気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

【ニコニコ動画】ボカロP米津玄師がレコード大賞で無双した意味

ネット発のアーティストがヒットした要因とは?

米津玄師の作曲した複数の曲が日本レコード大賞で賞を獲得した。

中でも、Foorinに提供したパプリカは最高賞の栄冠を手にした。

 

米津玄師といえば、ニコニコ動画出身のアーティストとして有名だ。

初音ミクなどのボーカロイドを使って楽曲を制作する「ボカロP」だった。

そして、彼は2020年1月現在、世界で最も成功したボカロPである。

 

ニコニコ動画出身アーティストはどのようにして大衆にヒットしたのか?

従来のアーティストと何が違うのか?

 

 

 

 

ニコニコ動画が生み出した才能たち

ニコニコ動画・ニコニコ生放送が産んだ才能はさまざまな場所で活躍している。

米津玄師だけが成功したわけではない。

Chouchoやsupercellなど、サブカルチャーの第一線で活躍するアーティストもいる。

 

そうした中で、ニコニコ生まれで初めて完全にメインカルチャーとなったのが、米津玄師だった。

 

ちなみに、清水翔太も2ちゃんねるが産んだとされる歌手の1人だ。

ネット出身歌手という意味では、彼が先駆者だった。

 

ニコニコ動画が輩出した才能の正体

匿名だから作品を作れた

当時のネット動画では、顔を晒さないのが常識だった。

今のように、リアルタイム配信できるカメラが普及していなかったという要因もある。

でも、日本の配信者の中には、カメラで配信しながらマスクで顔を隠す人も多かった。

 

今でこそHIKAKINやはじめしゃちょーなどのYouTuberが顔出し配信をしている。

だが、ニコニコ生放送の「生主」に関しては「顔を出さず」が常だった。

 

それは卑怯なことではない。

顔を出さないからこそ自作の絵やCG、それから音楽を使った総合的なアートが生まれた。

敷居が低くなり、さまざまなクリエイターやアーティストが世間の目に触れた。


今でこそ顔を出しているが、デビュー後もハンドルネームを使い続ける人も多い。

 

優れた共同者に巡り会えた

ニコニコ動画といえば、アカウントの枠を超えた合作。

作詞・作曲や動画用の絵を分担している動画が多い。

 

これは、下北沢のストリートでは実現が難しい。

北海道の人の曲に沖縄の人が曲をつけ、愛知の人が歌う(ボーカロイドに歌わせる)には交通費がかかる。

曲は作れるが、楽器を弾けない・曲を再現できない人もいる*1

そもそも、彼らは巡り会えないだろう。


ネットという通信手段と才能を公開できる動画サイトがあったからこそ、彼らは出会えた。

そして、プロとしての音楽活動ができた。

 

人を惹きつけた よいものが評価される構造

ストリートライブと違うことは他にもある。

クリエイターたちは次のようなニコニコ動画の特徴を使って、人を惹きつけた。

 

  • いつでも再生できる。
  • 動画上にコメントが流れ、評価が目に見える。
  • タグ機能でさまざまにつながる(「才能の無駄遣い」など)。
  • 友達にシェアできる。
  • 他人の曲を歌ったり、踊ったりして広められる。
  • 人気の動画はトップに表示される。

 

ニコニコ動画には、よいと思ったものが評価される構造ができていた。

今リアルで活躍しているニコニコ出身者は、大きく評価され、爆発的なヒットを生んだ人が多い。

ストリートライブ単体では、ニコニコ動画ほどのヒットは生み出せないだろう。

 

理論に囚われない自由な曲

ネット発のアートというのは、必ずしも教科書通りに作られていない。

自由な発想で作られている。

ボーカロイドの楽曲にも、従来の楽曲にはあまりなかった自由な作風がある。

 

過去の日本音楽界でも、そうした曲がヒットした例(井上陽水・たまなど)はある。

だが、ボーカロイドはその傾向が強い。

 

  • 和風の曲なのに、歌詞の中にミサイルの名前が出てくる。
  • 特定の国のファンクラブを作る。

歌詞に文脈や意味を求める伝統的な音楽とは一線を画する。

 

ボカロとは違うが、ゲームのようなファンタジー世界を舞台にしたライトノベルもヒットしている。

取材をせず、大学などで小説の修辞法を学んでいない作家もいるようだ。

いずれにしても、ネット初の芸術は従来のJ-POPや大衆小説とは、大きく異なっている。

 

一流への道という思い込みを覆した

ヒットへの道のりに関しても、従来のクリエイターとは異なっている。

彼らは誰でも使える動画サイトで、ヒットを生み出した。

「一流になるためには努力が必要だ」というステレオタイプを覆した。

 

そもそも、私たちの中には「表現者は一流でなくてはならない」という思い込みがある。

  • ストリートやインディーズで何年も修行を積んだバンド
  • オーディション・カラオケ大会で優勝したシンガー
  • 芸術大学卒業のイラストレーター

そうした人が表現をすべきだという考えは、芸術界を萎縮させる。

 

ニコニコ動画での音楽配信が流行りだした頃は、素人のごっこ遊びと批判されていた。

サイトのユーザーも、ニコ厨(ニコニコ動画で調子に乗っている中学生)と揶揄された。

 

でも、それがユーザーや世間に評価された。

自由な発想で動画を作る彼らの努力が認められた。

ニコニコ動画は、お上品な芸術を作るエリート以外のクリエイターを生み出したのだ。

 

ニコニコ動画出身のアーティストは……

顔や名前を出さないことで、自由に創作活動ができた。

ネットを通じ、優れた共同者や理解者に出会えた。

動画サイトのおかげでよい作品が広まり、評価された。

現代芸術のお約束を打破するアートを作った。

芸能界・芸術界の慣習とは異なる方法で人気を集めた。

 

ニコニコ動画は役割を終えた?

残念ながら、ニコニコ動画の役割はYouTubeにとって代わられた。

また、個人が作品を有料公開できるネットサービスも増えている。

そういう意味では、歌い手やボカロPの時代は終わったともいえる。

 

一方で、有志による同人クラブイベントなど、まったく新しい文化も生まれている。

これからもインターネットを通じて人が芸術を発表し、集まることは続くだろう。

 

そして、ネット発のアーティストは、すでに大衆の人気を集めている。

2020年も人気アイドルに楽曲提供するなど、彼らの快進撃は止まらない。

*1:ボーカロイドはDTM(デスクトップ・ミュージック)と呼ばれる音楽を作るためのパソコンソフトの一種だ。作曲用キーボードも使えるが、ソフトだけでも曲を作れる。音を鳴らす命令さえ出せれば、楽器を弾けなくても、クリエイターになれる。