気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

南青山の児童相談所 幸せな家庭をつくるための施設

南青山の児相は健全な家庭作りを手助けする。非行少年・虐待親の懲罰だけが目的ではない。

Photo by Derek Thomson on Unsplash

 

正式には港区子ども家庭総合支援センター

東京都港区南青山に「児童相談所」を建てることについて、住民の一部が反対していることが大々的に報道されている。

反対する住民の一部が差別的だという批判も根強い。

しかし、住民の一部に対する怒りばかりが先行して、設置の目的が置き去りになっていたので、この記事で整理したい。

 

 

 

 

ただの児童相談所ではない!

現在、ニュースで取り上げられているのは、東京都港区南青山に「港区子ども家庭総合支援センター」を建てるという計画である。

 

www.city.minato.tokyo.jp

 

児童相談所=子どもに関する支援・措置

子どもに関する相談を受け、支援や措置を行う施設。

相談内容には、非行や不登校、児童虐待などが含まれる。

 

施設に子どもを入所させる、親権を取り上げるという機能もある。

だが、それは手段であって、児童相談所の目的ではない。

子どもがよい家庭環境で生活することがゴールだ*1

 

子ども家庭支援センター=幅広い相談窓口

子どもや家庭に関して、相談を受けたり、助言をしたりする施設。

児童に関わる問題の最初の相談窓口として、機能している。


児童相談所が大学病院だとしたら、子ども家庭支援センターは地域の総合病院である。

 

相談以外に、施設を出た子どもの援助や、児童相談所の仕事の補助をすることもある*2

港区としては、子育てに関するイベントを開くだけでなく、ひとり親家庭やDVについての相談も受け付けたいとしている。

重要性・緊急性が高い事案は、より専門的な児童相談所に持ち込まれる。

 

「懲らしめる」ではなく「抱きしめる」

児童相談所には

  • 「悪い子どもを懲らしめる施設」
  • 「悪い親を子どもから引き剥がすための施設」

というイメージがあるかもしれない。

 

そうではなく、

  • 子どもを持ちたい人の不安を減らし、
  • 子どもの健やかな成長を見守り、
  • 幸せな家庭を作る手助けをする施設

というのが、港区の目標だ。

 

非行や虐待はよくないことだが、それを防げない・連鎖させる地域社会はもっとよくない。

 

現状の課題(なぜ大型施設を南青山に?)

従来はできなかった「区立」児童相談所の設置

東京23区(特別区)は、もともと自分で児童相談所が設置できなかった。

 

23区の人口の多さから考えると、7個の児童相談所ですべての家庭・児童の面倒を見ることは難しかったはずだ。

それに、問題の分野や規模によっては、都の児童相談所と区の機関が役割を分担しなくてはならなかった。

 

だが、法律の改正で、都立に加えて、区立の児童相談所を設置できるようになった。

だから、港区は新しく児童相談所を建てたい。

児童相談所を建てる大義名分は十分にある。

 

分野間の連携が不十分

なぜ大きくしなければならないのか?

小さな児童相談所では、子どもや家庭に関する問題に、シームレスに取り組めない。

その他の施設・部署との連携が不可欠である。

 

例えば、個別の施設が対応した場合、縦割り行政のせいで問題が見過ごされる危険性がある。


一口に児童福祉といっても、産婦人科・小児科などの医療機関、保育園、学校、子ども家庭支援センター、警察などさまざまな担い手がいる。

機関の間で持っている情報が違うと、虐待の種に気づけない場合もある。


役割を明確化し、組織間のしがらみをなくすためにも、同じ場所でケースを共有したほうがよい。

 

それから、児童相談所と子ども家庭支援センターが別々の場所にあったとしよう。


「うちでは対応できません」

「児童相談所に回しましょう」

となったときに、わざわざ移動する必要が出てくる。


相談するコストが高いので、必要があっても相談しない人がいるはずだ。

 

そう考えると、切れ目なき支援のためには、複合施設が最適である。

 

実効性のある支援が必要

児童相談所も人手不足が深刻である。

そんな中で、新しい施設を建てる意味はあるのか?

そういう指摘があるのも事実だ。

 

反面、児童相談所の仕事を減らすには、非行や虐待の未然の防止が求められてくる。

また、専門性の低い専門家で対応できる問題*3については、そちらに回したい。

 

問題の構造を総合的に見れば、子ども家庭総合支援センターが無駄ではないことがわかる。

 

アクセスのよい場所に作りたい

南青山にしたいのは、みんなに来てほしいからだと考えられる*4

 

候補地は東京メトロ表参道駅*5の近くで、交通の便がよい。

自家用車を持たない鉄道社会の人にとって、行きやすい場所である。

イベントを開きたいという区の意図にもあっている。

 

それに加え、港区のウェブサイトでは、「閑静な立地」という要因も挙げられていた。

(今回の施設は港区立であり、もっと閑静な23区外に建てるべきという指摘は、的外れだ。)

 

後付け感が拭えないが、行きやすいのは確実である。

 

児童と保護者に最大限の支援をするため、南青山に大きな子ども家庭総合支援センターを作る。

 

本当に大丈夫か?

このような施設が実際に作られれば、港区の子育て世代にとってはうれしいことだと思う。

一方で、港区のウェブサイトや賛成派の考えは理想でしかないという指摘もある。

 

港区の子どもと保護者を支援できるだけの人手を確保できるのか?

建てて終わりにならないか?

 

頭ごなしに反対・賛成するのではなく、私たち一人ひとりが考えなければならない。

*1:参考:第9章 援助(親子分離)|厚生労働省

*2:参考:児童家庭支援センター

*3:「子どもが野菜を食べない」

「子どもの叱り方がわからない」

というような緊急性の低い問題は、児童相談所でなくても答えられる。

*4:実際のところ、都合のよい土地がここしかなかった。空きのできた国有地を区が買い取ったという経緯がある。

*5:東京メトロは東京最大の私鉄である。