バイトの警備員は私たちを守ってくれない
テレビの街頭インタビューで、年金をあてにせず自己防衛すべきだと発言した「自己防衛おじさん」の話題がネットを席巻している。
しかし、私戦予備や決闘が禁止されていて、ライダーシステムもない日本において、自己防衛は不可能だ。
じゃあ、誰が私たちを守ると思う?
万丈ではない。
警備ロボットだ。
警備ロボットとは
都市のセキュリティを守る者
警備ロボットには、街の安全を守ることが期待されている。
便利な大都市には多くの人が集まるが、中には危ない人もいる。
だが、眠らない街を、ましてや大都市を全て監視することは、非常に難しい。
でも、ロボットにはそれができる。
警備ロボットのおかげで犯罪が減った
サンフランシスコでは、動物愛護団体の職員が犯罪や嫌がらせにあっていたようだ。
しかし、敷地とその周辺に警備ロボットを導入したところ、被害が減ったらしい。
運用コストも人間の警備員より安く、眠らなくてすむため、人類にとって利益となるだろう。
ただ、このロボットは路上生活者や歩行者の団体の反感を買っているそう。
日本でも、ロボットは道路交通法の規制に引っかかる可能性があり、公有地の警備にはまだまだ課題がありそうだ。
警備ロボットへの誤解
ここで、警備ロボットに関する誤解を解かなければならない。
それはすなわち、次に挙げる2つの懸念である。
- 警備ロボットは雇用を奪うのではないか?
- 警備ロボットは人間を襲うのではないか?
警備ロボットは人間と協力する
警備ロボットは人間と協力して警備する。
全てをロボットに任せるのは技術的に難しいし、ロボットに拒否感のある人間にも受け入れがたいのだ。
あるロボットは、ロボットに対処できない問題があれば、人間のオペレーターが対応する。
残業社員が侵入者ではないことを証明する方法をオペレーターが説明する*1。
あるいは、不審者の撃退に失敗した場合、人間のスタッフを呼ぶロボットもある*2。
交通機関向けのロボットは、不審物を検知したら職員に報告する*3。
実際問題、ロボットは不規則な行動が苦手だ。
だから、不審者やVIPの顔を認識することはできても、その人に合った対処をするということは難しい。
そうした柔軟な対応は人間のスタッフへと引き継がれる。
このように、警備ロボットの導入が警備員という仕事を直ちになくすわけではない。
今後、人工知能が発達するかもしれないが、今は人間の力が必要である。
警備ロボットは人間と仲良くする
SF映画のように警備ロボットが人間を襲う、というのは誤解だ。
むしろ、人間とコミュニケーションをとりながら、上記のように協力を求めながら、街の安全を守る。
そもそも、警備員の仕事には監視だけでなく、案内も含まれる。
だから、警備ロボットにも人間と会話ができるものが登場している。
顔が確認できた来客や従業員にはあいさつをする*4。
倒れている人を検知したら、自分に搭載されているAEDを使うよう、周囲の人に求める*5。
ロボットを多くの人に受け入れてもらうには、人間とのコミュニケーションと協働が必要だ。
「弱いロボット」との交流
上記のように、自分だけでは目的が達成できないように作られたロボットを「弱いロボット」と呼ぶ。
最近、ゴミを検知するが自分では拾わないというロボットが話題になっていた。
あれも、人間とのコミュニケーションを目的とした弱いロボットである。
そうした弱いロボットを通じて、より多くの人間がロボットに親しみを持ってくれたらと思う。
警備ロボットの利点
ここで、警備ロボットの利点と欠点を整理したい。
まず、警備ロボットは人手不足を補うことが期待されている。
そもそも、なぜ警備員が人手不足なのか?
