YouTubeの大衆化と相次ぐ倫理違反
近年、YouTubeは子どもにも浸透している。
HIKAKINなどの人気YouTuberは玩具メーカーとタイアップして配信することもあり、もはや子ども向けビジネスには必要不可欠な存在になっている。
しかし、他のYouTuberが自殺者の遺体を撮影して配信したケース*1や、自作の火炎放射器を使う様子を配信して書類送検される事件*2も起きている。
もはや、「YouTubeなどの動画配信には放送コードがなく、子どもに有害なのではないか」という意見が聞こえてきてもおかしくはない。
でも、YouTubeにも放送コードはある。
ネット動画は誰でも簡単に投稿できるが、ルールがなく自由というわけではない。
『キラッとプリ☆チャン』第2話 ユーチューバーのための動画配信研修 - ホビーアニメを観ていたらいつの間にかアホになっていた
YouTubeにも放送コードはある
テレビの放送コード
YouTubeに言及する前に、テレビの放送コードについて整理しておこう。
テレビには放送基準がある。
例えば、NHKには「日本放送協会番組基準」があり、5項目の基本原則と2章22項目の「国内放送の放送番組の編集の基準」を定めている。
いくつか例を挙げよう。
児童向け番組では、児童の情操教育に努め、有害な内容は放送しない旨が書かれている。
娯楽番組についても、視聴者に好影響を与える有益な番組を作ることを約束している。
それ以外にも、BPO(放送倫理・番組向上機構)という外部組織が存在し、放送の健全性について意見を出している。
問題のある番組については、委員が審議をし、番組側が謝罪をすることもある。
NHKやフジテレビの健康バラエティがBPOの審議対象になったのは有名だ。
ちなみに、視聴者の意見も募集・掲載しており、どのような番組が有益でどのような番組が有害なのかを、視聴者が知ることができる。
ただ、逆にそうした意見(匿名)が糾弾されるケース*3もあり、視聴者の意見が全て番組に反映されるわけではない。
このように、テレビには放送コードがしっかり組まれており、違反した際には適切な処理がなされる。
YouTubeのポリシーとセキュリティ
一方、YouTubeでは、世界中のユーザーがYouTubeを楽しむためのルールが設定されている。
これには、性的なコンテンツや児童に有害なコンテンツに関する規則も含まれており、上記のページでそれが紹介されている。
問題のある動画は削除を申し立てることもでき、未成年に不適切なコンテンツは年齢制限がかかる。
有害コンテンツへのフィルターや削除のしやすさという観点では、むしろYouTubeのほうが優れているのかもしれない。
児童向けアプリ
YouTubeでは、子どもを持つ保護者がすべきこと*4をまとめているほか、児童向けの視聴アプリもあり、児童に有害なコンテンツを見せない努力をしている。
このように、不適切な行為を糾弾する仕組みは、テレビにもネットにもある。
YouTubeは際限なく有害な動画を投稿できる、というのは誤解だ。
YouTubeにも不適切な動画を防止するためのルールがある。
児童向けのアプリも配信されている。
倫理だけでなく法令遵守も大事
ところで、YouTubeとテレビ、両方を縛るとても大きなルールがあるのだが……
奥さん、法律ってご存じ?
これがあるおかげで、他人のものを自分のものと偽って配信していたら賠償金と放送差し止めを請求できる。
番組内で問題のある行為があれば配信者を処罰できる。
この法律というものを守るというのは、テレビ局のような企業にとって大事なことだし、一般人も守らなければ処罰されることがある。
テレビにおける法令遵守
テレビ局には、放送法だけでなく、あらゆる法律を守る義務がある。
そのため、多くのテレビ局が、個別にコンプライアンス(法令遵守)に関するルールを設けている。
日本テレビのウェブサイトには、比較的詳細な言及があった。
日本テレビのコンプライアンス憲章は6項目の基本憲章と7章24項目の行動憲章から成っている。
行動憲章の「1.【法令、規範を守ります】(1)法令遵守」の内容は以下の通りだ。
私たちは、法令や社会の規範を守り、社会的良識に基づいて行動します。法令や社会の規範に背く行為が、会社の存亡に直結することを十分に認識します。自らの業務に関連する全ての法令、規則、社内規則の求めるところを確認し、理解し、遵守することは、私たち一人ひとりの責任です。
全てのテレビ局が十分な意思表明と法令遵守を行なっているわけではないが、個人営業の多いYouTuberに比べれば、制度がしっかりしている。
YouTubeにおける法令遵守
YouTubeにおいても、利用者の法令遵守が義務付けられている。
本サービスは、YouTubeにより、その米国における設備から管理及び提供されています。
(中略)
他の法域から本サービスにアクセスする又はこれを利用する者は、自己の意志で行うものであり、適用のある現地の法を遵守することにつき責任を負うものとします。
一方で、YouTube自体は利用者に対する責任の一切を放棄している。
これは、テレビで放送された内容について、シャープやLGが責任を負わないのと同じこと。
あくまで、放送の責任はYouTuberにあるのだ。
しかしながら、前述の通り、個人事業主であるYouTuberには十分なコンプライアンスの仕組みがない。
事務所に所属しているYouTuberに関しては、ある程度の指導があるのかもしれないが、公表されているケースがないようなので不明だ。
いずれにしても、人間である以上、配信者が各国の法律に従わなければならないのは事実だ。
問題のある放送をした場合は、最初に挙げた火炎放射器のYouTuberのように法的な措置を受ける。
ルール・倫理違反は積極的に通報を
このように、YouTubeは規則や倫理基準がある。
それに対する違反者が多いのには、寡占市場のテレビとは配信者の母数が違うという事情もあるだろう。
でも、上にも書いた通り、問題のある動画を通報していけば、削除や規制は簡単にできる。
インターネットは双方向のメディアなので、視聴者が気軽に意見を出せるし、テレビのような権威的メディアとは違う。
正当な理由があれば、誰でも配信を止めさせることができるのだ。
もちろん、ネット私刑や実力行使は、それこそ倫理違反・法律違反になる。できるだけ通報機能を使ってほしい。
エルサゲート問題
ところで、子ども向けを装って、有害な内容を配信する動画が物議を醸している。いわゆるエルサゲート問題だ。
キッズ向け動画に要注意 エルサゲート被害に遭わないために - 気持ちのサンドバッグ
子どもに人気のキャラクターが登場することから、人工知能などが判別しづらく、フィルターが機能しない場合もあるらしい。
規制をすり抜ける有害動画にどう対処して行くかが、動画サイトの今後の課題になりそうだ。
有害や違法だと思う動画があれば、積極的に通報機能を使うべきだ。
フィルターをすり抜けるエルサゲートなどの有害動画には注意が必要だ。
*1:青木ヶ原の樹海で自殺遺体動画を撮影、YouTuberが謝罪 「許してもらえるとは思っていないが…」
*2:自作の放射器で火放つ=派遣社員を書類送検-神奈川県警:時事ドットコム
*3:「深夜アニメでこのような有害なシーンがあった。子どもが録画して見るかもしれないのに」というような意見はだいたいたたかれる。