「テレビで報道されない真実」 記者ではない個人が発信源
コミュニティサイトやSNSなどの発展で、ネット上での人のつながりが広がった。
そんな中で、一部のネットユーザーが悪い人を探して、私的に制裁する活動を行っている。
不十分な証拠から「犯人」を決めつける様子は、さながら「探偵ごっこ」だ。
いくつかのケースでは、関係ない人が「犯人」扱いされる被害も出ている。
そのような馬鹿げたことはやめるべきだ。
容疑者の親の特定:無関係の企業が被害
2019/6/16-17に発生した交番襲撃・拳銃盗難事件では、報道に先立つ形で、容疑者Aの親の名前と勤務地・役職などが拡散された。
結果的に正しいとわかり、親からの声明文も出された。
しかし、過去に起きた事件では、容疑者Bの親が社長を務める会社として、B社の名前が拡散された。
実際には、B社社長は容疑者Bと無関係で、民事訴訟に発展している。
容疑者の親を特定するという自称・正義の行動は、実際には悪であった。
親の会社に責任なし 特定はストレス発散のため
そもそも、親の会社は事件と関係があるのだろうか?
例えば、容疑者が親の会社の社員であり、会社の命令で事件を起こしたのだとすれば、話は別だ。
だが、普通はそうではないので、親の会社は関係ない。
彼らの責任を追及する人たちは、事件の背景や犯人の動機を解明したいわけではない。
どちらかといえば、事件を利用してストレスを発散するのが目的だろう。
「テレビでは報道されない真実」系のデマに注意
「テレビで報道されていない真実」という謳い文句には気をつけよう。
デマか未確定の情報かもしれない。
「親が重要人物のため、圧力がかかっている」「マスコミの忖度で報道されない」などの書き込みにも注意が必要だ。
ネット住民は「権威の暴走」が大好物なので、そうした書き込みが拡散されやすい。
情報を出しているのが個人だったら、シェアボタンを押す前に5秒考えてほしい。
記者ではない個人の情報は信用できるだろうか?
誤った企業を拡散:ネット情報を盲信
NHKのドキュメンタリー番組で、工場で働く外国人技能実習生が取り上げられた。
放送後、ネット上では「雇用主はC社ではないか」との邪推が拡散されていた。
C社は外国人技能実習生を受け入れていないとして、ウワサを否定した(2019/6/26時点)。
のちに、当該企業はC社が参加する共同ブランド組合の、いずれかの企業の下請けであったと判明した。
元請けには一定の責任がある。
憶測によるデマ 「ドキュメンタリーのせい」と開き直りも
とはいえ、C社・共同ブランド・技能実習生の関係について、憶測の域を出ないデマが拡散されていた。
一般論とか、ネットの報道を見た上での推測であり、いずれも事実かどうかわからない。
ネット上では、「NHKが企業名を出さなかったせいで、誤った情報が拡散された」とする書き込みも多い*1。
でも、NHKは特定の企業ではなく、日本全体の問題として外国人技能実習生を取り上げたのではないか?
視聴者が勝手に探偵ごっこをしたのであり、NHKにそれを防止する責任はない。
ちなみに、今回の憶測の「根拠」は、街頭の写真を見られるサービス「Googleストリートビュー」のようだ。
「写真と一致するからC社に違いない」と思い、情報を拡散したのだろう。
マスコミのように、現地で取材すれば、このような間違いはなかった。
密室の出来事を勝手に想像:いじめの犯人の誤特定
類似する事例として、いじめの「犯人」が拡散されたケースを挙げておきたい。
通常、子どものいじめは録音・録画されず、密室で行われる。
しかも、少年法上、暴行などをした犯人の名前は報道されない。
「被害者の名前が開示され、犯人の名前が開示されないのは正義に反する」
そのような考えから、ネットユーザーによる探偵ごっこが行われる。
SNSのフォローなどの関係から「犯人」を邪推する。
彼らは事件に立ち会ったわけでもなく、被害者の友人らを知っているわけでもないことを強調しておく。
ネットユーザーが人間関係をでっち上げ
ある事件では、ネットユーザーの思う「犯人」の名前や住所が拡散された。
勝手に、グループ内の人間関係などのストーリーが創作された。
この事件では主犯格が明かされているが、ネット上ではそれ以外の子どもも「犯人」として扱われた。
当然、詳しい人間関係などは報道されないので、真相は闇の中だ。
事件から数年が経ち、生活者の記憶から失われはじめている。
それでも、個人情報を晒し上げられた無関係の子ども、受けなくてもよいネットリンチを受けた子どもには、深い傷跡が残っている。
加害者の親として拡散 人違いで裁判事例も
別のいじめ事件では、加害者の親として、無関係の別人の名前と顔が拡散された。
ネットの情報の断片から、その人を親だと思い込んだようだ。
この事例も裁判に発展し、賠償命令が出ている。
成人の容疑者と違い、保護者の責任が問われる可能性はある。
でも、責任を問われるのは、デマを流した人も同じである。
探偵ごっこなど、しないのが賢明だ。
探偵ごっこの全体的な特徴:
マスコミと違い、
- 取材しない。
- 断片的な情報から想像する。
- マスコミには報道されていない独自の情報だと主張する。
プロフィール欄に記者などの肩書きは書かれているだろうか?
検索してマスコミの記事が引っかかるだろうか?
「マスコミが報道しない真実」を主張していないだろうか?
マスコミは取材している
マスコミは何をしているのか?
取材をした上で報道をしている。
事件現場の周辺での聞き込みに加え、警察や関係機関にも取材をしている。
最近は事件現場をわかりやすく説明するため、Googleアースや、Googleストリートビューを使うケースも増えた。
その一方で、現地には記者を派遣して、中継でレポートをさせている。
残念ながら、一部には妄想だけで記事を書くメディアも存在する。
だが、まともなマスメディアなら、自分で取材する*2。
マスコミ:
現地で取材し、中継でレポートする。
Googleストリートビューを併用して、わかりやすく説明している。
マスコミにもダメな部分はある。
だからといって、まともに取材していない個人の情報を盲信するのは、とても危険だ。
あなたの次の憶測が正しいとは限らない
C社が本当に元請けだった場合の予防線を貼っておく。
気にするべきは情報の正誤ではなく、間違っていた場合に受ける報いだ。
デマが裁判に発展したケースがあるのは、容疑者の親のケースで書いた通りである。
勝手な憶測を書かなければ、裁判沙汰にはならなかった。
もし1回憶測が的中しても、次に的中するかはわからない。
本当に正義の心があるのなら、せめて、報道された確かなことについて議論してほしい。