それには、警備員という仕事が持つ2つのデメリットが関係している。
- 夜勤が多いこと。
- 危険な仕事であること。
それを解決するのが、警備ロボットだ。
ロボットは眠らない
ロボットは人間と違い、眠らずに24時間働くことができる。
これまでは、1つの施設に少なくとも1人の警備員が必要だった。
社会を回すために、たくさんの人が起きている、あるいは会社で寝る必要があったのだ。
しかし、警備ロボットを使えば、1人のオペレーターが複数の施設を「警備」することができる。
ロボットに対応できない問題が発生しない限り、警備員の出動はない。
将来的には、夜勤するのは技術スタッフだけになるかもしれない。
危険を肩代わりするロボット
警備員は危険な仕事だ。危険物や危険人物に対処する必要がある。
子どもの万引き程度であれば、犯人を取りおさえるだけでよい。
でも、テロリストや強盗に立ち向かうのは怖いし、ケガが伴う。
それから、これまでは危険物と思しきものを発見しても、警察や自衛隊に任せるしかなかった。
場合によっては、ただの忘れ物だった。
でも、警備ロボットがあれば、危険物の発見が容易になり、無駄な出動も減る。
そうした危険への対応、需要のない夜の勤務をロボットに代替させるというのが、ロボットに警備をさせる目的だ。
警備ロボットの問題点
一方で、警備ロボットには、次の2つの弱点がある。
- 攻撃に弱いこと。
- 転倒すると危険であること。
攻撃に弱い
まず、警備ロボットは人からの攻撃に弱い。
最初に紹介した動物愛護団体を守るロボットは、反対派からの攻撃を受けたそう。
もちろん、まともなロボットであれば、自律走行中に倒れるようなことはない。
でも、人為的な転倒・汚損となれば話は別だ。
ロボットへの攻撃は犯罪
警備ロボットへの被害には、なす術がないというわけではない。
器物損壊になるし、カメラに映像が残る。
「警備ロボットはすぐ倒せるので、セキュリティはザルも同然」というのは間違いだ。
警備ロボットへの攻撃を防ぐためには、犯罪であるという認識を世間に浸透させる必要がある。
オペレーターや従業員と通信をするため、サイバー攻撃への対策も求められる。
自力で起き上がれない
ちなみに、警備ロボットは転んでも自力で起き上がれないものが多い。
一般的な警備ロボットには重量があり、成人男性1人では起こせない。
アメリカの事例では、商業施設の警備ロボットが階段を検知できず、噴水に突っ込んで故障した。
このロボットは有名な機種だが、残念ながらセンサーは不完全だった。
転倒すると危険
人身事故の危険も考えなくてはならない。
重量のある鉄のかたまりが倒れこんできたら、成人男性でも、ひとたまりもない*6。
人身事故を起こした場合の刑事責任の所在も、はっきりさせる必要がある。
倒しづらい設計にすることも大事だが、万が一倒れた場合にどうするかも考えなければならない。
ロボットと人間が協力する社会へ
今の警備ロボットは、自力ですべてできる水準には達していない。
できないことも多いし、事故も起こす。
だからと言って、すべてを人間に任せるわけにもいかない。
無理をした多くの人が「故障」している。
人間の手に余ることはロボットがやる。
ロボットにできないことは人間がやる。
そのような共同防衛をするのがよいのではないだろうか?
*1:オフィスを守る警備ロボット「コバルト」の一晩に密着──その働きぶりからわかったこと|WIRED.jp
*2:ASCII.jp:ロボット開発歴35年のALSOKに聞いた警備ロボットの現在と将来|さくらの熱量チャレンジ
警備会社アルソックのロボットは警告灯と警告音を備えているが、実力行使はできない。
*3:報道資料 2017年度版 - 03月05日 - セキュリティ(防犯・警備)のセコム
警備会社セコムの「セコムロボットX2」はアームで不審物を調べられる。危険物だとわかったら自分では処理せず、スタッフに知らせる。
*4:事前にわかっている不審人物は、画像で認証する。
*5:「セコムロボットX3」の機能のひとつ。
*6:実際に、アメリカで1歳の子どもが接触事故を起こしている。子どもを検知できなかったわけではないようだが、事故のあった施設では運用を中止したそうだ。