全国の施設に求められる防災
レゴランド・ディスカバリー・センター東京が聴覚障害のある客の入場を拒否したとして、国から改善命令を受けた。
障害者差別解消法では、保護者や付き添いがいないことを理由に障害者の入店を拒むことを認めていない*1。
しかし、レゴランドは、健常者の付き添いがなければ安全確保ができないとして、入場を断っていた。
レゴランド東京、聴覚障害者の入場を拒否⇒運営会社が謝罪「誤った対応だった」
今回の施設や、全国のお店・施設はどうすればよかったのか?
施設の管理者には誰一人取り残さない対応が求められている。
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バリアフリー対応
今回入場を断られたのは、聴覚障害者だった。
耳の不自由な人が安全に施設を楽しむためには、バリアフリー対応が必要だ。
バリアフリーはみんなのためになる
例えば、皆さんの身の回りに、「当店にはスロープがないので、車椅子での入場はできません」というお店はあるだろうか?
大きなチェーン店であれば、だいたいスロープが用意されていて、車椅子でも難なく入店できるようになっている。
車椅子ユーザー以外がスロープを使ってはいけないというルールはなく、ベビーカーや足の悪いお年寄りなども利用できる。
視覚的な安全対策が必要
同様に、聴覚に障害がある人に対しても、視覚的な安全対策や案内が求められている。
それは非常口の標識だったり、わかりやすい案内表示だったりする。
手話が得意で筆談が苦手な人もいるので、手話ができるスタッフがいると、なおよい。
それらの配慮は「ズル」でもなければ、ほかの客の迷惑にもならない*2。
むしろ、わかりやすい標識があったほうが全ての人の利益になるではないか。
障害者のためのバリアフリーはすべての人の利益になることが多い。
障害者によってニーズは違う。施設の管理者においては、それぞれの障害の大まかなニーズを把握しておくことが大切だ。
外国人観光客とピクトグラム
外国人は入場OK?
ネット上には「聴覚障害者の安全確保はできないのに、外国人は入場させて大丈夫なのか?」という指摘もあった。
たしかに世界には言語がごまんとあり、多言語対応にも限界がある。
外国語に訳された標識・収録済みの音声では臨機応変な対応はできないだろう。
じゃあ、外国人の入場をお断りするのか?
案内用図記号なら読みやすい
そうではなく、言葉によらない手段—ピクトグラム—で避難を誘導する必要がある。
「非常口はこちら」と日本語の文字で書くのではなく、非常口のピクトグラムを掲げる。
そうすれば、読み書きが困難な人でも非常口がわかる。
ピクトグラムには日本の文化を踏まえているものもあることから、誰でも分かるユニバーサルデザインにする必要がある*3。
英語がしゃべれないから困る?
「日本人が英語をしゃべれないせいで外国人観光客が困るのだ」という意見もあると思う。
だが、上に書いた通り、世の中にある外国語は英語だけではない。
目の見えるすべての人に災害の情報を伝えるには、ピクトグラムの存在が不可欠だ。
いろいろな言葉を話す外国人や、読み書きが不自由な人もいる。
文字だけでなく、国際的な基準に沿った絵も重要。
あらゆる手段で伝えることが大事
わかりやすいトイレの案内
皆さんは大都市の駅を利用したことがあるだろうか?
