人種差別とみなされた理由と改善点
2022年2月に放送・配信されたショートアニメで、黒人差別のおそれがある表現があった。
このアニメは海外でも人気のあるゲームを原作としており、まさに海外から指摘があった。
一度配信が停止されたが、同年3月に修正版が配信された。
何が描かれたのか?
なぜ問題視されたのか?
どう修正されたのか?
この記事にまとめる。
問題視された描写とは?
問題となったのは、日本人のキャラクターがアフリカの動物を意識したフェイスペイントや、服装をする描写だ。
バンドとしてインパクトのある衣装・メイクをしたいという文脈で、そのようなコスチュームを着ていた。
そのコスチュームのまま、平然と物語が進行するくだりがあり、ギャグ的な意図が感じられる。
- 日焼け風メイクの上に、フェイスペイントを塗った肌
- 肌の色の濃い人がライオンの耳や尻尾をつけている
- 肌の色の濃い人が「原始人」のような毛皮を身につけている
- たらこ唇のようなフェイスペイント
が合わさった結果、差別的描写とみなされたようだ。
黒人の身体的特徴を使って笑いを取る行為は、国際的にタブーとされる。
中でも、黒人以外の人が顔を濃い色で塗る行為は、「ブラックフェイス」と呼ばれている。
今回の件もブラックフェイスの一種といえる。
残念ながら、今回のイラストは、アフリカの先住民族を嘲笑するようなデザインになっていた。
このような失敗を防ぐためにも、重要なポイントを抑えておく必要がある。
何がアウトだったのか?
黒人(アフリカ系人)を動物と結びつけるような表現が問題視された。
修正前の絵は、濃い色の肌と動物を組み合わせたものだった。
ネット上では「90年代のギャル文化のパロディや、有名ミュージカルのオマージュ*1では」との擁護もあった。
だが、結果として、アフリカの民族を面白おかしく笑っていると捉えられてしまった。
それに加え、キャラの1人がたらこ唇のようなフェイスペイントをしている。
たらこ唇は黒人に対するステレオタイプのひとつで、過剰な表現は差別にあたる。
例えば、他のキャラは唇を省略しているのに、黒人のキャラだけ唇を描く場合は差別になる。
今回はたらこ唇を描いたことで、ブラックフェイスっぽさがより強調されてしまった。
主な擁護とそれに対する反論
日焼け文化が理解されていない?
結論から言うと、今回の表現を「ただの日焼けだからセーフ」で片付けるのは難しい。
ただ、アジア人における日焼けの文化が白人・黒人に理解されていないとの声もある。
日に焼けると肌の色が濃くなり、日を避けると明るくなるのは、アジア人の身体的特徴である。
その性質を利用して、自己表現として、わざと日焼けをする人も存在する。
反対に、明るい肌の色を目指す美白の文化も、古くから存在する。
アジア人の日焼け文化と、ブラックフェイスの区別がついていない人がいる。
あるいは、美白を白人至上主義と形容する人もいる。
アジア人とそれ以外の人々の間で、前提が共有されていないのが現状だ。
では、今回のように肌の色が濃く変わる描写はOKなのか?
残念ながら、OKとは言いがたい。
このアニメでは、さまざまな要素が合わさって、差別的な表現の可能性が強まっていた。
肌の色を塗ったから、黒人差別という単純な話ではない。
企業にも表現の自由?
このような炎上に対しては「企業にも表現の自由がある」との指摘が多く聞かれる。
しかし、生活者からあからさまな批判を浴びる表現を続けたところで、企業に利益はない。
例えば、タイツを扱うメーカーが、タイツを履いた女性の萌え絵を投稿した。
広告の一環だったイラストは、女性の性的消費だとみなされ、炎上した*2。
擁護の声もあったが、それはタイツを買わない人によるものと思われる。
不適切な表現によって、顧客からの信用は失われる。
意識が高い先進国を含む、海外進出への希望も絶たれることだろう。
なお、日本ではなにか表現をする際に、政府からの圧力がかかることはない。
表現の自由のない国と違い、警察に拘束されない。
その一方で、世間に対し、不適切な表現をした責任は求められるのだ。
過剰な表現規制? 差別はアジア人・白人に対しても
こうした人種差別の指摘については、「人権団体などによる過剰な表現規制だ」という批判もみられる。
だが、そのような批判は、差別的表現を軽く見すぎている。
人種に関係なく、身体的な特徴に関するステレオタイプを過剰に表現したものがNGとされているのだ。
例えば、目を吊り上げるジェスチャーは、アジア人にとって侮辱的であると知られている。
目が細いという身体的特徴を過剰に表現したもので、世界中のアジア人から非難されている。
アジア人のスポーツ選手に対し、そうしたジェスチャーをした選手が処分を受けた例もある。
2014年には金髪のカツラに、つけ鼻をした日本の航空会社のCMが削除・修正された。
金髪で鼻が高いという白人の特徴を、あざ笑うような表現になっていた。
差別意識やステレオタイプは白人に対しても存在しているのだ。
いずれにしても、身体的特徴を笑うような表現は認められづらくなっている*3。
黒人だけが差別に敏感で、過剰に守られているという認識は間違いだ。
もう少し差別問題を深刻に、広い視野で考えてほしい。
黒人差別への対処 前例に学ぶ
黒人差別との指摘を受け、あるいはそうした指摘を避けるために、デザインの変更をした前例がある。
『シャーマンキング』の「チョコラブ」は黒人という設定で、たらこ唇が極端に描かれていた。
2021年にリメイクされたアニメでは、たらこ唇のないデザインに変更された。
同様に、『ポケットモンスター』の「ルージュラ」も、初期は真っ黒な肌のデザインだった。
現在は、たらこ唇を残したままで、肌が紫色になっている。
これらの変更は物語に大きな影響を与えるものではない。
変更を受け入れていないファンもいるが、元に戻せという抗議の声があがるほどではない。
子ども向けのアニメでこうした変更をしたのは、英断と考える。
とくに子どもはアニメから影響を受けやすく、日常的にアニメキャラの真似をする。
そうした中で、特定の身体的特徴がおかしい・面白いと学習してしまう。
軽率な表現は視聴者の意識を変えてしまうのだ。
ダメな表現 ガイドライン化を
黒人差別になりうる表現があったのは、日本や地球上で初めてではない。
何回か問題があった中で、今回また誰かが地雷を踏み抜いたのだ。
業界や国の中でノウハウが共有されていれば、このような問題は起きなかっただろう。
どのような表現が差別にあたるのか、ガイドラインの作成や情報共有が求められている。
たしかに、海外の作品は、キャラクターの人種・性別のバランスでがんじがらめになっているようにも思える。
しかしながら、それはさまざまな背景を持つ視聴者のためにも必要なことだ。
海外で配信される日本製アニメが増える中で、NGな表現の排除が急務となっている。
適切な表現の中でよいものを
ちなみに、今回のアニメの修正版では、問題になった表現を全面的に差し替えた。
ネコ科の動物のコスチュームは残しつつ、
- 肌の色はキャラ本来のものを使用する。
- フェイスペイントをしない。
- それぞれが異なるネコ科の動物の耳や尻尾をつけている。
- 動物柄(ヒョウなど)の服を着用するが、「原始人」を意識した毛皮ではない。
という具合に工夫されている。
当初のシナリオで想定していたインパクトは、薄れてしまったかもしれない。
しかし、特定の人を傷つける内容は避けられていると思う。
適切な工夫をすれば、人種差別をしなくても笑いが取れるのだ。