仮想通貨に使われている技術を知っているか?
最初に断っておくが、この記事はビットコインの話ではない。
ビットコインにも使われている電子通帳の技術の話だ。
ブロックチェーンとは?
「ブロックチェーン」という言葉をニュースで耳にしたことはないだろうか?
ブロックチェーンとは、一言でいえば電子通帳である。
情報管理はお金がかかるし危険
ときに、企業がパソコン上で顧客の情報を扱う際、どうするだろうか?
きっと、外部からアクセスできないコンピューターや巨大なデータセンターにデータを置いていると思う。
お金をかけて厳重なセキュリティを構築しなければならず、企業にとっては大きな負担であるはずだ。
場合によっては、ハッキングを受けて情報が流出・改ざんされてしまうということもあるかもしれない。
情報をみんなでシェアする
だが、偉い人は考えた。
高額の設備を作らなくても、情報を扱える方法を。
それは、「みんな」のパソコンで情報を管理することだ。
「でも、それだとハッキングのリスクが高まるんじゃ……?」
その心配はない。
偉い人は、解読できない暗号を作ればよいと考えたのだ。
鎖型の暗号
共有する取引のデータにはその取引だけでなく、ひとつ前の取引の暗号も含まれていて、データは鎖のように連なっている。
だから、ひとつの取引を書き換えるためには、それ以降全部の取引を書き換えなければならない。
上に書いた通り、その暗号は解読が難しい。
しかも、そのデータは「みんな」のパソコンに保存されているので、改ざんしたらバレる。
さらに、ブロックチェーンでは、特殊な方法でデータに不正がないか確かめている*1。
この確認作業に合格した取引だけが承認されるのである。
このように、データを暗号で保存して、取引に不正がないかだけ確かめるというのが仮想通貨のやり方だ。
この方法は、データ(ブロック)を鎖(チェーン)にして管理するので、ブロックチェーンと呼ばれている。
参考:
モノの移動がネット上に記録される!?
このブロックチェーンは、ビットコインだけでなく、さまざまな分野への応用が期待されている。
今回紹介したいのは、モノの移動を監視するという話だ。
盗難自転車の手続きが楽に
オランダでは、電動自転車のロックにブロックチェーンが導入されている。
これによって、盗難自転車の捜査と保険の請求が非常に簡単になった。
普通であれば、自転車を紛失した際は、警察署に行って被害届を出さなければならない。
盗まれた場所や日時だけでなく、防犯登録番号や車体の型番なども書く必要があり、警察にとっても被害者にとっても、手続きが大変だ*2。
しかし、ブロックチェーンに記録すれば、
- 犯行推定時刻が正確にわかる*3。
- 盗まれた時にロックされていたかわかる。
- (GPS機能をつければ、)位置情報も追跡できる。
- それが本当に保険がかかっている自転車で、被害者が被保険者であるかも一目瞭然である。
- スマホ上の簡単な操作で、警察と保険会社に通報できる。
このように、ブロックチェーンは信ぴょう性のある情報を提供できて、自転車の盗難のような法的手続きにも応用可能だ。
この技術を使えば、シェアサイクルや譲渡も容易になるため、ユーザーの利便性は格段に上がる。*4
食品トレーサビリティも
ブロックチェーンを使えば、食品偽装の防止も可能だ。
食品の生産から販売までの情報を正確に記録でき、食品業界の人間はそれを確認できる。
単に「私が生産しました」「私が加工しました」だけではなくて、実に10ページにも及ぶデータを入力するとのことだ*5。
この食品が商談サイトを通じて、スーパーやレストランに届く。
現在、ジビエにもこの技術が使われ始めているとのことだ。
ジビエの場合は、他の食肉並みの安全性を保証することが目的である。
だが、扱う食品によっては反社会組織の資金源になるのを防止することが期待できる。
実は、ダイヤモンドの流通にもブロックチェーンが使われていて、紛争の資金源を絶つことが期待されているようだ*6。
いずれにしても、正確な情報の提供でジビエ市場が発展することが期待される。
ブロックチェーンの問題点
信頼できないブロックチェーンもある
ここまで、「ブロックチェーンは暗号だから改ざんできず安全」という話をしたが、それには例外がある。
企業内のブロックチェーンは内部から改ざんされるかもしれないので、必ずしも信用できない。
信頼できない企業では、全員がグルになる可能性があるので、正しいデータだと認める機能が働かないのだ。
だから、業界内でブロックチェーンを統一するなど、共有する「みんな」の数を増やす必要がある。
最終的には、企業みんなではなく人間みんなのブロックチェーンになることが望まれているようだ。
行政は消費者間取引を許さない
ブロックチェーンは、非中央集権の技術だと言われていて、消費者同士の取引に使われることが期待されている。
だが、行政の規制がネックとなっている。
現代の商取引では、「商売人は不正をする。だから、登録制にして行政で監視しよう」ということが前提である。
そのため、不正な取引が起こらない前提のブロックチェーンを消費者と消費者の間の取引に使うのが難しい。
消費者を守るはずの規制が、消費者の利便性を奪っている。
例えば、Airbnbなどの民泊は、旅館業法の規制によって、行政の許可が必要になっている*7。
たしかに、管理会社の許可なく営業していた、掃除されずに放置されていたなど、悪質な民泊経営者もいるらしい。
しかし、ブロックチェーンによる鍵や施錠の管理*8、ユーザーによるレビューなどで、技術的な安全性が確保されている側面もある。
ブロックチェーンを使った契約*9では、「そんなこと言っていなかった」というユーザー間のトラブルも減る。
そんな中で、現在の法制度はプライベートビジネスを想定しておらず、民泊業の発展の足かせになっているようだ。
でも、近い将来、民泊に限らず仲介業者を使わない取引が行われるようになると言われている。
もちろん、悪質な業者に退場してもらうことも必要だが、個人が市場に参入する権利を認めることも大事ではないだろうか?
