障害を抱えている人には視聴が難しいというところだろうか?
いずれにしても、目が見えている人にとっては目に異常をきたすとか、像が結べずに立体的に見えないという問題はなさそうだ。
(ただし、小さな子どもが立体であることを知覚できない可能性はある*1。)
ここがすごい
細かい動きをブレなく投影
LEDスクリーンの映像を投影しているだけなので、細かい動きを表現することは難しくないようだ。
アイカツスターズではゲーム筐体のCGを使っていて、ほとんどその動きを再現できていた。
手を叩くなどの特徴的な動きはCGエフェクトや効果音を使って現実以上の出来に仕上げている。
ただし、ゲームと違い、カメラワークによってステップや移動を表現できるわけではない。
そのため、前後上下斜めへの移動を二次元的に表す必要がある。そこで、初めてVRシアターならではの工夫が必要となる。
遠近法のフル活用
アイカツスターズでは、遠近法によって奥行きを演出している。
ファッションショーのランウェイではキャラクターが前に進むステップを踏み、背景が遠ざかる。
キャラクターたちが前後に動いてフォーメーションが変わるときは、キャラクターのCGが少し大きくなったり、小さくなったりする。
こうした遠近法を用いることで、本当は二次元スクリーンであっても、しっかり立体らしく仕上げている。
2つのスクリーンが作る立体感
後方のスクリーンと手前のスクリーンがあることはすでに説明した。
CGライブにおいては、このスクリーンの使い方が面白い。
アイカツシリーズにおいては、映像上に登場する物体が3種類ある。
- 歌って踊るキャラクター
- キャラクターが持つオーラを具現化したもの
- ステージ上に登場する小物や動物など
だ。
前の2つは基本的に手前のスクリーンに映し出されるのだが、3つ目の小物や生き物の使い方が素晴らしい。
後方スクリーンで背景に徹することもあれば、手前スクリーンに飛び出してくることもある。
画面横にもスクリーンがあるので、そこに出張することもある。
物体が突然手前スクリーンに現れたときの驚きはとても大きいはずだ。
ここがちょっと……
光の演出過剰
基本的にVRシアターは光の演出である。
アイカツスターズはCGライブなので、それに加えて舞台照明が登場する。
観客の方にもそれが向くので、目に痛いかもしれないし、体調を崩す人もいるかもしれない。
どこを見ても楽しめるということもあるかもしれないが、ステージの外にも光と影の演出があったりして、やりすぎ感は否めなかった。
お金のかかったアイドルのライブもそんな感じだと思うので、「実際のアイドルが歌って踊る」ことの再現度としては高いのだろう。
コスト面の懸念
このCGライブ企画は1ヶ月程度開かれていたが、まだまだ観賞料金が高くリピーター需要を狙うには難しいようだ。
アイカツスターズの場合はファミリー向けの回には2500円、大人向けの回には5000円という価格設定がされていた(他の上映企画でも3000円程度)。
これは実際のライブコンサートと同じような、あるいはそれより高い値段であり、1ヶ月間に何回も行くようなものではない。
このシアターの場合、横浜市にしかないため、アクセスの面でも難しいところがある。
VRシアターというまだ定着していない文化を人々に定着させるにはコストダウンだけでなく、リピーターを増やし、VRシアターの魅力を広めていくことも大事だ。
そういう意味では、せめて映画並みの低価格を実現するためのコミットメントも必要かもしれない。
アイカツスターズの場合は、特典を期間で変えたり、上映内容を2種類(時間帯別で4種類)用意したりしている。
このように、繰り返し観てもらうための工夫も重要だ。
拡散力の不安
3D映画と似ているところもあるが、ネットで拡散しづらいという問題がある。
3D映画は今や人類が共有できる体験となった。
しかし、VRシアターのことをネットで拡散するとなると別問題だ。
一度観てみないとどのような映像かわからないが、画像にすると本物の感動が伝わりづらい。
我々はネットの文章を見て3000円もするレモンを買いたいとは思わないので、そこをどうにかする必要がある。
皆が行く場所にVRシアターが体験できる模型を設置するなど、どのようなものか知ってもらうための工夫が必要である。
それが、VRゴーグルを使うわけではないということを知ってもらうことにもつながる。
いずれにしても、3000円もする高い買い物をいかにして気軽にできるようにするか、それがVRシアターというプロジェクトを進める上で重要になってくるだろう。
新たな映像文化の普及へ
VRシアターはできるだけ目に安全な方式を使用して現実感のある映像を作り上げている。
CGを投影しているだけなので、遠近法さえ正しく使えればリアルな映像が作れるようだ。
前方・後方・サイドのスクリーンをうまく使い分けることで、突然キャラクターが飛び出すなど、観客の心を捉えるような演出をすることも可能である。
一方で、いくらリアルっぽいとは言っても、舞台照明の使いすぎは目に痛いので避けてほしいものだ。
むしろ、そういうものをなるべく節約して、コストを下げることも大切である。
料金が高いので、何回も観に行きたいと思えないのだ。シアター側には期間別の特典をつけるなど、複数回観に行ける工夫が求められる。
もっと多くの人に見てもらうにはネットの情報拡散力も重要である。
VRシアターは特殊な映像であるため、写真や動画にしづらい。
見本を見てどのようなものか知ってもらうなど、画像に頼らない方法で広めるしかない。
こうした特殊な映像文化は普通の映画館に持ち込むことが難しい。
これが映画館にはないVRシアターの強みである。
今後、VRシアターが増えて、VR映像が安く手軽に楽しめる時代が来ることを待ち望んでいる。
(千葉県から往復で交通費が2000円吹っ飛んだことは内緒。)