トイレの前にはデカデカと男性用・女性用を表す表示が掲げられている。
足元には点字ブロック、壁には点字がある。
さらに音声で「左が男子トイレ、右が女子トイレ、真ん中が誰でもトイレです」というアナウンスが常時流れている。
これなら、目や耳が不自由な人が安心して利用できる。
いつも駅を利用する健常者にはうるさく感じられるかもしれないが、障害者や子ども連れなどには非常にありがたい。
自己責任論はあなたの命も奪う
同じように、緊急時の避難誘導も、さまざまな方法がとられるとよい。
この際、「理解できなかった人が悪い」「案内を見つけられなかったほうが悪い」という自己責任論は、やめにしよう。
あなたも自分が案内を理解できなかったとき、見つけられなかったときに命を落とすのだから。
さまざまな手段で情報を伝えることが、すべての人の防災につながる。
翻訳アプリなどの活用を
さて、問題は外国人で目が不自由な人をどう避難させるかである。
言葉が通じず、ピクトグラムや身ぶり手ぶりも使えない*4。
そんなときに役立つのが翻訳アプリだ。
最近の翻訳アプリは優れているので、短い文であれば違和感なく訳せる。
例えば、英語で「津波の恐れがあるので、高台へ逃げましょう」と伝えたいとき、スマホのスピーカーから音声を流すことができる。
問題は相手の言語がわからなかったときである。
スタッフには、相手が何語を話すか聞き出すだけの英語力はほしいところだ*5。
オフラインでも使えるGoogle翻訳
Google翻訳アプリはファイルをダウンロードすることで、オフライン(インターネットなしでの使用)にも対応できる。
その数は実に100以上にもおよぶ*6。
緊急時に対応できるよう、主要な言語のファイルをダウンロードしておくのがよいだろう。
あなたが海外旅行に行くなら、事前にその国で話されている言語をダウンロードしておこう。
オフラインで音声入力ができる翻訳機
オフラインに対応した翻訳専用の機械がある。
機械に話しかけると、自動で目的の言語に訳してくれるというものだ。
スマホの音声入力はオンラインが前提であるため、オフラインで使えるのは心強い。
問題点としては、対応する言語の少なさと価格が挙げられる。
多言語対応のものもあるが、どうしてもオンライン限定になってしまう。
オフラインでは、10ヶ国語程度が限界だ。
それから、翻訳機は1つ数万円する。
博物館などの公共の施設や自治体で2〜3つ持っておく分には問題ないが、それ以外の施設には負担が重すぎる。
翻訳機という名前だけ聞くと夢のような機械に感じられるが、本格的な活用には程遠いのが現状だ。
言葉を外国語に翻訳してくれるスマホアプリや機械がある。
それぞれに長所と短所があるので、どちらが優れているということはない。
ネットにつながっていないときの機能の少なさと、価格がネックになっている。
災害対応できる自治体職員の育成を
避難が完了した時点で、お店や施設のスタッフの仕事は終わる。
その後の責任を持つのは、避難所にいる職員だ。
でも、その職員が障害者の対応に慣れていなかったら困る。
ノウハウや設備のある他の避難所に移動するとしても、そこまでの対応が必要だ。
自治体は、少しでも多くの人が安心して避難生活が遅れるよう、努力しなければならない。
少しでも多くの避難所職員が障害者や外国人への対応の仕方をわかっていないと、被災者は困る。
自己防衛は義務ではない
ところで、「◯◯には行きません」「入場できるか事前に問い合わせます」という障害者がいる。
これは自己防衛であって、義務ではない。
なのに、義務だと決めつけている健常者や定型発達者がいる。
そして、一部の障害者も自らを縛っている。
「酔いやすいのに修学旅行」はわがまま?
例えば、修学旅行などで、バスに酔いやすい人が前の席に乗せてもらうということがあるだろう。
この「義務」に従うとすれば、酔いやすい人は修学旅行に行けなくなってしまう。
そうではなくて、安全策を講じた上で、子どもが修学旅行に参加できるようにすべきだ。
合理的配慮をわがままというのであれば、車に酔う可能性のある子どもを修学旅行に連れていくのもダメである。
いずれにしても、持病のある人や障害者が出かけることを迷惑だとする風潮はなくす必要がある。
障害があるのは人ではなく施設
そうした考え方の根底にあるのは、障害が障害者個人の問題であるという認識だ。
それは違うと思う。
施設のシステムに障害があるから、耳の不自由な人が利用できなかったのである。
障害物競走は選手に障害があるのではなく、コースに障害が置かれている。
それと同じだ。
エレベーター・エスカレーターのない10階建てのビル、トイレの案内がないショッピングモール。
それで困るのは健常者・定型発達者も同じのはず。
こうした明らかな欠陥施設にも「事前に確認しなかったほうが悪い」と言えるだろうか?
施設の側も、障害があることで客が離れていく。
ネット通販・仮想現実の時代、住宅街の近くにあるからといって、みんなが来てくれるとは限らないということを肝に銘じるべきだ。
一部の障害者は、安全の確保が難しい場所や、自分への配慮が必要な場所に行かないようにしている。
それは自分を縛る考え方なので、よくない。
人ではなく、施設やシステムに障害がある。
それをなくさないと、施設にとっても不利益だ。
*1:こうした合理的配慮は義務ではなく、努力義務である。しかし、よほど小さな個人店でもない限り、今回のように国の指導があるだろう。
*2:万が一、障害者によって迷惑を被った場合は、遠慮せずにお店の意見箱やお客様窓口などに苦情を言ってもよい。合理的な理由があれば、差別やヘイトスピーチにならない。
*3:色覚障害がある人でも認識できるように、色にも細かい規格がある。自由に描くのは勧められない。
*4:地震になじみのない外国人もいる。また、震度は日本独自の指標なので、訳せない。そういう背景も踏まえる必要がある。
*5:Google翻訳のアプリは手書き入力に対応していて、入力された文字から言語を割り出すことができる。これはオンライン専用の機能なので、ネット回線が切れた状況では使えない。