組織が分裂しやすい
一方で、ブロックチェーンによる非中央集権化の意外な弊害として、意思決定が難しくなるということが挙げられる。
ブロックチェーンにおいては、「みんな」が主体である。中央組織や絶対的な権威が存在しないため、合意形成が難しい。
実際に、ビットコインの組織はシステムの変更を巡って内部分裂している。
日本の政治で意見が二分しても南北朝にならないことを考えると、中央集権のありがたさがわかるだろう。
人間の創造性によって新しい仕組みが生まれていくのはよいことだと思うが、その仕組みが安定しないのは困りものだ*10。
一度システムを作れば永遠になくならないようにすることはできる。しかし、よりよいシステムが連発されれば、乗り換えるのが大変になりそうだ。
現象として受け入れて
ここまで説明したブロックチェーンというのは、すでに進行している現象であり、止めることはできない。
IT革命に次ぐ第四次産業革命とも言われていて、業界によっては雇用が減る可能性も指摘されている。
というのも、ブロックチェーンを使ったサービスの中には、開発者以外の従業員が必要ないものもあるのだ。
一方で、エンジニア以外の個人には、ブロックチェーンを使ったサービスでプライベートビジネスを始めるチャンスがある。
大切なのはブロックチェーンを拒絶したり普及を阻止することではなく、われわれ一人ひとりがブロックチェーンを理解し、正しく利用することである。
![入門 ビットコインとブロックチェーン【電子書籍】[ 野口悠紀雄 ] 入門 ビットコインとブロックチェーン【電子書籍】[ 野口悠紀雄 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/rakutenkobo-ebooks/cabinet/4366/2000005884366.jpg?_ex=128x128)
入門 ビットコインとブロックチェーン【電子書籍】[ 野口悠紀雄 ]
- ジャンル: 本・雑誌・コミック > ビジネス・経済・就職 > IT・eコマース
- ショップ: 楽天Kobo電子書籍ストア
- 価格: 750円
*1:今問題になっているマイニングというのは、取引のデータの正しさを確かめること。マイニングをする人は、ビットコインの会社から報酬をもらえる。ただ、マイニングには膨大なエネルギーが必要である。それを勝手に他人のパソコンでやらせるプログラムが悪とされているのだ。
日本でも約3,000台の感染が確認された脅威 「ビットコイン発掘不正プログラム」 とは | トレンドマイクロ セキュリティブログ
*2:正確な時間がわからない場合は、盗まれたと気づくまでの足取りを確認する必要がある。これが「財布を落とした」とかになると、落としたと推定される場所も確認するので、手続きがさらに面倒くさい。
*3:いつロック・ロック解除されたかがわかるので、ロックされた時刻以降に盗まれたといえる。
*4:Blockchain technology moves into car sharing, mobility services | Reuters
*5:ブロックチェーンを利用したトレーサビリティー 国産ジビエ市場拡大への起爆剤となるか | 未来コトハジメ
*6:IBM Edge 2016 Report:メインフレームでブロックチェーン? ダイヤ取引の変革に挑むEverledger - ITmedia エンタープライズ
*7:「いい民泊」まで排除? 自治体の独自規制に落胆の声|オリパラ|NIKKEI STYLE
*8:ブロックチェーンでスマート民泊 スマホが鍵・財布に|オリパラ|NIKKEI STYLE
*9:ブロックチェーンを使えば、契約が改ざんされる恐れがない。
*10:同じ分野に複数の仕組みがあること自体は問題ない。例えば、みそラーメンとしょうゆラーメンという別々のものがあることで困る人はあまりいないと思う。でも、ある日突然、あなたの食べていたみそラーメンがみそバターラーメン・豚骨みそラーメンという仕組みに分裂したら困るはずだ。どちらの仕組みを使うべきか悩むし、自分の好きなお店が自分とは違う仕組みを選ぶかもしれない。