男の子向けのおもちゃ・女の子向けのおもちゃは正当か?
日本のおもちゃ市場はおおよそ「男の子向け」「女の子向け」に分かれている。
これに対し、
「男の子向けの作品で女の子が活躍しないのはおかしい」
「女の子のキャラクターのアイテムも発売すべきだ」
という声がある。
一方で、「売り手は男の子を想定しているのだから、女の子も活躍させろというのは筋違いだ」という反論もある。
一体何が正しいのか?
性別のラベルははがすべき
「男の子向け」「女の子向け」という前提が間違っているというのが私なりの意見だ。
性別を前提としたおもちゃの製造・販売はやめるべきである。
性的マイノリティではなくステレオタイプの話
これは性的マイノリティに配慮しろという話ではない。
男性で保育士を目指したい人、女性でパイロットを目指したい人は果たして性的マイノリティだろうか?
「パイロットは男性の仕事」というように、職業に社会的性別が関連づけられているだけである*1。
性的ステレオタイプに反する職業を選びたい人が選びづらい、夢を語りづらいというのが現状だと思う。
同じように、日本のおもちゃでも、赤ちゃんをお世話するおもちゃが「女の子向け」になっており、保育士を目指したい男の子が夢を語りづらくなっている。
おもちゃは子どもが将来の夢を思い描く上で、重要な役割を果たしている。
それを制限することは、将来の職業を制限することにつながりかねない*2。
(実際にイギリスでは、男の子・女の子の演じる役割を示した広告を規制しはじめた。)
広告から「性のステレオタイプ」が消える──英協議会が広告基準を制定|WIRED.jp
男の子向けのお世話玩具ではない
ここで、私は男の子向けのお世話玩具を出せと言いたいのではない。
同じ職業の中に性差を設けたら、職業に関するステレオタイプを容認することになる。
例えば、「男性保育士は育児の能力で劣っている男性が、性別の壁を乗り越えて目指す職業」という新しいステレオタイプが生まれる可能性がある。
全人類向けのおもちゃ
そうではなくて、性別のラベルをはがし、特定の性別を対象にしないことが求められる。
それは、店頭の車のおもちゃを全部回収して、ピンク色に塗り替えろということではない。
青色のかっこいい車、ピンク色のかわいらしい魔法少女はこれからも存在する。
でも、その車を女の子が手にしてもよいし、その人形を男の子が手にしてもよい。
強いていうなら、全人類向けのおもちゃが求められている。
おもちゃと性別を結びつけるのはやめるべきだ。
おもちゃの性別表示は、子どもが夢を思い描く上での障害になっている。
全てのおもちゃを、従来の対象ではなかった性へ向けたデザインにする必要はない。
売り手は対象層を明確化したい
そもそもなぜ「男の子向け」「女の子向け」に分ける必要があるのか?
それは作り手や売り手の都合だと考えられる。
対象層を明確化することで、売れやすいおもちゃを開発・販売するのだ。
おもちゃに肉体の性は関係ない
おもちゃは服や身に付けるものと違って、体の形によって遊べないということがない*3。
にもかかわらず、男の子用・女の子用という掲示物を掲げている店がある。
そもそも、おもちゃ会社は、特定の性別を持つ人の肉体的・精神的な成長を意図しておもちゃを作っているのではない。
世の中には特定の性に大きく影響を与える化学物質などもあるが、そうした自然科学的な根拠はない。
統計情報から、おもちゃ会社や消費者が勝手に社会的性別とおもちゃを結びつけているだけだ*4。
たしかに、男の子・女の子という具体的な対象層に特化したほうが、売上が伸びるかもしれない。
だが、売り手の合理化のために、一部の客が不便を強いられているのは、よいことと言えるのだろうか?
消費者が困る?
男の子向け・女の子向けと書かれていると、おもちゃを探す上で便利だという反論があるかもしれない。
たしかに、おもちゃ専門の大型店舗では、目的のおもちゃを探すのに非常に苦労する。
しかし、男女のラベリングは、親が子どもの希望を否定するための根拠にもなりうる。
女の子がヒーローの変身アイテムをほしいと言ったときに、「それは男の子用のおもちゃで、女の子には買えない」と言うこともできるのだ。
商品をラベリングするのであれば、変身ヒーロー・ヒロイン、車などの内容や機能を表したものがよい。
そのほうが、誰も傷つかなくてすむ。
性別の表示がないと売れなくなる?
「男の子向け・女の子向けのラベルがなくなって消費者の利便性が低下すれば、おもちゃの売り上げが減るのではないか?」という反論もあるだろう。
でも、性別という壁がなくなることで、逆に売上は増えるはずだ。
お店の表示を性別からおもちゃの種類に変えることで、むしろ目当てのおもちゃを見つけやすくなる。
従来対象とされなかった性別でも買いやすくなることから、むしろ売上は増えると予想される。
メーカーや販売店が子どもの性を理由におもちゃを買うのを制限するのは、何の正当性もない。
売れるなら、それでよいではないか。
それでも性別表示にこだわるのであれば、メーカーや販売店はおもちゃの製造・販売を名目にして子どものジェンダーを支配して楽しんでいる、と言わざるを得ない。
男の子用・女の子用という区切りは、対象層を明確化することで収益を上げたいメーカーや量販店の都合でしかない。
男の子・女の子ではなく、売れるかが重要。
性別ではなくおもちゃの種類でラベリングすべきだ。
子どもの心を縛る売り方
いずれにしても、効率的にモノを売るために、おもちゃが性別で分かれてしまっているのが現状だ。
このまま男の子に車やヒーロー、女の子に人形や魔法少女といったおもちゃを割り当てていてよいのだろうか?
おもちゃ会社は子どもに性のステレオタイプを植え付けることで、そのまた子どもにも同じ趣向のおもちゃを買わせるというサイクルを作っているのではないか?
繰り返すが、中性的あるいは反対の性別を意識したデザインのおもちゃを売れとは言わない。
そうではなく、性別を前提としたおもちゃのプロデュースを見直すべきだと提案する。
おもちゃメーカーは特定の性別を前提とせずにおもちゃを作り、量販店も「男の子用」「女の子用」という表示をしない。
そうすることで、子どもが自由におもちゃを楽しめるようにすべきではないだろうか?
*1:生まれつきの性が女性の人がパイロットを目指しても、その人がトランスジェンダーとは限らない。たしかに、トランスジェンダーの男性がパイロットを目指す場合、その人は男性である。しかし、自分を女性だと自認している女性がパイロットを目指す場合、トランスジェンダーとはいえない。
*2:現に、女の子に人気のあるパティシエは男性が多い職業であることを補足しておく。一度に大量の材料を手早くかき混ぜることから、男性が有利になってしまうのだろう。
10の質問でパティシエのすべてがわかる!~世界中で愛されるオリジナルスイーツを生み出すことも!~|マナプラ|Benesse マナビジョン
にもかかわらず、お菓子屋さんのおもちゃは男の子向けに売られていない。「おもちゃが子どもの夢を作る」論の限界だと言えよう。
*3:異性の服を着ることは可能ではある。
*4:子どもがおもちゃを選ぶのに生物学的要素も絡んでいるという研究がある。しかし、人間生活において社会的性別と生物学的性別は複雑に絡み合っているため、2つを完全に分けて考えることは難しいとする専門家もいる。
セクハラしない人間に育てる方法 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
でも、だからといって、社会的性別の影響をいっさい否定して性別二元論にこだわる意味はない。生物学的影響オンリーではないのだから。