気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

二重国籍だけでなく無国籍にも目を向けよう

何人とも認められない人々

現在、国会議員二重国籍が問題になっている。

はっきり申し上げるが、ここで取り上げたいのはそちらではない。

 

2つ(以上)の国籍から1つを選べるというのは、ある意味で贅沢なことである。

しかし、世の中にはどちらの親の国籍も選べない人が一定数存在する。

 

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、その数は全世界で1000万人以上にも及ぶ。

 

www.unhcr.org


そうした無国籍者の存在を我々は忘れてはならない。そこで、人が無国籍になってしまう例をいくつか紹介したい。

 

 

 

国際情勢による影響

国際情勢の影響で、望む国籍が取得できず、または剥奪されてしまうケースがある。

特に、中東・北アフリカの情勢は不安定で、犠牲になっている家族が多そうだ。

 

父系血統主義の国出身のシングルマザーが生んだ子ども

父系血統主義という考え方がある。

日本はこの方式を取りやめているが、イスラム系の国では父親の国籍を受け継ぐようになっている。

 

そのため、紛争などで亡命・避難してきた母親の子どもが無国籍状態になっているケースがあるようだ。

そのほかにも、祖国での手続きが困難な状況において、無国籍児が発生してしまう。

 

参考:

www.theguardian.com
(英語)

 

UNHCR "THE STATE OF THE WORLD'S REFUGEES: A Humanitarian Agenda" (英語/PDF)

 

国際結婚した夫婦の祖国が国交断絶するときの子ども

逆に、国際結婚をした夫婦の出身国同士が国交を断絶するという後天的な状況においても、無国籍になる恐れがある。

 

父系血統主義の場合、妻の祖国で暮らす夫とその子ども達は夫の祖国の国籍を主張できず、子どもは妻の国籍も持てない。

(国交を断絶した以上、夫の祖国という国は存在しない。)

 

参考:

www.afpbb.com

 

法律による影響

法制度の欠陥や他国との制度とのシナジー(互換性)のなさが災いして、国籍が取得できない人がいる。

 

もちろん、必要な手続きをしなかった、知らなかったなど、当事者に原因があるものもある。

一方で、片方の親の蒸発など、本人にほとんど非がないケースもあり、各国政府には対策が求められる。

 

血統主義の国で生地主義の国の夫婦(またはシングルマザー)が産んだ子ども

血統主義(国籍は血筋で判断する)の国で外国人夫婦が子どもを産んでも、子どもは現地の国籍を取得することができない。

 

それどころか、その夫婦が出生地主義(国籍は生まれた国で判断する)の国に籍を置く場合、特別な手続きをしなければ、子どもの国籍を登録することができなくなる*1

 

父系血統主義の国で出生地主義の国の父と父系血統主義の国の母が産んだ子ども

同様に、父系血統主義の国で、出生地主義の国の父と父系血統主義の国の母が子どもを産んでも、子どもは現地の国籍を取得することができない。

このため、父の認知がないなどで、いずれの国籍も取れない場合がある。

 

離婚しないまま父との関係が切れた場合、現地の男性と再婚することはできず、内縁の連れ子は現地の国籍が取れないままになる*2

 

日本で期限までに出生届を出せなかった子ども

国際結婚で生まれた日本人の子どもは、出生届を出さないと日本国籍を取得することができない。

 

しかし、外国で日本人夫との関係が断たれたとか、期限内に手続きをしないと日本国籍を取得する資格が失われることを知らなかったという理由で、取得できていないケースもある。

母親の祖国の国籍の取得に失敗した場合、無国籍児となる。

 

参考:

www.moj.go.jp


もちろん、日本人同士の結婚でDVを恐れたり、夫に認知されたくないという理由から出生届が出せないケースも存在する*3

このケースは国際結婚でも同様にあると考えられる。

 

その他

不法滞在の親が産んだ子ども

不法滞在といっても、必ずしも密入国というわけではなく、オーバーステイ(在留可能な期間を超えて在留している状態)の人が含まれる。

当局に見つかると母国に送還されるため、出生に関する手続きができないのである*4

 

親の都合とはいえ、自分のアイデンティティ不定になるのはとても辛いことだ。

現地語を喋れないまま強制送還された彼らの生活については、また別の問題である。

 

まとめ

以上に示したのは、無国籍者の一部に過ぎず、もっと深刻な例があるかもしれない。

 

今、国際結婚や同性婚など、家庭のあり方が多様化していく中で、同郷の男女のカップルが故郷で結婚して故郷で子どもを産むという前提には限界がきている。

 

日本人が故郷から上京して東京で結婚するように、仕事のために外国に住んで、現地で家庭を築くことも普通にあり得る。

制度間の噛み合わせの悪さや政治の犠牲になる子どもが減ることを願いたい。

 

日本人とみなされない問題

ハーフ/クォーター/ミックスという視点で考えれば、客観的に日本人とみなされないという別の問題も存在する。

 

せっかく日本国籍を持っても、日本で生まれ育っても、「外国人」として扱われる場合がある。

特定の外国人に特定の悪いイメージがあるという人もおり、あらぬ偏見を持たれるかもしれない。

 

その人がもう片方の親の故郷へ「行く」と、今度はその国の言語は話せないし、文化に馴染めなかったりする。

その上、その国でも「外国人」扱いされる。どちらにしろ「外国人」なのだ。


一方で、日本のメディアが外国籍であるスポーツ選手や科学者などを「日本人」扱いで報道している場合がある。

そうした報道は、外国の手柄を日本のものにしようとしていて、傲慢だと感じる。

 

もちろん、その人が日本に親しみを持っていたら嬉しいが、日本に親しみを持つことと日本人であることは違う。


日本が血統主義である以上、仕方ない面もあるかもしれないが、血筋のみで人を判断する時代は終わりを迎えようとしている。

 

どこで生まれ、どこで育ち、どの文化の影響を受けているか、そして自分が何人だと思っているかなど、多面的に人を判断することが重要だ。