脱プラスチックの現状と課題 かえって環境破壊?
持続的な開発目標(SDGs)の一環で、プラスチック製品を削減する企業が増えている。
SDGsは、地球が今後続いていくために定められた国際的な目標だ。
単なる流行りではなく、危機感をもって計画が進められている。
そんな中、アイスコーヒーを紙カップで提供する企業も出始めた。
多少の問題もあるが、野心的に取組が行われている。
脱プラスチックの現状
タンブラーを使いづらい でもプラ削減は必要
従来は環境に配慮して、タンブラーを使う人がいた。
しかし、今は衛生面の懸念から、使い捨て容器を使いたい人も多い。
そうなれば、プラスチックごみの増加が懸念される。
というのも、適切な方法で処分されない場合がある。
プラスチックは表向きには、リサイクルされることになっている。
だが、実際には処理されずに放置、あるいは不法投棄されているごみも多い。
海に流出したプラスチックは、生き物がエサと間違えて食べてしまうおそれがある。
巡り巡って、プラスチックを食べた生き物が食卓に並ぶかもしれない。
安全安心な食生活のためにも、SDGsは必要なのだ。
参考:
分解できるプラスチック 導入には程遠く
そもそも、プラスチックは土に帰らない素材である。
生ごみと違い、地面に埋めても何千年も残る。
これをなくそうと、土に帰るプラスチックの生産が進められている。
ただ、普及には至っていないのが現状だ。
まだコストが高く、従来のプラスチックよりも魅力的ではない。
本当に土に帰るのかという技術的な問題も指摘されている。
それから、開発途上国の食糧が犠牲になるという構造的な欠陥もある。
「バイオマス」と呼ばれる素材の多くは、トウモロコシなどの穀物だ。
開発途上国の人はお金のために、食用のトウモロコシ畑をバイオマス用に作り変える。
そうすると、貧困層の食べるものが減ってしまう。
こういう事情もあり、「エコだから分解できるプラスチックにしよう」とはならない。
参考:
衛生面の懸念から、使い捨て容器の需要が高まっている。
リサイクルされないプラスチックごみは多い。
土壌で分解されるプラスチックの導入は進んでいない。
アイスコーヒーが抱える課題
今すぐプラスチックの使用をやめるというわけにはいかない。
多くの企業には、今すぐ中止できない事情がある。
プラスチックは冷たい飲み物のよさを活かす素材である。
それを今すぐなくしたら、売上への影響は必至だ。
そうした局面においても、企業はさまざまな工夫で脱プラに取り組んでいる。
中身が見えない インスタ映えしない
スターバックスコーヒージャパンでも、プラスチックの容器の使用を一部で取りやめた。
2021年4月16日以降は、ホット用と同じ紙カップで販売している*1。
近年のスタバは「インスタ映え」がセールスポイントになっていた。
中身の見えない紙カップは、見た目重視のフラペチーノにとって大きな痛手となる。
そうした中で、インスタ映えを趣旨としない一部のドリンクを紙カップに切り替えた。
見た目を重視したい思惑もあり、プラスチックの廃止には至っていない。
でも、インスタブームが去れば、プラスチック製カップが完全になくなるかもしれない。
紙カップ 清涼感に欠ける
もうひとつのセールスポイントは清涼感だと思われる。
プラスチック容器は氷が見えて、涼しげな感じがする。
その冷たさ・涼しさを感じられないと、消費者の満足感が減少する。
そうした中、コンビニ大手ローソンは、ユニークな方法で脱プラに取り組んでいる。
絵柄のついた紙カップに、透明なプラスチックの飲み口をつける。
プラスチック製のストローはまだ配布しており、飲み口に刺して使える。
見た目はさながら、ファストフード店のソフトドリンクだ。
ふたが透明なので、中身が見える。
冷たい飲み物のイメージが強いこのカップなら、客の抵抗も少ないだろう。
これは既存の製品をうまく使った脱プラスチック対策といえよう。
SDGsは、今のやり方を否定するような施策だけではない。
紙カップの冷たい飲み物 飲みづらい
ストローがないので、飲むたびにカップを持ち上げなければならない。
氷が鳴るため、仕事や勉強の場には向かない。
紙のストローを提供している店舗もある。
だが、時間が経つとふやけてしまうので、好まれていない。
脱プラスチックで利便性を大きく損なう場面もあるが、今は妥協するしかない。
インスタ映えしない商品のみ、紙カップに切り替えた。
ソフトドリンクと同様の紙カップを採用した。
紙製ストローなど、プラスチック廃止による不便さもある。
紙カップ批判へのアンサー
プラスチックを紙に切り替えることについては、さまざまな指摘がある。
- 環境汚染につながる。
- 衛生上の懸念がある。
それでも、プラスチックの使用を継続すべきとは言いきれない。
紙に切り替えるリスクよりも、プラスチックを使い続けるリスクのほうが大きい。
森林伐採につながる? 環境への配慮
紙製品を使えば、森林伐採が加速するのではないか?
そのような懸念もあるが、一応は心配ない。
基本的には、再生紙が使われている。
農産物を作る過程で生じた廃材から紙を作っているケースもある。
全日空(ANA)では機内食の容器で、砂糖を作るときに捨てられていたサトウキビの一部を利用する。
良識のある大手企業はただ流行りに乗るのではなく、最善の手段をとっている。
消費者も、真に環境に配慮できている商品・サービスを選びたい。
食品の品質が下がる?
プラスチックのおかげで、品質のよい食品が食卓に届く。
だから、プラスチックを廃止したら食品の質が下がる。
そうした批判もある。
とはいえ、アイスコーヒーは、1ヶ月も2ヶ月も保存するわけではない。
その場で飲む分に関しては、紙カップでも品質に問題はない。
一方で、ペットボトルコーヒーについては、むしろ長期保存のメリットを活かす取り組みもある。
例えば、賞味期限の表示を見直したり、期限切れ間近の商品を格安で提供したりしている。
もともと品質が高いからこそ、このように柔軟な対応ができる。
もちろん、すぐ飲むのであれば、ペットボトルの必要はない。
過剰包装、不要の長物である。
食品の種類・用途に応じて、柔軟な対応を取るべきだ。
再生紙や間伐材の紙が使われていて、環境に配慮されている。
長期保存を前提としないのなら、プラスチック包装は必要ない。
SDGsはプラ削減だけではない
飲食店や食料品店が取り組むべきSDGsの活動は、プラスチックの削減だけではない。
食べ残しや廃棄(フードロス)はないだろうか?
ジェンダーにかかわらず、従業員が健康で快適に働けているだろうか?
脱プラスチックも重要だが、ほかの16項目についても達成できるよう努力すべきだ。
間違っても、脱プラスチックについて、部下に夜通し会議させてはいけない。
*1:飲み口付きのふたは、プラスチック製。